中国の発電は、伝統的に石炭を使った火力発電による割合が大きく、今でも小規模な火力発電会社が数百社乱立しているのが現状だ。こういった小規模発電所の中には脱硫装置を持たないところもあるなど、環境面で大きな問題を抱える。
中国政府は、こういった小規模発電所を閉鎖し、再生可能エネルギーへの転換を推進すると、温暖化対策に本腰を入れる姿勢を見せている。
しかし、中国では高い技術力のある外資系の民間企業が再生可能エネルギーによる発電施設を建設しようとしても、思うように資金調達ができないという問題もある。
こういった状況を背景に、アジア開発銀行(ADB)が資金面のサポートをする、日中合弁の風力発電プロジェクトが立ち上がった。
中国内モンゴル自治区に建設予定の風力発電施設建設プロジェクトで、総額7300万ドルのうち、およそ2400万ドル(1億6400万人民元)をADBが融資する。
ADBでこの融資を担当した木村寿香インベストメント・スペシャリストに、中国の発電事情と再生可能エネルギーへの取り組みについて聞いた。
―― 中国では再生可能エネルギーの発電能力を高め、新興国としても温暖化対策を進めているという姿勢を強く打ち出しています。今後の経済成長が期待される中国は、消費電力量も増えていくことが予想されます。再生可能エネルギーへの転換は、地球規模の温暖化対策としても望ましいと思いますが、中国の発電事情の現状はどのようになっているのでしょうか。
木村寿香氏(以下、木村) 中国の発電は、伝統的に石炭火力が中心でした。再生可能エネルギーの活用は1970年代から取り組みが始まっていましたが、どちらかと言うと、送電網がカバーしきれない地域に対する電力へのアクセス手段という福祉的な意味の強いものでした。
規制を潜り抜けるために意図的に小さくしている発電所も

一橋大学卒業後、ロンドン・ビジネススクールで金融、ロンドン大学インペリアルカレッジで環境経済学の修士をそれぞれ取得。欧州復興開発銀行(EBRD)を経て、2006年にアジア開発銀行(ADB)に入行。現在、民間部門業務局のインベストメント・スペシャリストとして、東アジア(中国、モンゴル)のクリーンエネルギー・エネルギー効率化関連インフラストラクチャー・プロジェクトを担当。現在はADB北京事務所駐在 (写真:大槻 純一、以下同)
中国の発電事業は、旧国家電力公司を分割して設立した、中国大唐、中国国電など、5大発電業者が市場の半分を占めています。それ以外は、地方政府や民営企業が運営する小規模の発電事業者が数百社乱立している状況です。小さい事業者ですと、小規模な石炭火力の発電所を1カ所持っているだけのところもあります。環境規制を潜り抜けるために意図的に小さくしているようなところもあります。
―― そういった小型の石炭発電所は、環境面で問題のあるところが多いのではないでしょうか。
木村 ひどいところでは黒い粒子が目に見えるくらいです。特に冬になると暖房を石炭で取っているところもあり、そういう都市の空気の質は劣悪です。
地元住民への健康への影響に加え、さらに深刻なのは、石炭に多く含まれる二酸化硫黄によって生じる酸性雨の問題です。森林や農地に被害を与え、日本にも影響を与えています。さらに、グローバルレベルでは、温室効果ガスの問題があります。
2009年2月に中国政府は31ギガワットの小規模石炭火力発電を閉鎖する計画を発表しています。既に、2008年には1669万キロワット分を閉鎖しました。これらの小規模発電所は脱硫装置など環境対策を怠っているだけではなく、エネルギーの効率が悪いものです。1キロワット時当たり370グラム以上の石炭を必要とします。大手発電事業者による発電所では、280グラム程度で発電可能です。
小規模発電所を閉鎖するには雇用面の問題などもあり、難しい面が多くあります。代替するエネルギーの施設も必要になります。
ところが、風力発電といった再生可能エネルギーで代替しようとしても、石炭火力に比べて高い技術が要求されるため、初期投資が高くなります。従って、投資できるのは銀行からの融資を優先的に受けられる大手発電事業者に限られます。
―― 中国政府の再生可能エネルギー推進に対する姿勢は、どのようなものなのでしょうか。
