安全保障関連法案の成立に向け9月末まで大幅延長された今通常国会。与野党の攻防が激化する中、永田町で「解散・総選挙」説がささやかれている。昨年末の衆院選から1年も立たない間にそろりと吹き始めた「解散風」。その真偽は――。

 9月27日まで大幅に延長された今通常国会。最大の焦点である安全保障関連法案を巡る与野党の攻防が激化してきた。与党は衆院特別委員会での採決を今月中旬に行う方針を固めたが、これに野党が強く反発している。

テレビ出演で国民にアピールへ

 自民、公明の両党が採決を進める構えなのは、特別委の審議がもうすぐ衆院通過の目安となる80時間を超えることに加え、参院が60日以内に議決しなければ否決したとみなして衆院で再可決して成立させる「60日ルール」の適用が念頭にあるためだ。

 安倍晋三首相は安保法案の成立に不退転の決意で臨んでおり、与党は採決の際に維新の党から協力を得やすくするための環境整備を急ぐ。安倍首相の周辺によると、各種世論調査で安保法案への国民の理解が広がっていない現状を踏まえ、今後は安倍首相自らテレビ番組への出演の機会を増やすなどして国民に直接、法案の重要性を訴えていく戦略を練っているという。

 与野党の攻防がいよいよ緊迫化する中、ここにきて与野党内でにわかに語られだしたあるシナリオがある。「9月解散・総選挙」説だ。

 いわく「仮に不測の事態で安保法案の成立の見通しが立たなくなったら、安倍首相は安保法案への賛否を大義名分に勝負に打って出る」「いや、安保法案が成立したところで国民に信を問い、政権基盤の再強化を狙っている」――などというものだ。

 昨年末の解散から1年も経過していないというのに、永田町にそろりと吹き始めた「解散風」。冗談の一言で済まされる類の話のように思えるが、何しろ安倍首相には「不意打ち解散」を成功裏に導いた実績がある。

 「火のないところに煙は立たない」というが、関係者をあれこれ探ってみると、どうやら火元は首相官邸や、安倍首相に近い自民議員で、それを民主党をはじめとする野党が増幅しているという構図のようだ。

 かすかな「微風」とはいえ、与野党双方で解散風が流れ出したのにはどんな背景があるのだろうか。

 まずは官邸にとってのメリットについて、自民のベテラン議員はこう解説する。

狙いは与党引締めと野党への「脅し」?

 「1つは自民党内の引き締めと、公明へのけん制だろう。若手勉強会で報道の自由を制限するような発言が相次いだように、自民内は緩みまくっている。公明も維新に接近する官邸を警戒し、官邸と関係がぎくしゃくしていた。さすがにみんな選挙続きで疲弊している。解散をちらつかせ、安倍さんの言うことを聞けということでしょう」

 「もう1つは野党へのけん制というか、脅し。野党は再編への動きが停滞し、民主党も選挙準備はあまり進んでいない。安保法案の対応を巡って党が割れている維新も今解散されたら、つらい。法案審議や採決で維新から協力を取り付けるための仕掛けじゃないか」

 実は、安倍首相と側近には成功体験がある。昨年7月、政府は集団的自衛権の行使を容認する閣議決定をしたが、そこに至るまでには自民や公明の慎重派との暗闘が続いていた。論議が難航する最中、まことしやかに永田町を駆け巡ったのが、「この問題がこじれた場合、安倍首相は解散に打って出る」との情報だった。

 当時、火元とささやかれたのが安倍首相の周辺。自民の中堅議員は「自民内を黙らせ、公明をけん制する大きな効果があった」と振り返る。

 ただ、仮に今回もそうした思惑があっての工作だとしても、同じような有効打になりそうかといえば自民内では懐疑的な見方が多い。

 安倍首相に批判的な自民議員は「政権が上り調子の時なら解散カードは有効なけん制材料になるだろうが、今は内閣支持率が下降気味。ほとんど効かないと思う」と指摘する。

 では、一方の野党側の受け止めはどうだろうか。

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