個人的な話だがこのひと月、とても煩わしく感じていることがある。コーヒーチェーン「スターバックス」の、ショートサイズのドリップコーヒーの値段が税込みで302円になったことだ。
3月末までの値段は300円だった。消費増税に伴う同チェーンの価格改定で、支払い額は2円増えたことになる。問題は支払い額が増えたことにあるのではなく、2円という端数にある。下手に千円札でも出そうものなら、698円もの小銭を受け取ることになる。

ご多分に漏れず、私は財布の中の小銭入れが膨らむことが好きではない。愛用の財布は二つ折りで、あまり大きくなるとズボンの後ろポケットに入れづらくなる。
冬ならば、コートのポケットに入れておけばいい。だが、気温も上がって上着を羽織らないことが増えている。所在がなくなった財布のせいで、片手がふさがったり、わざわざ鞄のチャックを開いたりしなければならないのが億劫でならない。
幸せ小銭計画を破綻させる端数
そして、「2円」に対する心証をさらに悪化させているのが、メニュー表示だ。カウンターに掲示された価格表には、ショートサイズのドリップコーヒーは280円とある。税抜きの本体価格を表示しているためで、税込みの総額表示は見当たらない。注文の列に並んでいる最中に300円を握りしめ、20円のおつりがくるなと思っていると、いざ会計の段になって慌てて1円玉を探すことになる。
別にスタバに限った話ではないが、カフェなどを利用する際に、私はあらかじめ手持ちの小銭を確認して、釣り銭があまり生じないメニューを注文することがしばしばある。2円の端数は、そんな私の小さな小さな「作戦」を一気に破綻に追い込む。300円ちょうどの小銭しかないときなどは、特に不快になってしまう。
金銭感覚のなさを忍んで申し上げると、「えっ、280円で税が入ると300円を超えるのか」という驚きも少なからずあった。携帯電話の電卓機能で280×1.08をしてみると、302.04円。なるほどなるほど、正しい。だが「想定以上に支払い額が増えるのだなぁ」という経験は、少なからず私の心理に影響を与えた。端的に言ってしまえば、スタバより「ドトール」に入ろうかなと思うことが増えたのだ。
ドトールは1割の値上げ
ドトールはメニューの総額表示を維持している。最も安いSサイズのコーヒーの値段は220円。スタバよりも82円安い。
実はドトールは今回の消費増税に伴う価格改定で、もともと総額200円だった同商品を20円値上げしている。値上げ率は1割と8%を超える。同社は昨今の原料高などのコスト増も反映したためと説明している。支払い額を10円単位に設定した理由には、8%の税率を厳格に適用することよりも、1円単位の支払いが増える煩わしさを敬遠したということもあるだろう。
スタバはもともと「ショート・ドリップ」を5%の税込み300円で販売していた。ということは本体価格は約285.7円だったことになる。それで見れば、今回は値上げどころか5円程度の値下げに当たる。ドトールは税込みの200円をさらに20円上げているので、この2商品に限って言えば、大幅な値上げをしたのはドトールの方だ。
それにもかかわらず、今回の価格改定で両社に対する私のイメージは、相対的にドトールの方が良くなった。端数が生じないことと、レジ段階で支払い額が増えないことを「利点」に感じたからだ。
もし、スタバが302円ではなく、320円や330円に値段を引き上げていたらどうだったか。想定の域を出ないが、メニューが総額表示であったならば、自分は多分何も意識せずにスタバを利用し続けたのではないかと思う。
レジで思ったよりも値段が高くなった瞬間、そして釣り銭で財布がずしりと重くなった瞬間、私は増税を実感した。今までと全く同じ行動を取っても、今後は着実に払う金額は増えることを、体感したのだ。
1000円札で買えない「税別950円」
280円と表示されたものが、300円で買えない。950円と表示されたものが、税を加えると1000円に収まらない。そんな経験を繰り返すたびに、計算上ではなく感覚上で「税が加算されてもこんなものだろう」と思っているものが正しくないことを突き付けられた。このひと月で、私の消費心理は少なからず冷えた。
3月末、街角でサラリーマンなどに増税が消費に与える影響を聞き取った。すると、思いのほか「これまでとそんなに変わらない」という答えが多かったことを覚えている。実は私も、その1人だった。彼らはひと月たった今でも、同じように思っているだろうか。
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