本連載では、この夏まで米ビジネススクールで助教授を務めていた筆者が、欧米を中心とした海外の経営学の知見を紹介していきます。

 さて、最近日本でよく聞かれるのが「ダイバーシティ経営」という言葉です。ダイバーシティとは「人の多様性」のことで、ダイバーシティ経営とは「女性・外国人などを積極的に登用することで、組織の活性化・企業価値の向上をはかる」という意味で使われるようです(参考)。実際、女性・外国人を積極的に登用する企業は今注目されていますし、安倍晋三首相もこの風潮を後押ししているようです。

 ところが、実は世界の経営学では、上記とまったく逆の主張がされています。すなわち「性別・国籍などを多様化することは、組織のパフォーマンス向上に良い影響を及ぼさないばかりか、マイナスの影響を与えることもある」という研究結果が得られているのです。

 なぜ「ダイバーシティー経営」は組織にマイナスなのでしょうか。何が問題で、では私たちはどのような組織作りを目指すべきなのでしょうか。今回は、世界の経営学研究で得られている「人のダイバーシティが組織にもたらす効果」についての知見を紹介していきましょう。

2種類のダイバーシティ

 「メンバーの多様性が組織に与える効果」は経営学の重要な研究テーマであり、40年以上にわたって多くの実証研究が行われてきました。その手法は(1)アンケート調査により組織のメンバー構成とパフォーマンスの関係を統計分析する、(2)様々なメンバーからなるグループ複数に作業をしてもらい、そのパフォーマンスを比較する、(3)取締役会メンバーの多様性と企業の業績(利益率など)の関係を統計分析する、といった辺りに大別されます。

 実は経営学者のあいだでも、「組織メンバーの多様性の効果」についてのコンセンサスは、長いあいだ得られませんでした。ある研究は「多様性は組織にプラス」となり、別の研究では「むしろマイナス」という結果が得られてきたのです。

 しかし近年になって、学者のあいだでも大まかな1つの合意が形成されてきた、というのが私の認識です。それは「ダイバーシティには2つの種類があり、その峻別が重要である」ということなのです。その2つとは「タスク型の人材多様性」と「デモグラフィー型の人材多様性」です。

 「タスク型の人材多様性(Task Diversity)」とは、実際の業務に必要な「能力・経験」の多様性です。例えば「その組織のメンバーがいかに多様な教育バックグラウンド、多様な職歴、多様な経験を持っているか」などがそれに当たります。

 他方、「デモグラフィー型の人材多様性(Demographic Diversity)」とは、性別、国籍、年齢など、その人の「目に見える属性」についての多様性です。そして近年の経営学では、この2つの多様性が、組織パフォーマンスに異なる影響を与えることがわかっているのです。

 ここでは最近の研究として、米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のアパーナ・ジョシとヒュンタク・ローが2009年に「アカデミー・オブ・マネジメント・ジャーナル(AMJ)」誌に発表した論文と、米セント・トーマス大学のスジン・ホーウィッツと米テキサス大学のアーウィン・ホーウィッツが2007年に「ジャーナル・オブ・マネジメント」誌に発表した論文を紹介しましょう。

「研究の研究」で得たダイバーシティの事実法則

 やや専門的になりますが、この2つの論文の特徴は、どちらもメタ・アナリシスという分析手法を使っているところです。

 メタ・アナリシスとは、いわば「研究を研究する」アプローチです。この手法は、過去に発表されてきた研究の統計分析の結果を、再集計して分析します。過去の研究成果の蓄積をまとめあげることで、「その法則は真理に近いのか」について、いわば「決定版」を検証する手法なのです。(メタ・アナリシスの仔細については、拙著『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)をご参照ください)

 上述のように「組織の人材多様性の効果」の研究は40年の歴史がありますから、多くの実証研究を使ってメタ・アナリシスができます。たとえば上記のジョシ達の論文では、1992年から2009年までに発表された39本の研究の結果を再集計して、メタ・アナリシスを行っています。 ホーウィッツ達の研究では、1985年から2006年までに発表された35本の論文が対象になりました。

 彼らのメタ・アナリシスから確認された事実法則のうち、本稿で重要なのは以下の2つです。

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