
日本で最も難しい解体工事――。東急電鉄社内でこう呼ばれる工事がある。「渋谷の顔」として愛された東急百貨店東急東横店の解体である。
ご存じの通り、渋谷駅は「100年に1度」と言われる巨大開発が計画されている。東急電鉄、東日本旅客鉄道(JR東日本)、東京メトロの3社による大規模再開発事業だ。今後2027年までに、駅周辺だけで8棟の超高層ビルが現れる。
渋谷駅真上に位置する駅街区には、駅周辺で最大級のオフィスと商業施設を併せ持った超高層ビル、東急東横線渋谷駅の跡地である南街区には、オフィス、ホテル、イベントホールの複合施設ができる。駅に隣接する道玄坂地区と桜丘口地区にも、再開発組合による超高層ビルが計画され、東急不動産が事業協力者として参画している。

解体工事は、これらの大規模開発に入る前段階。しかし、この工事が実にやっかいだ。
理由は三つある。一つは時間だ。東横店は渋谷駅真上に位置していることから、真下に東京メトロ銀座線、JR山手線・埼京線が通っている。特に銀座線は建物の中を貫通するように走る。鉄道が走る時間は工事ができず、全て最終電車後の深夜工事となる。最終電車が最も遅い山手線のスケジュールに合わせると、1日に作業できる時間は深夜1時20分から3時40分ごろまで。約2時間しかない。
変則技で難条件を乗り切る
二つ目は、安全面。線路内は安全基準が極めて厳しい。「ボルト一本どころか、石ころ一つ落としたら大問題になる」。解体工事を統括する東急電鉄東急百貨店東横店解体工事事務所の永持理所長はこう語る。
三つ目は、作業スペースが限られていること。通常、解体工事には外側に足場などの仮設が必要になるが、鉄道の軌道が隣接するため、外側からは設置できない。後に解体される建物の低層部から外側に鉄骨を突き出して、その鉄骨の上に仮設を組み立てるという変則技で乗り切るしかない。
いよいよ現場に潜入!

渋谷駅宮益坂口に集合したのは午前2時15分。深夜にもかかわらず、渋谷駅周辺にはサラリーマンや学生と思われる若者がちらほら。ヘルメットをかぶり、カメラマンとともに解体中の東急百貨店の階段を上に進んだ。
目指したのは、「最も難所」と言われる東横店中央館の解体現場だ。ちょうど銀座線の真上に位置する現場である。


現場を見て驚いた。建物でありながら、骨組みをキレイに残して壁や天井などが撤去され、スカスカの状態。まるで橋のような状態になっていたからだ。「解体工事ってガンガン壊すイメージだったが、非常に“丁寧”に施工するんだな」。これが筆者の第一印象である。
これには理由がある。銀座線の線路には、建物を下から支える仮設を設置するスペースがない。そのため、建物が自立できるギリギリまで部材を一つひとつ丁寧に解体し、その後、上から吊って解体するという流れとなる。部材の切断は慎重に行われる。
その日の工事も、建物の一つの部材を切り出し、それをクレーンで現場の外側に運ぶというものだった。「もしもの時」を考え、作業現場の下には落下防止ネットが張られている。
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