米ボックスは2005年に創業したクラウドストレージを提供するスタートアップ企業だ。早いタイミングで企業向けサービスへと舵を切った同社は、現在、22万5000社の顧客企業、2500万人以上の利用者を抱える企業に成長した。同社が提供するサービス「Box」の特徴はスマートフォン、パソコン、タブレットなど様々な端末からファイルをアップロードしたり、ダウンロードしたりできるほか、きめ細やかな管理機能を備えていること。企業での利用実態に即したサービス開発を手がけている。

 ボックスは5月20日、日本での正式開始を発表。ボックス・ジャパンを立ち上げ、日本ベリサインの社長を務めた古市克典氏をトップに招聘した。同時に、コニカミノルタ、サンリオエンターテイメント、ディー・エヌ・エー、日揮、ファミマ・ドット・コム、三菱地所、早稲田大学がBoxを採用したことを明らかにした。

 ボックスが事業を展開する市場はスタートアップから大手企業まで競合が多い。Boxもまた赤字が続いており、IPOも予断を許さない状況だ。今後どのように舵取りをしていくのか、同社のアーロン・レヴィCEO(最高経営責任者)に話を聞いた。

日本市場の本格進出を決めた米ボックスのアーロン・レヴィCEO(最高経営責任者)は29歳。競合がひしめく中で企業向けに特化し、独自の立ち位置を築く(撮影:的野弘路)

3月にIPO(新規株式公開)を申請した。現在、延期も伝えられているが。

 現在、IPOに関してお答えできることは限られているが、1つ言えるのはIPOの選択肢を選んだのは独立性を担保するためだ。今後、多くの企業にとって手助けしていく存在であり続けるためには、我々は長期に渡って独立した企業でなければならない。

 これまでスタートアップ企業が大企業に売却した歴史を振り返れば、(IPOの道を選ぶのは)必然だ。大企業に仲間入りすることでスピードが失われ、革新性が失われ、当初設定したフォーカスがずれてくる。買収する大企業からすれば、必要なパーツを組織の中に組み込むのは当然のこと。だが、大企業のソリューションと統合されるということは、同時に当初のミッションを果たせなくなるということでもある。

 我々はIPOを通じて調達した資金を3つのことに振り向けたい。おそらく今後、我々のサービスを直に利用する人たちだけではなくなる。我々のパートナーや第三者の開発者が作成したサービス経由でBoxを利用する人たちが増えるはずだ。まずは、これまで通りプラットフォームをしっかりと構築していくことに注力していきたい。

 そして、2つ目はヘルスケア分野、製造業分野、金融サービス分野といった特定市場に特化したソリューションを開発していきたいと考えている。3つ目は、今回の日本進出のようなグローバル展開だ。特に重要と思われるマーケットで主要なパートナーと手を組み、大企業から中小企業の顧客までリーチしていきたい。

米グーグルは今年3月に、競合製品となる「Google Drive(グーグルドライブ)」を大幅に値下げした。米マイクロソフトは自社のOS(基本ソフト)に「One Drive」を統合している。ボックスにとってこれら大手競合が立ちはだかるのは厳しいのでは。

 最初に知っていただきたいのは我々のサービスは米ゼネラル・エレクトリック(GE)を始め、米イーベイ、米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)など大手企業からSMBと呼ばれる中小企業まで約20万社が利用しているということ。

 なぜ、彼らがマイクロソフトやグーグルのサービスを利用しないかという理由は大きく2つある。

 まず、グーグルにせよマイクロソフトにせよ、我々と対比できるほどのユーザー体験を提供できていない。それはつまり、シンプルであり、セキュアであり、管理者にとって便利であるという体験だ。もちろんグーグルはコンシューマー向けに素晴らしい製品を提供しているし、マイクロソフトは企業向けに素晴らしい製品を作っている。だが、グーグルの製品は企業にとって使いやすいものではないし、マイクロソフトの製品は一般の人に使いやすいとは言えない。我々は「エンタープライズ」「コンシューマー」という両方のターゲットにうまく適応できるものを作っている。比類無きソフトウエアを作っているという自負がある。

 もう1つは、我々のサービスがプラットフォームに依存しないという点だ。マイクロソフトもグーグルも、互いに自社サービスに囲い込む設計になっている。企業は囲い込まれたくないのだ。もはやCIO(最高情報責任者)は企業における課題を1つのテクノロジーで解決しようとは思っていない。あらゆるデータをかき集め、あらゆるサービスをかき集めて対処しようとしているのが今のトレンドなのだ。

グーグルが無制限プランを作ったらさらに上をいく

それでもグーグルの値下げは影響があったのでは。ボックスは100GBまでは月額5ドル、1TBまでは月額15ドルだが、グーグルの料金改定後プランは100GBまでは月額1.99ドル、1TBまでは月額9.99ドルだ。

 我々の場合、企業向けサービスは無制限の容量が使える点で彼らと異なる。彼らがいかに容量を増やしていっても追いつかれることはない。

グーグルが同様に無制限プランを作ったら?

 さらに上をいく無制限プランを作るだけだ(笑)。

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