インターネットの出現で大きく変わった習慣の一つが「予約」だろう。飛行機や電車などの移動手段や、宿泊施設、レストランなど今や多くの「予約」がインターネットで可能になった。この「予約」習慣にまた新たに1つ追加されそうなのが、駐車場予約だ。

 クルマで出かけた時、駐車場が見当たらずに目的地周辺をさまよい続けるという経験はドライバーなら誰しもが一度は経験したことがあるだろう。このストレスを「予約」で解決できるサービスを展開する企業が増えている。「軒先パーキング」や「akippa(アキッパ)」、「トメレタ」などがそれ。8月9日にはパーク24も参入を発表し、いよいよ競争が激しくなりそうだ。

 軒先パーキングは2012年、akippaは2014年、トメレタは2015年開始とどれも比較的新しいサービスだ。自宅の敷地内の駐車場や、所有する月極駐車場が空いているときに、それらを時間貸しできる。サービス開始直後これらのサービスはどちらかというと「予約できる駐車場」というよりは、「シェアする駐車場」という打ち出し方が強かった。貸したい個人と借りたい個人を「CtoC」サービスでマッチングさせる、いわゆる「シェアリングサービス」や「シェアリングエコノミー」の文脈で語られることが多かった。日経ビジネスでも、以前貸し主に焦点を当てた記事を掲載している。(自宅の駐車場で月6万円稼ぎましょう

駐車場料金は需給に合わせて変えられる

 「予約できる駐車場」という魅力を打ち出せるようになってきたのは、駐車場の数が増えてきたことの裏返しでもある。複数あるサービスのうちでも特に、アキッパの存在感が増している。

 コインパーキング業界のトップは、パーク24のタイムズで、約16000カ所の駐車スペースを運営している。それに対し、アキッパは、現在6000カ所と業界3位にまで上り詰めた。もっとも、パーク24が運営する駐車場に停められる「駐車台数」となるとその数は63万台以上。1カ所あたりに数十台停められるタイムズに比べ、アキッパの1カ所あたりの駐車台数は平均1~2台であることから、駐車可能台数から見ればその差はまだ大きい。

 ただ、アキッパの強みは、パーク24が“手出しできない”駐車場を獲得してきたことにある。どういうことか。パーク24が運営する駐車場は、基本的に複数台停められるスペースがあり、そこに土地の賃貸料を上回る利益が見込めることが条件となる。当然、幹線道路付近や人通りが多い場所で、常時需要が高く、それなりのスペースが確保できる場所、などその条件となるハードルは高い。

 一方、アキッパの場合、スペースは1台から。土地は賃貸するのではなく、地主や借り主と、駐車された分だけ駐車料金をレベニューシェアするため、常に満車になるような需要の高いところでなくても「十分にペイする」(アキッパの金谷元気社長)。

 例えば、野球場などのスタジアム周辺。試合やコンサートが行われる日は、周辺の駐車場ニーズは一気に高まる。一方、イベントがない日時は駐車場は空きスペースと化す。需要のコントロールが難しいため、スタジアムの周りにタイムズが何カ所にも駐車場を設置するのはそのビジネススキームからして相性がよくない。

 一方、周辺の月極駐車場はどうか。月極では契約がなく空いている駐車場が、月に何度かでも試合があるときに“稼いでくれる”駐車場になれば、貸し手のメリットは大きい。当然、コインパーキングに停められなかったドライバーにとっても嬉しいはずだ。

 貸し手は、試合のある日は値段を高くするなど、需給に合わせた料金設定を自由にできるのも魅力だ。スタジアムでイベントがあるときは高く、ないときは安くすることが可能で、固定料金の他のコインパーキングに比べて競争力を発揮できる。常時情報を更新できるネット予約可能な駐車場ならではの仕組みといえそうだ。アキッパでは、駐車料金の6割が貸し手に入る。

 貸し手は地主だけではない。例えば、自分自身が借りている月極駐車場があるとする。仕事に行く平日昼間は空きスペースとなったときに、地主との相談によってそのスペースをアキッパを通じて時間貸しすることも可能だ。

「コバンザメ作戦」でパーク24を猛追

 ある程度の台数が停められることが条件となるタイムズに比べ、1台からでも契約ができることも強みだ。「タイムズがある場所は狙い目。需要があることの裏返しだからです。一方で、1台単位の駐車場はパーク24は獲得できない。『コバンザメ作戦』で、その近くに開設することは一番手っ取り早い方法です」(金谷社長)。アキッパの営業担当には、パーク24出身の社員もいるという。

 台数の制限や需給のコントロールなどがタイムズに比べて自由がきくという意味で、タイムズとは違うスキームで同社を猛追するアキッパ。こうして獲得した6000カ所をスマートフォンから簡単に予約できるという世界を切り拓いた。「すでに、甲子園球場の周りでは、駐車場の予約がかなり『普通』になってきています」(金谷社長)。

 数では勝るパーク24も、駐車場予約、駐車場の貸し手と借り主を直接マッチングさせる、という2点においては、完全に後塵を拝していた。8月26日から開始する「B-Times(ビータイムズ)」でどれくらい巻き返しを図れるかは、大手といえども未知数だ。タイムズ周辺を時間をかけて開拓してきたアキッパの先行者利益は小さくない。「駐車場予約」「CtoC」という新たな駐車場サービスで新規参入を果たしたアキッパが、パーク24と肩を並べることになるということも現実味を帯びてきた。

 ちょうど1年ほど前、パーク24の西川光一社長に取材したときに、こんなことを言っていたのを思い出した。「この業界は想像がつかないほど供給が足りていない業界。参入障壁もかなり低いので、もっと群雄割拠になってもいい業界のはずなんですけどね」。トップの余裕とも言えるその言葉に、当時、記者もなぜ競合が多くないのだろうかと頭を悩ませていた。そして今、ようやくそのパーク24を脅かす競合が出てきたともいえるかもしれない。

 アキッパは現在、企業との連携を強化している最中だ。7月14日には京浜電鉄と提携し、同社が所有・運営する月極駐車場の空きスペースをアキッパを通じて貸し出しを行う。そのほかにもレストランやマンションデベロッパー、不動産などと次々と提携し、駐車場数の拡大をしている。

 アキッパはこのまま駐車場運営会社になるつもりはない。「クルマ周辺事業にはまだまだ参入余地はあると思っている」(金谷社長)と鼻息は荒い。

 規模を持った既存のサービスを「スマホファースト」で攻めることで凌駕した例は少なくない。それはヤフーニュースに対するスマートニュースであり、ヤフーオークションに対するメルカリであり、枚挙にいとまがない。アキッパもまた、駐車場やクルマ業界の勢力地図をガラリと変えるポテンシャルを持っている。

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