多様な個人間レンタルサービスが立ち上がっている。普段使っていないスペースやモノを必要な人に貸し出す。以前は家族や友人の間で細々とやり取りされていた個人間レンタルは、インターネットの普及、さらにはスマートフォンやタブレット端末のアプリの普及によって、不特定多数の利用者間でのレンタルサービスへと拡大しつつある。
その中でも有望な市場が、自宅などの使っていない駐車スペースのレンタルサービスだ。
アプリで事前に予約ができる
私を含め、クルマを運転する人の多くが、出先で駐車場の空きがなくて困った経験をお持ちだろう。特に東京や大阪、名古屋など大都市の中心街では駐車スペースが足りない所が多い。目的地には着いたものの、近所の駐車場がどこも満車で立ち往生することもある。
だが、クルマでぐるぐると目的地の周辺を巡っていると空いている駐車スペースが目に飛び込んでくる。休業している店舗やオフィスビルの前にある駐車スペース、月ぎめ駐車場の空きスペース、マンションや個人宅の空き駐車場だ。「あそこに停められたらいいのに…」と思ったことがある方も多いと思う。
こうした利用されていない駐車場に注目して、駐車場を貸したい人と借りたい人をマッチングするサービスを始めたのが「軒先」(東京都目黒区)や「akippa」(あきっぱ、大阪市)などのネットベンチャーだ。
軒先は社名通り、元々は、オフィスやマンションなどの空きスペースのレンタルサービスを展開するベンチャーだが、利用者から使っていない駐車場を貸し出したいという要望が増えたため、インターネット上の仲介サービス「軒先パーキング」を2012年から開始した。
一方、akippaは元々は携帯電話の販売業などを手がけていたが、社員のアイデアから生まれた駐車場仲介サービス「あきっぱ!」を2014年から開始して以来、駐車場ビジネスに注力している。
事業モデルはシンプルだ。まず保有する駐車スペースを貸したいオーナーは駐車場仲介サイトに登録をする。毎日貸し出すこともできるし、1日単位で貸せる日付や曜日を好きに選ぶこともできる。例えばクルマを持っていない人が自宅駐車場を貸す場合、日中留守にしている平日だけ貸して、自宅で過ごす週末は貸し出さない、といった設定が可能だ。企業や店舗などの場合も、休業日だけ貸し出せる。
料金は利用者が好きに設定できるが、周辺の相場などから仲介サイトの担当者と相談して決めることが多い。akippaの金谷元気社長は「最初は料金を安めに設定して駐車スペースの認知度を高め、その後、人気が出てきたら徐々に料金を上げていくケースが多い」と話す。
こうして登録された駐車スペースを借りたい人は、サービスに登録した上で、パソコンやスマホで検索して予約を入れる。目的地に近づいてからアプリを使って、地図上から駐車場所を選ぶこともできる。
金谷社長は「コインパーキングに対する最大の利点は事前に予約ができることだ」と強調する。予め駐車場を抑えておけば、現地に着いてから停められずに困ることはない。
1カ月で6万円稼ぎ出す場所も
貸す側のオーナーにとってのメリットは、何と言っても副収入を得られることだ。ネットに登録すればあとは自動的にマッチングされるので、何もしなくていい。東京都杉並区の自宅駐車場をakippaでレンタルしている男性は「自宅から出かけるときなどにクルマが止まっているのを見て『ああ、今日も利用してる方がいるな』と思う程度。利用者に会うこともほどんどない」と話す。
公共交通が発達した都心のため、この男性はマイカーを持たず、自宅前の駐車スペースも長らく空いていた。会社を退職したのを機に副収入を得ることを考え、akippaに登録している。料金は1日900円だ。
野球場やコンサート会場、スカイツリーなど観光スポット周辺の場所では1日数千円での貸し出しが可能で「1台分のスペースで月6万円の収入を得る場所もある」(軒先の西浦明子社長)と言う。
個人以外では月ぎめ駐車場の空き部分や、マンションの駐車場の空きスペースを一時的にレンタルに出すケースが多い。月ぎめで契約したいという人が現れれば、仲介サイトでの紹介を停止すればいい。
軒先パーキングは現在2500台分を扱う。2017年には1万5000台を目指している。一方のakippaも既に4500カ所をレンタルしており、当面の目標は2万カ所だ。
仲介する企業はレンタル料金に対する仲介料を得る仕組み。ネットで仲介する手軽さから参入企業が増えている。akippaの金谷社長は「始まったばかりのサービスで市場はまだまだ伸びるが、先に多くの空きスペースを確保した企業が生き残っていくだろう」と話す。今後、企業間の競争は激しさを増していきそうだ。
気になるトラブルも「ほとんどなし」
欧米生まれのシェアリングサービスが日本に上陸しつつある中、サービスの利用には抵抗のある人もいるだろう。だが、2015年版情報通信白書(総務省)によると、モノのレンタルや個人宅の宿泊に比べ、個人駐車場の利用には前向きなアンケート結果もある。「利用したい」と「検討してもよい」を合わせた割合はモノのレンタル(31.2%)、個人宅の宿泊(26.4%)に比べ個人駐車場は56.5%と半数以上に上った。
気になるトラブルだが、軒先、akippaともオーナーと利用者の間でもめ事が発生することは「ほとんどない」と言う。両社とも会員制のクレジットカード決済のため、利用者が特定できることもその背景にある。
記者もかつて都心に住んでいた折、自宅マンションの駐車場に空きがなく、近所にある戸建ての友人宅の駐車場を借りていたことがある。「気の知れた友人だから」貸してくれたことは間違いないが、全く知らない他人であっても、騒音や物損対策などで一定のルールを守ってもらう前提なら、貸してもいいと思う人も今後は出てくるだろう。
モノや宿泊などさまざまな分野でのレンタルが発展し、ひいてはシェアリングエコノミーという新しい形の消費スタイルが日本に根付いていく、 駐車場がそのきっかけになる可能性もありそうだ。
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