『この保険、解約してもいいですか?』(日経BP)を刊行。有料の保険相談を長年、続けてきた後田亨氏が、生命保険代理店などが開く無料セミナーの落とし穴を考察する。

保険代理店で働くある人から、近々、退社するつもりだと連絡を受けた。
「今、NISAに関心を持っている人が多いので、うちの代理店でも『資産形成について学ぼう』といったテーマで、無料セミナーを開催しています。そこで『変額保険』を勧めているのですが、個人的には罪の意識もあって……」
ということだった。
変額保険の保有件数は9年間で3倍に
変額保険の販売は伸びている。生命保険協会が毎年まとめる「生命保険の動向」によると、変額保険の保有契約件数・保有契約高(保険金等の総額)は、共に右肩上がりで、確認可能な2014年から23年までの10年間で、保有契約件数は3倍近く、保有契約高は約3.5倍に増えている。
変額保険は、保険加入者が払った保険料を、保険会社が投資信託などで運用する保険だ。運用の成果により、解約時に払い戻しされる払戻金(解約返戻金:かいやくへんれいきん)の額や、死亡時に遺族などが受け取る保険金の額が変動する。
運用成績によっては、お金が減ってしまう仕組みだが、死亡保険金には最低保証額があり、運用の成果が不調でも、これを下回ることはない。逆に、運用の成果が一定水準を超えると、保険金額が最低保証額を上回る可能性はある。いい話だと思う人もいるかもしれない。
なぜ、変額保険は「良心が痛む」のか?
代理店の人が、罪の意識を感じているのは、無料セミナーという形で「資産形成に関心がある人を集め、資産形成に不向きな商品を売っている」からだ。変額保険は、代理店手数料などの諸費用が高く、運用や積み立てに回るお金が少ない。この事実を知っている人にとっては、良心が痛む商品なのだ。
しかし、保険商品の販売実績に応じて、保険会社から報酬を得ている代理店としては、声高にデメリット情報を語るわけにはいかない。そこで、セミナーでは、次の論法で変額保険のメリットを説くという。
1. 国の年金制度を支える現役世代の人口が減っている。老後資金準備における自助努力が大切である。
2. 株式などを対象に「長期・分散投資」をすると、お金が増えやすい。そして、変額保険は、保険加入者から預かったお金を「長期・分散投資」する仕組みである。
※ ここで新NISA(少額投資非課税制度)について触れ、聴衆の興味を引く。
3. 変額保険には死亡保障もついていて「生命保険料控除」も受けられる
4. 変額保険に「特定疾病保険料免除特約」を付加すると、がんなどにかかって所定の状態になった場合、保険料払い込みが免除され、その後も保険料を満期まで払ったのと同じ条件で契約が存続する
5. FP(ファイナンシャルプランナー)資格を持つ担当者が加入後もフォローする
……といった話をして、セミナー終了後、個別面談や面談予約に誘導しているという。
【お申し込み初月無料】有料会員なら…
- 専門記者によるオリジナルコンテンツが読み放題
- 著名経営者や有識者による動画、ウェビナーが見放題
- 日経ビジネス最新号13年分のバックナンバーが読み放題