「見切り問題」に揺れるセブンイレブン(本文とは関係ありません)

 「定価販売」の御旗のもと、高収益体質を維持し、グループの約75%の営業利益を稼ぎ出していた孝行息子のセブン-イレブン。その、根幹を揺るがす今回の措置に、流通の王者、セブン&アイが揺れている。

 弁当などを販売期限前に値下げして売る「見切り販売」を不当に制限していたとして、コンビニエンスストアチェーン最大手、セブン-イレブン・ジャパンは6月22日、公正取引委員会から独占禁止法に基づく排除措置命令を受けた。

 これを受けてセブン-イレブンは翌23日、食品廃棄で加盟店に生じる損失(仕入れ原価)の15%を負担することを決めた。だが、見切り販売に対しては、「過当競争をもたらし、結果として加盟店の利益を奪う」とし、反対の姿勢を変えていない。一部加盟店オーナーは「場当たり的な施策でコメントをするに値しない」と吐き捨て、見切り販売の継続を貫くとした。

 「本部は利益を持って行きすぎだ」「見切り販売をすれば消費者も喜び、ゴミを減らすこともできる。何が悪い」

 今回の公取委からの排除命令を機に、見切り販売を強行する全国のオーナーの怒れる声が、一斉にメディアを通じて吹き出した。右に倣えの“護送船団報道”は、「セブン-イレブン本社は利益優先主義」という印象を国民に十分に植え付けた。

 しかし、この問題は根が深く、複雑である。「セブンイレブンは安売りを許していない」と一概に断じることもできない。

「簡単に値下げできると」と、あるオーナー

 東京都内の、あるセブンイレブン。立地は最寄り駅から1kmほど離れた住宅街。駅からの導線上に、別のセブンイレブンがあり、近隣には「100円均一ショップ」があるなど、条件は悪い。

 一見、普通のセブンイレブンだが、飲料類の冷蔵ケースのガラスに派手なポップが張ってある。「この枠内、全品100円!」――。

 普通のコンビニでは120円で販売している十数種類のジュースが、ここでは100円で販売されていた。セブンイレブンに携わって15年、2店舗を見ているオーナーは言う。

 「100円で売ろうと思えば簡単に売れるよ。自分が身銭を切ればいいだけだから。本部の担当者からだって、何にも言われていない」

 さらに、こう証言する。

 「本部とのフランチャイズ契約書にも『価格決定権は店舗にある』と書いてあるし、棚の入れ替えなんかのタイミングで見切り販売は、よくやっている。しかも、値下げした分の一定割合は、本部が自動的に負担してくれることになっているから助かるよ」

 このオーナーによると、店舗管理の端末で価格を容易に変更でき、例えば仕入れ額以下の値付けで見切り販売をしたとしても、本部が一定額を負担してくれるため、赤字幅が減るのだと言う。売れ残って結局、廃棄する商品が出た場合でも、「『今回は5万円まで面倒見ますよ』と言って、時折、本部が負担してくれることもある」。

 今回の排除命令は、本部の担当者が「契約を打ち切る」などとほのめかし、加盟店の見切り販売を制限していた事実が裏付けられた結果。いったい、どういうことなのか。

 答えは簡単で、今回指摘された制限は、弁当やパン、チルド棚に並ぶデザートや飲料などの「日配食品」、いわゆる「デイリー品」に限られた話なのだ。

 菓子、保存飲料、加工食品など消費期限の長い飲食品、日用雑貨品など、いわゆる「非デイリー品」では、むしろ、本部側が見切り販売を推奨していた。報道は、本部が一律に値下げを制限していたかのような印象を与えたが、そうではなかった。

 セブン&アイの鈴木敏文会長がグループ各社に根付かせた理念の1つに、「死に筋排除」という言葉がある。売れ筋の商品、あるいは、売りたい商品を目立たせるように陳列し、売れない商品は早期に棚から下ろすべきであるという考え方だ。

 非デイリー品の見切り販売は、この理念にもとづく。安易な値下げは利益を削るだけだが、死に筋排除のためであれば、値下げも厭わない。むしろ、本部は支援している。

「見切りの前に、営業努力はしたのか」

 しかし、デイリー品には、この理念は適用されず「OFC(オペレーション・フィールド・カウンセラー)」と呼ばれる本部の担当者が、見切り販売をしないよう加盟店に圧力をかけたことが、問題となった。

 セブン-イレブンの井阪隆一社長も、本部による「経営指導」に行き過ぎがあったことは認めながら、デイリー品の見切り販売はやるべきではないとのスタンスを変えていない。なぜか。

 まず、デイリー品の開発は商品サイクルも消費期限も短い。死に筋商品があっても、毎日の発注で改善できるため、わざわざ値下げをして排除するまでもない、という考え方がある。

 デイリー品は非デイリー品とは違い、消費期限が短いだけに、毎日、見切り販売のタイミングが訪れる。頻繁な見切り販売は、即、利益の低下につながってしまうという理由もある。

 非デイリー品について、自腹を切ることによる値下げや、積極的な見切り販売をしている前出のオーナーも、「デイリー品は、見切りをやる必要はない。死に筋排除は、日々の発注精度を高めればいい」と話す。

この記事は会員登録(無料)で続きをご覧いただけます
残り2497文字 / 全文文字

【初割・2カ月無料】お申し込みで…

  • 専門記者によるオリジナルコンテンツが読み放題
  • 著名経営者や有識者による動画、ウェビナーが見放題
  • 日経ビジネス最新号12年分のバックナンバーが読み放題