ご相談

4月の異動でやってきた上司が、駄洒落を連発する人で困っています。とても忙しい中、どうしようもなくつまらない駄洒落に、いちいちリアクションしなければならないストレスで、会社に行くのが苦痛です。面倒なので聞こえないふりをしていると、「あれ、すべっちゃったな~」と、懲りもせずにリアクションを強要してきます。最悪です。先日の職場の飲み会で「駄洒落は職場の潤滑油だからね~」などと言っているのを聞き、これからもこの環境が続くのかと考えただけで、体調が悪くなりました。「たかが駄洒落」にこんな反応をする私がおかしいのでしょうか…。(20代女性)

遙から

 駄洒落好きの男性はどこにでもいる。芸能界にも普通にいる。この迷惑さについて書いてみようと思う。駄洒落自体が迷惑というより、それを誰がどういう目的で使うかをひも解いていくと、その奥にある精神性に対して私は嫌悪がある。ただしすべての駄洒落に対してではない。それを売りにするプロの芸人さんの芸は別だ。駄洒落が見事だったり、可愛げに映ることもある。駄洒落などやりそうにない社長さんとかが、たった一回出す駄洒落だったらその意外性から好感度アップということもあるだろう。

デーブさんは別として

 例えばデーブ・スペクターさんの場合なら、彼はまず外国人で、その外国人が言葉遊びを出来るほど日本語能力に長けていることを前提として駄洒落がある。その能力に対して素直に拍手できる。デーブさんの駄洒落は、それを連発することによって、小憎らしさという付録のようなキャラクターの幅が生まれる。知的外国人タレントさんだが、小憎らしいほど日本語を巧みに操ることができる才能を楽しむ人は少なくないはずだ。

 だが、これが他の男性ならどうだろう。

 視聴率が伸び悩んでいるという番組に私の知人男性タレントが出演しており、観てみた。

 すると、男性が駄洒落を何度も飛ばし得意げになっている姿が印象に残った。

 「これだ…」と、視聴率と関係するあくまで一要因を発見した気分だった。視聴者はその番組では圧倒的に主婦層。なら、女性に嫌われる行為を連発していては数字獲得も難しかろう。

 大きなお世話なのは分かっている。だが駄洒落好きの男性たちのいったい何人が、女性たちに決して喜ばれてはいないことを知っているだろうか。

 私自身、駄洒落を連発して得意げになっている天気予報士のお天気コーナーが始まったら、チャンネルを変える。

 天気は知りたいが、それを超えるほどの嫌悪が、"男性が得意げになって言う駄洒落と、それを笑顔で迎える女性陣"という構図に湧き上がって仕方がないのだ。

キャーと言ってもらいたい症候群

 デーブさんのそれと違い、いわゆる駄洒落連発男性の精神性には、"女性を喜ばせたい""拍手をしてほしい"など、その対象が女性にあることが多いと思われる。

 居酒屋を見回して男性だけの宴席で駄洒落連発というのを見た覚えがないし、番組では駄洒落の後に女性の「今日は決まりましたねー」やら「今日はちょっと惜しいですねー」やらの反応が入る。

 駄洒落の発信者が欲してやまないのは「俺って女性を喜ばせられる」という快楽に過ぎないのではないか。番組の構成上、女性陣がそこに乗っかって喜んで見せるしかない構図の痛々しさに、予報を捨ててでも駄洒落を聞きたくない気持ちに私はなる。

 実際、女子会で女性から駄洒落が連発されることは私自身、経験がない。女性同士の会話で、駄洒落男を指して、ウザイ、という感想は普通にある。それでも仕事場で駄洒落を言われると無視しきれない現場の空気というものもある。駄洒落を言われたが最後、キャーと、ちょっと笑って付き合わざるを得ないのだ。

