任天堂と業務・資本提携を結んだDeNA。「マリオ」や「ポケモン」など世界的に人気のある知的財産(IP)を持つ「垂涎の的」を射止めた。「ソーシャルゲーム・バブル」がはじけ、業績の低迷に苦しむ中のサプライズは、さっそく株高という果実を同社にもたらした。
 提携のきっかけは、2010年6月DeNA側から交渉を申し入れたこと。岩田聡社長との初対面から5年弱。DeNAは、なぜ任天堂との提携にこぎつけることができたと考えているのか。5年越しの思いを果たした守安功社長に、話を聞いた。(聞き手は井上理)

任天堂・岩田聡社長激白、『時が来た』」「任天堂・岩田社長が語る『DeNAとやりたいこと』」も合わせてお読みください。

2010年6月から5年弱。ようやく3月17日の提携発表に至りましたが、まずはどんな思いでいますか?

任天堂との業務・資本提携について語るDeNAの守安功社長(撮影:陶山勉、以下同)

守安:特に海外も含め、想定以上の反響をいただいていまして。やっぱり任天堂さんとこういう取り組みをするということはインパクトのある出来事なんだなと感じています。心境としては、これだけの大きな案件でしたので、きっちりまとまってリリースでき、ほっとしたところがある一方で、期待の大きさを考えると、きちんと結果につなげないといけない。そう、気を引き締めているところでもあります。

長い交渉期間のあいだ、スマートデバイス向けのゲーム市場にはずいぶんと大きな変化がありました。DeNAは、ソーシャルゲーム・ブームに乗り高収益を叩き出しましたが、右肩上がりの時代を経て、2012年頃をピークに業績が下降しています。

選ばれた理由、3つを満たす企業

守安:ユーザーさんの利用状況であるとか、ゲーム業界の変化であるとか、いろいろな変化がありました。2010年の最初の頃に、今の取り組みを見通してアプローチしていたかというと、当然、そうではありません。我々も状況は変わるし、任天堂さんも変わるし、ユーザーさんも変わる。

 我々に関して言えば、ブラウザーで楽しむゲームからゲームアプリへのシフトが起き、やり方を変えないといけなくなった。今回の提携は、あらゆる選択肢がある中で、最良のプランというか、環境変化にうまく適応していくために一番良い取り組みが実現できたと思っています。

任天堂側からしても、さまざまな選択肢があったと思います。17日の発表会見では「DeNAのほかにも組む相手はいるのでは」という質問も出ていましたが、なぜDeNAが選ばれたと思っていますか。

守安:まず、我々がインターネットに強い企業である、ということだと思いますね。かつ、ゲーム事業であるとかコンテンツ事業に対する理解があり、自分たちの名前を前面に押し出さなくてもいいという柔軟な組み方もできる。その3つを満たす企業って、そこまで多くない。

 唯一とまでは言えませんが、今回の取り組みを考えた場合、任天堂さんから見て数社あるかないかのベストパートナー候補のうちの1社なのではないかな、と思います。

会見では「なぜDeNAなのか」という問いに、岩田社長は、断っても繰り返しアタックしてきた「情熱」を評価した、と答えました。任天堂に協業を提案し続けたモチベーションとは何でしょうか。

守安:状況って変わるじゃないですか。一緒にやりましょうと持ちかけ、やりませんよと言われても、半年、1年経てば、自社の状況も変わるし、ユーザーの状況も変われば、他社の競合関係も変わる。自社の中で、ある取り組みに「NO」という意思決定をしても、1年後もNOかというと、そうじゃない。なので、時間が経てば、意思決定も変わり得るよねというのが、まず1点ですね。

 あとは、先ほども言いましたが、任天堂さんがこれからインターネット化していくということであれば、我々は本当にベストに近いパートナーだと思っていましたので、その思いではないでしょうか。

「モバゲーという名前にこだわりますか?」

もう1つ、岩田社長は、守安さんが「黒子になっても構わない」という表現をしたことで、任天堂の取り得る戦略オプションが増えた、とも話していました。この「黒子発言」の真意をお聞かせください。

守安:僕、黒子という言葉を使ったのか、ちょっと覚えていないんですよね(笑)。もともと最初は、「モバゲーにゲームを出してくださいよ」的な感じだったので、黒子というよりは、「モバゲー」を使ってうまくやりましょうという思いの方が強かった。だから、その時に、黒子と言ったかどうか、あまり覚えてなくて。

 ただ2013年の夏くらいに、状況が変わりました。大規模なアプリシフトというのをやっていて、モバゲーというプラットフォームにこだわるというよりは、スマートフォンのゲームアプリ市場でどう戦っていくかというのを考えていた。モバゲーにこだわらず、ゲームアプリの開発・配信・運用で業績を作らなければいけないと。

 それで、2013年の春から夏くらいのタイミングで岩田さんにお会いした時、ヤフーやミクシィと始めていた協業の取り組みをご説明しました。岩田さんがご興味を持たれて「DeNAさんって他社と組んでこういう取り組みもやられるんですね」ということをおっしゃった。

 その時に岩田さんから、「モバゲーという名前にこだわりますか?」ということも聞かれたんですね。

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