残業が多い、休日が少ない――。転職希望の理由を問うと、「賃金が低い」に次いで上位に来るのが残業時間だ。そして、この多くはサービス残業。厚生労働省が2013年末に公表した調査でも、法律違反が懸念される企業の約4分の1で残業代の不払いが見られた。サービス残業の実態を探った。

サービス残業への不満から転職活動をする人は少なくない(写真はイメージ)

 「残業代が欲しいなら大手に行けよ」

 中堅IT開発会社で働いていた野口武さん(仮名、40歳)を唖然とさせたのは、上司のこの一言だった。会社のためにと毎晩遅くまで働いたのに、残業代が給与に反映されていなかった。「これはひどい」と抗議をした時に返ってきたのが、冒頭のコメントだ。「『悪い』と謝るならまだしも、開き直るってどういうことだ」。怒りを通り越して呆れかえった野口さんは、しばらくして、その会社を辞めた。

 これは人材紹介会社のインテリジェンスが1月中旬に大阪市で開いた「DODA転職フェア」の取材中に出会った男性が語ってくれた、彼が転職活動をしている理由だ。いわゆる、サービス残業(不払い残業)である。他の来場者も「多少時間が長くても残業代がちゃんと出る企業を探している」(30代前半の男性)「サービス残業はしたくないから、きっちり帰れる職場を探す」(20代後半の女性)と、サービス残業に対して嫌悪感を抱いていた。

 もちろん、サービス残業は法律違反だ。労働への対価はきちんと支払わなければならない。だが実態はお粗末だ。2013年末に厚生労働省が公表した「若者の『使い捨て』が疑われる企業等に対して集中的に実施した過重労働重点監督の実施状況」によれば、調査した5111社(正確には事業場)のうち43.8%で違法な時間外労働があり、23.9%で賃金不払いの残業が見つかった。

 厚労省の担当者は「電話相談などで『違反の疑いが強い』と見ていた事業場を対象に調べたため、違反比率などは日本全体の平均よりも高めに出ている」と説明する。とはいえ、「ブラック企業」と巷で呼ばれる企業の多くで、サービス残業が問題になっていることが明らかになった。

 しかも、それは一部の悪質な企業に留まらないのではないか。転職フェアで出会った人たちや知人らの話を聞けば、多かれ少なかれ日本の職場ではサービス残業が常態化しているように感じる。一体、日本人はどの程度、サービス残業をしているのだろう。

日本人のサービス残業時間は?

 厚労省などの省庁がまとめている雇用や労働時間に関する様々な統計を探してみたが、「サービス残業時間」をまとめたものは見つからなかった。そこで、かなり大雑把ではあるが、調査機関や労働関連の論文でよく使われている手法で、サービス残業時間を導き出してみることにした。企業(正確には事業場)が報告する厚労省の「毎月勤労統計」の労働時間と、個人が回答する総務省「労働力調査」の就業時間の差を比較するのだ。

 毎月勤労統計の労働時間は企業が管理している時間、つまり対価が払われている時間ととらえられる。労働力調査の労働時間は個人が「働いた」と考える時間なので、所定内の労働時間も、残業も、サービス残業も含む。引き算すれば、おおまかなサービス残業の傾向がわかるというものだ。

 結果は以下の通りだった。

日本人の年間労働時間
注:労働力調査の2011年の値は東日本大震災のため不明

 これだけ見ると、2013年は毎月勤労統計の労働時間が年2018時間。労働力調査の就業時間が年2060時間。多少のサービス残業はあるものの、年を追って縮小しているように見える。ただ、このグラフは毎月勤労統計をフルタイムの「一般労働者」の値で作成した一方で、労働力調査の回答にはフルタイムで働く人も短時間勤務の人も混ざってしまっているという不具合がある。短時間勤務の人の比率が増えれば平均値も下がるので、これだけでは判断しづらい。

 そこでもう少し統計を細かくみていくと、総務省が2013年調査から公表を始めた「就業形態別の年間就業時間」にたどり着く。

就業形態別の就業時間(2013年)
年間就業時間
(時間)
就業者数
(万人)
正規の職員・従業員2260.73302
非正規の職員・従業員1450.01906
パート・アルバイト1284.21320
労働者派遣事業所の派遣社員1771.7116
契約社員1944.8273
嘱託1743.9115
その他1597.882
出所:総務省「労働力調査」

 このデータによれば、「正規の職員・従業員」の就業時間は年間2260.7時間。毎月勤労統計の結果よりも約240時間多くなる。2つの統計は調査方法が違うのでおおまかなイメージをとらえるだけに留めたいが、年200日働く人ならば、1日あたり1時間ちょっとの時間をサービス残業に充てていると見ることもできる。

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