木村 今、中国は非常に明確な政策目標を取っていることもあり、大手発電事業者は年間の再生可能エネルギーによる発電量をどれだけ増やすことができるかというインセンティブがあります。一方、小規模な民間事業者は、銀行の融資が限られ、オペレーションの技術もないので、風力発電に進出するのは難しいのが現実です。また、外資系銀行は長期の人民元建融資業務に制限があり、地場銀行が風況リスクの分析といった技術リスクの分析を行うのも難しい状況です。ADBには技術評価などの面で付加価値があると思います。ADBが率先してフロントランナー案件を支援することで、民間銀行の融資を再生可能エネルギー案件にシフトする一助になればと考えています。
木村 また、中国政府は、発電量のポートフォリオとして再生可能エネルギーを今後、強く推進していくことを打ち出しています。
2008年の中国の発電量は3兆4334億キロワット時。前年度比5.18%の増加です。発電施設の建築は10.34%増えました。このうち、再生可能エネルギー発電施設は、水力発電が2010万キロワット、風力が466万キロワットの増加となっています。
経済成長とエネルギー需要の増加をどう切り離すか
経済成長も少し緩やかなレベルになりましたが続いていますので、今後も電力の需要は伸びていくでしょう。2009年の発電設備への投資見込みは6500億元、発電量にすると8000万キロワットです。電力需要は、前年度比5%程度を見込んでいます。

中国のエネルギー消費量は今のところ世界第2位ですが、パーキャピタ(1人当たり)では先進国比べてまだ低い水準です。これが先進国並みにエネルギーを消費するようになると、急激に伸びる可能性があります。これを防止するためにも、省エネの推進は今後も必要になります。理想は、北欧の国々が達成したように、経済成長とエネルギーの需要を切り離すことです。ただ、今のエネルギー効率レベルでは当面のエネルギー需要の増加は避けられません。
中国政府の11次5カ年計画(2006-2010年)では、従来は福祉、または新興産業として捉えられていた再生可能エネルギーが、エネルギー政策の本流に組み込まれました。これを下支えしているのが、2005年に批准され、06年施行された再生可能エネルギー法です。民間企業の再生可能エネルギー開発への参加、そして今回のADBによる融資は、この法律があって初めて可能になったものです。
中国の風力発電設備容量は2008年には1200万キロワットでしたが、2020年までに1億キロワット相当に増やすという目標を掲げています。中国全土の風力資源が有効活用されるようになれば、1000ギガワットの発電ができるようになるといわれています。中国は、日本以上に、自然エネルギー資源に恵まれています。
ただ、それを実現させるためには、解決すべき問題がまだまだあります。送電網のカバレッジの問題や、オペレーションノウハウ、裾野産業が不十分であるという問題、発電地と消費地が離れているという問題もあります。
―― ADBの融資は、中国内モンゴル自治区に建設予定の風力発電施設プロジェクトに対するものですが、そもそも融資を決めたきっかけは何だったのでしょうか。
高い技術力を持つ民間企業がなかなか融資を受られない現状
木村 ADBは2005年終わりにEnergy Efficiency Initiative(EEI)を立ち上げ、アジア太平洋地域の省エネおよび再生可能エネルギー開発の推進を始めました。まず5カ国を重点対象国とすることにし、中国はそのうちの1つです。年間10億ドルのサポートをしていくことを決めましたが、20億 ドルに倍増させる決定が先日、黒田(東彦)総裁の方から発表がありました。
中国の再生可能エネルギー、省エネへの政策は、アジア各国の中でも際立って急速に整ってきています。ただ、民間企業がこの分野に参入し、案件組成を具体化する時に必要になる、資金調達の面まではその政策がまだ行き渡っていません。実際には高い技術力を有する民間企業が中心となって省エネ事業や再生可能エネルギーの発電事業を担うことになるのですが、そういった企業が優先的に融資を受けられる状況が整っていないのです。
【お申し込み初月無料】有料会員なら…
- 専門記者によるオリジナルコンテンツが読み放題
- 著名経営者や有識者による動画、ウェビナーが見放題
- 日経ビジネス最新号13年分のバックナンバーが読み放題