寺院に依存してきた仏具店がピンチ(仏壇・仏具店が並ぶ博多・川端通り商店街)
寺院に依存してきた仏具店がピンチ(仏壇・仏具店が並ぶ博多・川端通り商店街)

 地方の過疎化や核家族化に伴い、多くの寺院が存続の危機にある。拙著『寺院消滅~失われる「地方」と「宗教」~』では、苦境に立たされた寺の実態をリポートした。読者の中には、「寺がなくなるのは自明のこと。自分は一向に困らない」という手厳しい意見もあった。

 一方で、寺院がなくなれば困る業界が存在するのも確かだ。仏壇・仏具、法衣、墓石、葬祭…。寺院を取り巻くビジネスは多岐にわたる。ここでは仏具屋や葬儀屋の目線で「寺院消滅」について論じてみたい。

寺院の戦後復興で需要拡大

 まずは、寺院経営が衰退しているひとつの指標を紹介する。

 浄土宗は2012年から2013年にかけて、過疎地にある寺院(863カ寺)を対象にアンケートを実施した。1990年初頭から20年間の檀家の戸数の変化を問うた質問に対し、約60%の寺院が「減少した」と回答。一方で、「増加した」と回答したのは14%にとどまった。檀家の減少は寺院経営に直結し、いずれ寺を維持することが難しくなる。

 次に同時期の宗教用具の国内製造出荷額を見てみたい。ピークは1990年の1299億円で、以降、減少傾向にあり、2007年時点で476億円となっている(経済産業省製造産業局調べ)。最盛期の3分の1近くの規模だ。寺院経営が逼迫する傾向以上に、仏具業界はより大きくダメージを受けているようだ。

 仏具・仏像などを手掛ける宗像(埼玉県入間市)の三浦美紀男社長は、寺院の衰退に危機感を募らせるひとりだ。三浦さんは25年ほど前までの業界を振り返る。

 「仏具業界はお寺さんに対するカタログ販売が主流です。バブル期まではさほど営業努力をせずとも、高額な仏具を次々と納入していただけるような時代でした」

 大戦中は全国の寺が空襲で焼かれた。多くの檀家の親族が戦死した。寺院の再建と、檀家の供養心が相まって、戦後しばらくは寺に多くの仏具が納められた。高度成長期からバブル期にかけての景気上昇局面では、高額の仏具が飛ぶように売れ、檀家は競うように寺に寄進した。

 一方、家庭でも豪奢な仏壇にニーズが集まった。

宗像が開発した、仏壇に替わる家庭用仏像
宗像が開発した、仏壇に替わる家庭用仏像

 ところが、地方の人口減・高齢化によって寺院が疲弊し始めると、状況は一変する。

 「今、お寺さんの厳しい実情をひしひしと感じています。同時に寺に依存していたこの業界もじり貧になっています」(三浦さん)。

 宗像ではおよそ10年前、取引先寺院の数は約5000カ寺で約12億円の売り上げがあった。ところが現在、売り上げがおよそ3億円までに減っているという。

 同社では販売戦略の見直しを迫られた。折しも2000年以降、禅ブームが到来。各地の禅寺に坐禅堂が造られ、堂内に置く文殊菩薩像に需要が集まり出していた。

禅ブームで安い仏像が売れた

 日本人の仏師の手による名作ならば、小さいサイズでも100万円は下らない。同社では台湾で仏像を制作することでコストを抑え、国内製の約4分の1ほどの市価で販売したところ、寺からの評判は上々だった。

 一方、檀家側に目を向ければ、死生観の変化が著しい。その指標になるのが仏壇だ。特に近年、都会のマンション家庭では、古色蒼然とした厨子入りの仏壇を設置することを敬遠する傾向にある。そもそも、今どきの新築分譲マンションで仏間を備える物件はほぼ皆無だ。

 そこで宗像では、インテリアとしても洒落ているミニ仏像を開発した。ターゲットは田舎に戻らない次男や娘。タンスの上や書斎などの省スペースに置けることが受けている。故郷に帰らずとも手元で肉親を供養できる安心感も持てる。

 宗像のケースを見ても、今や仏壇屋は寺に依存し、座して待つ旧来型のビジネスでは生き残れないことを示している。が、しかし、と三浦さんは言う。

 「そうは言っても、我々はお寺さんあってのもの。私どもは寺のことを、故郷の象徴として見ています。ひとたび都会に移り住めば、田舎の寺とは疎遠になってしまう。しかし、どこか心の片隅に故郷を感じてもらいたい。お寺さんともアイデアを出し合いながら、今のライフスタイルに合わせた商品開発が求められています」。

 三浦さんは、都会に出た若者に対し、イザという時のためにも、故郷の寺と繋がっておくことが大事、と訴える。

 「仮に故郷の実家がなくなっても、菩提寺やお墓が存在している限り、故郷であり続ける。仮に東日本大震災のような局面はいつやってくるか分からない。都会に出た人のアジール(避難所)としても、寺院は残るべきだし、存続のためにご住職には頑張ってもらいたい」

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