 素人の駄洒落とはつまり、女性にキャーと言ってもらいたい症候群といおうか。とにかく迷惑なのだ。

 私はさっそく、視聴率が取れない番組でいまだ駄洒落を連発している男性に心から忠告しようと思った。

 朝、その男性とメイク室で会った。単刀直入に言った。

 「おはようございます。番組見ました。駄洒落ダメです。女性は駄洒落嫌いです」と。

 男性は、一瞬憮然とした表情になり、私を疑う目で見て反論した。

 「そんなことを言われたのは、生まれて初めてだ」と。あきらかに憤慨している。

 意外だ、信じられない。君だけの感性ではないか? なぜなら今までひと言だってそんなことを注意されたことがないから。が、彼の言い分だった。

 私は説明した。

 「女性は本当のことを言わないんです。あなたは本当のことを言わない女性に今まで騙されて知らないで来ただけ。女性たちは駄洒落が嫌いなんです。だから言っちゃダメ」

 男性を被害者に見立てた説得アプローチを試みた。だが彼はまだ釈然としていない。

メークさんに聞きました

 そこで横を通りがかった若いメイクの女性を捕まえた。初対面の女性だったが、その駄洒落男性の前で聞いてみた。

 「あなた、男性の言う駄洒落、好き?」

 一か八かの勝負だった。タレントを前にしてメイクさんが果たして本当の事を言うだろうか。

 まだ20代くらいの若手女性だ。女性は慎重に発言した。

 「駄洒落を言われると…笑います。でも、好きか嫌いかと聞かれたら…」

 私も男性も息をのんで回答を待った。

 「…嫌いです」

 そう言い残してメイクさんは去った。リップサービスは一切なし。正直に答えてくれてありがとう。

 私が男性に「ほらね。誰に聞いても、現実はこうなの。女性が本心を語らなかっただけ」

 それでも男性は釈然としていない。

 そこで聞いてみた。

 「どうしても駄洒落が言いたいの?」
 「言いたい…」
 「じゃあ、一回だけ。連発しちゃダメ。女性は嫌いだからね」
 「…わかった」

 最後まで駄洒落を言う権利を手放さなかった男性の執着はいったいどこにあるのだろう。

 私は、それは、自信のなさ、だと考えている。

 目の前の女性たちの笑顔や拍手を得ることで、一瞬、自分の存在に手応えを感じることができるのではないか。それは新地や銀座のホステスさん達がもたらした罪であり、その感触を職場に持ち込んだ男性の世間知らずでもある。

手品もね…

 似た症例に、やたらと人前で手品をやりたがる、というケースがある。動機も目的も、駄洒落好きと似ている。

 ほしいのは笑顔と喝采であり、受け手側の本音の「めんどくさっ」という感情は配慮の名のもとに封殺される。

 素人の駄洒落好きと素人の手品好きの男性に通じるところは、どちらも相手が男性の場合にはそれを繰り出さないこと。男性が男性に対して、満面の笑顔で「ほーら、僕の手元を見てごらん」と、手品でコミュニケーションを図ろうとしている光景を見たことがない。あるのかもしれないが、私は幸いにも見たことがない。駄洒落好きも手品好きも女性の「すっごーい」をもらうことをその目的としている。その線は極めて濃厚と考えるが、いかがだろう。

 駄洒落に対し、「もう、いい加減にしてください」と女性から言ってもらえるデーブさんのそれとは雲泥の差がある。デーブさんの駄洒落には日本語習得への驚きと敬意があり、同時に、その愛されキャラから女性は本音を言うことを許される。つまり、プロ、だ。

 デーブさんには怒れても、一般男性に対しては叱ることができない息詰まりな面倒さをもたらすのが駄洒落だ。

 先の駄洒落男性は、私が「駄洒落はダメ」と言えるくらいに親しく、なにしろ良い人柄だから、私のおせっかいな意見を耳に届けることができた。好きか嫌いか問われれば、好きな男性の部類なのだ。

 だから、他の女性タレントにも、「彼はとてもいい人だ」と本人のいない場所では私はその駄洒落男性のことを誉めてきた。

 …が、女性タレントの反応は違った。

 初対面の時、その駄洒落男性は、いきなり、ポケットに手をつっこみ、こう言ったそうだ。

 「あれ?こんなところに、折り紙が…」

 そして、やにわにその紙で女性の前で手品を始めたという。

 女性の感想は、「遙さんは、いい人だって言うけど、フツーのおやじだったわよ」

 手品を始められた女性は、その役割として「すっごーい」と言わざるを得ない構図の中で、大人の反応をしてあげたそうだ。その面倒臭さが、「フツーのおやじ」という表現になった。かなり手加減した表現であることがうかがえる。

 つまりは、駄洒落好きで手品好きという、二つもの症状が備わっている深刻な"いい人"なのだった。

 女性たちに目の前で「キャー」と言われたい、その感情が職場でも銀座でも同じステージのように実現できてしまう。

 女性の「キャー」には、嘘が多い、と、教えてあげても信用しない。

 目の前で若い女性に「嫌いです」と教えてもらっても、信用したくない。

 そこまで執着するほど、駄洒落を手放したくない。その頑なさの裏にあるものは何か。やはり私には、自信のなさしか思い浮かばないのだ。

とりあえず連発禁止で

 女性が本音を言ったら、おそらく、企業も社会も夫婦も成り立たなくなるのではないか。「生まれて初めて言われた」という男性は、つまりは妻にも言われたことがないということだ。私にはかなり深刻だと思えてならない。

 「たかが駄洒落じゃないか。好きに言わせてくれよ」。もちろん、取り締まる法律もないし、表現の自由は侵されてはならない。あなたには駄洒落を行使する権利がある。しかし、それがあなたにとってプラスなのかは冷静に考えた方がよいですよと、やるならプロはだしの技が欲しいですねと、まことに余計なお世話ながら申し上げておく。

 私はそれが自分の役割だと思って、職場で駄洒落を連発されても表情を一ミリも変えないが、世の多くの女性たちは面と向かって心情を吐露することが難しいと考えると、ここは直接、重症患者の方々に目を覚ましていただくしかないのかもしれない。

 あなた、嫌われてますよ。

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