共和党の「肉を切らせて骨を断つ」戦法
オバマ第2期政権は内政でも外交でも立ち往生している。2010年3月に署名した医療保険改革法(オバマケア)関連予算案を「人質」に取った共和党の大攻勢を受け、10月1日から政府機関の一部を閉鎖せざるを得なくなった。10月半ばには、連邦債務の額が再び上限に達し、デフォルト(債務不履行)の危機に直面する。解決のメドは全く立っていない。
共和党がオバマケアで一歩も譲らない最大の理由は、7人の過激派連邦議員のうち4人が指導部を突き上げているからだ。彼らはいずれも、16年の大統領選への出馬に意欲を見せている。彼らの動きを背後から支援しているのは、米国人口の半数を占める白人の中の保守派層を代弁する政治団体だ。これらの団体は反オバマケア、反オバマを主張している。
メディアを賑わしている過激派連邦議員4人衆は以下の通り。
(1)ランド・ポール上院議員(ケンタッキー州選出、50歳)。眼科医で財政規律派。父ロンは12年の大統領選予備選に立候補した。
(2)ポール・ライアン下院議員(ウィスコンシン州第1区選出、43歳)。12年の大統領選において、共和党の副大統領候補になった。財政通で、現在は下院予算委員長を務める。
(3)マルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州選出、42歳)。人気上昇中のヒスパニック系保守派政治家。
(4)テッド・クルーズ上院議員(テキサス州選出、42歳)。草の根保守「ティーパーティ」(茶会)のクラウン・プリンス。1年生議員ながら今回は本会議場で21時間19分の議事妨害演説(フィリバスター)を行った。
これにクリス・クリスティ ニュージャージー州知事(51歳)、ジェフ・ブッシュ元フロリダ州知事(60)、インド系のボビー・ジンダル・ルイジアナ州知事(42)を加えた7人が、目下のところ、16年大統領選の共和党候補の下馬評に上がっている。ジェフ・ブッシュ氏は、ジョージ・W・ブッシュ前大統領の実弟だ。
オバマケア反対の狼煙は7月に上がった
オバマケアについて、連邦最高裁は12年6月28日に合憲との判断を下した。名実共に法律になっている。本来なら14年1月からすべての企業経営者(50人以上の従業員を抱える雇用主を除き)及び個人はオバマケアに加入する義務を負う。
オバマケア粉砕の狼煙を上げたのは、マイク・リー上院議員(ユタ州選出)ら12人の上院議員だった。7月25日、ハリー・リード民主党上院院内総務に対し、「オバマケア施行に必要な資金の導入を止めなければ、政府機関を閉鎖に追い込むことも辞さない」としたためた書簡を突きつけた。同書簡には先の4人衆のうち3人の上院議員が署名者として名を連ねた。
ただし、この書簡に、ジョン・ベイナー下院議長(共和党)やエリック・カンター共和党下院院内総務など指導部は署名していない。7月の時点では、下院共和党指導部はそこまで強硬な措置を取るつもりはなかったようだ。 ("Mike Lee, Ted Cruz, Marco Rubio, Oppose Funding Obamacare," The Washington Free Beacon, 7/25/2013)
過激派議員たちを支援する富豪コッチ兄弟
共和党の過激派議員がここまで強硬な措置を取るには理由がある。
背後に、コッチ兄弟(石油で財をなした富豪のディビッド・コッチ氏と、チャールズ・コッチ氏)をはじめとする保守強硬派がメンバーとなっている政治団体が控えているのだ。これに、草の根保守「ティーパーティ」(茶会)やキリスト教原理主義者グループ、「嫌オバマ」の人種差別主義的団体が共闘し始めている。
コッチ兄弟らは潤沢な政治資金をちらつかせ、共和党過激派をオバマケア粉砕に煽り立てている。現職議員がオバマケア問題でちょっとでも弱腰な姿勢を見せようものならば、次期中間選挙の予備選段階で排除するとまで言い切っている。ベイナー議長をはじめとする共和党指導部がオバマ政権に対し一歩も譲歩できずにいる背景にはこうした事情がある。 ("Some People Are Making Big Bucks Sabotaging Obamacare," BillMoyers.come., 9/26/2013)
ワシントンのある政治評論家はこう分析する。「法律にまでなっているオバマケアをどう葬り去るのか。最終的な決着がつくのは早くて来年の中間選挙の時だろう。ここで、オバマを支持するのか、あるいは共和党過激派を支持するのか、国民の意思が明確になる。そして最終的にシロクロを決めるのは16年の大統領選挙だ。今、繰り広げられている民主・共和の攻防はその前哨戦と言っていいだろう」。
オバマは「史上最も反政治的な大統領」
米政府機関は、ビル・クリントン大統領(当時)が政権を担っていた17年前にも閉鎖となったことがある。政府機能が21日間、完全にマヒ状態になった。解決の決め手となったのは、クリントン大統領の憎めない人柄にあった。政策面では対決しながらもニュート・ギングリッチ下院議長(当時)やリチャード・アーミー下院院内総務(当時)といった当時の共和党指導者たちをホワイトハウスに招き、朝食を共にするような関係は保っていた。
ところがオバマ大統領にはこうした人間関係が皆無なのだ。政策論議をする以前に、共和党指導者との間に相互不信がある。
ウォーターゲート事件の真相を暴いたジャーナリスト、ボブ・ウッドワード氏は、その著書『The Price of Politics』の中で、自分の意見に反対する相手に対して傲慢さをむき出しにするオバマ大統領の「実像」を描いている。同書が描いたオバマ大統領の姿(11年5~7月にかけて)も債務上限引き上げを巡る攻防の最中だった。
ウッドワードは、譲歩の余地なしとする大統領の自己過信と相手を見下すような傲慢な態度を関係者の証言を基にビビッドに再現している。
例を挙げれば――
独自の歳出削減試案を持参してホワイトハウスに乗り込んだカンター共和党下院院内総務が試案をオバマ大統領に手渡すと、一瞥もせずに机の上に放り投げ、「カンター君、選挙で勝ったのは私なんだよ」と横柄に言い放った。
招かれてやってきたベイナー共和党下院院内総務(当時)には、「何かご所望は」と問いかけた。ここまではよかった。だが、同総務がメルローを頼み、いざ飲もうとすると、自分はアイスティー。禁煙促進剤の二コレットをむしゃむしゃ。ベイナー総務は後日、「まさに2人の見解の違いをシンボリックに表していたね」と漏らしている。それ以上に、相手を気遣う「おもいやり」もゼロというべきか。 ("The Price of Politics," Bob Woodward, Simon & Schuster, 2012)
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