DeNAとの業務・資本提携を発表し、世間を驚かせた任天堂。メディアや市場は、これまで頑なにスマートデバイス向けゲーム市場への参入を拒んできた同社が“方針転換”したとして、その“変質”を一様に評価した。だが、これから何が起きるのか、具体的なことは何も明かされていない。分かっているのは、「マリオ」など人気の知的財産(IP)を生かしたスマートデバイス向けゲームをDeNAと共同で開発・運営する、そして、ゲーム専用機も含めた複数のデバイスをまたがる新たな会員制サービスを立ち上げる、ということだけだ。
 任天堂はDeNAと手を組み、いったいどんなゲームやサービスを作ろうとしているのか。そして、ゲーム専用機の未来をどう考えているのか。岩田聡社長が「これからのこと」を語った。(聞き手は井上理)

前編「任天堂・岩田聡社長激白、『時が来た』」をお読みでない方は、こちらからお読みください。

DeNAとの提携発表を終え、インタビューに答える任天堂の岩田聡社長(撮影:小倉正嗣、以下インタビュー写真は同)

これから、DeNAと一緒に何をしようとしているのか、具体的なお話を伺いたいと思います。まず、17日の会見では「ゲームプラットフォームの再定義」を大きな柱として掲げ、新たな会員制サービスを共同で開発・運営すると発表しました。「ゲーム専用機とスマートデバイスの架け橋」とも表現していましたが、どんな構想なのでしょうか。背景も含めて教えてください。

岩田:まず、この数年に起こった大きな環境変化のもと、「ゲームプラットフォームはどうあるべきなのか」という考え方が変わっていきました。

 これまでの30年間は、何年かに一度、ゲームのプラットフォームをモデルチェンジしてやってきました。けれど、どんなにゲーム機を普及させても、新しいゲーム機を出せばまたゼロからやり直しなんですね。モデルチェンジによって、お客様との関係が切れてしまう。

 言い換えれば、プラットフォームの切り替えがお客様との関係を断ってしまう「隙」になってしまっていました。これはまさに「ニンテンドーDS」から「3DS」、あるいは「Wii」から「Wii U」への移行で起きてしまったことで、大いに反省すべきところだと思っています。

ゲーム機単位から、顧客単位へ

岩田:じゃあ、一度できたお客様との関係をどうしたらつなげていくことができるんだろうという取り組みの中で、プラットフォームというものの考え方を、それまでのデバイス単位からアカウント単位、つまりお客様単位にするというふうに変えたのです。

 そのため、Wii U(2012年12月発売)から「ニンテンドーネットワークID(NNID)」を導入しました。3DSについても(2013年12月に)NNIDを導入しましたが、もともとデバイス単位の管理になっていた仕組みを後付けでアカウント対応にしたものであり、必ずしもパーフェクトな形ではなかったんですね。

岩田:その後も我々は、ゲーム機単位だった任天堂のプラットフォームを、お客様とのつながり単位へと再定義する取り組みを続けてきました。お客様のライフスタイルに合わせてどんなお付き合いの仕方があって、どんなオファーができて、そしてこの時代の変化にどう対応できるのかということをずっと社内で議論してきたんです。

 同時並行でDeNAさんとのお付き合いも深まる中で、この新たな仕組み作りにDeNAさんにご協力いただけたら、これは我々にとってものすごくプラスになるね、ということで、サーバー管理や運用面でお手伝いいただくことになりました。

17日の会見に臨んだ任天堂の岩田社長(左)とDeNAの守安功社長(撮影:陶山勉、以下会見中の写真は同)

「ハード」ではなく、様々なデバイスにまたがる「コミュニティ」を、任天堂のプラットフォームとする、という再定義をしていくと。その中で、もう1つの柱であるスマートデバイス向けゲーム、というものは、どんな役割を果たすのでしょうか。

岩田:一番最初は、スマートデバイス上でお客様との関係を作り、ゆくゆくは我々のゲーム専用機に触っていただくきっかけとしたいと考えていました。ただ、これって任天堂の都合なんですよ。

「理想は、広く浅く適切な対価をいただけるゲーム」

岩田:お客様の立場で考えてみると、スマートデバイスを使って任天堂のアプリを頻繁に起動するような接点があって、初めて任天堂のことを知ったり、IPを好きになったりしていただける。さらに言えば、もっと没入感のある遊びをゲーム専用機で遊んでみたい、と思ってもらえるわけですが、それは当然、簡単な話ではないわけです。

 スマートデバイスの世界は、ものすごい種類のアプリが日々生まれ、ダウンロードされ、1回起動しただけで二度と起動されないような厳しい競争がある。そこで、何回も起動していただける、ということはすごいことなんですね。

 我々は、安易にスマートデバイスに任天堂のIPを出し、ゲーム専用機やIPの価値を毀損するようなことはしない、と言ってきました。一方で、スマートデバイスでお客様との関係を作る上で、我々が持っている一番の武器を使わずして、本当にお客様がついてきてくれるのか、と考えるようになったのです。

スマートデバイス向けゲームは、任天堂のファンを増やすための1つの道具というわけですね。では、具体的にどんなゲームを考えているのか。無料で始めて後から課金する「フリー・ツー・プレイ」が基本となってくるわけですよね。

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