7ヶ月ぶりに訪ねたホンダの埼玉製作所寄居工場(埼玉県寄居町)は名実ともに、「工場」に育っていた。小型車の「フィット」が生産ラインを流れ、ぶつからんばかりに並んだ溶接用のロボットがクルマの骨組みを組み立てていく。
10月から1日1050台のフル生産体制になったといい、建屋の外には部品企業の名前を書いたトラックが行き交っていた。真新しい設備だからという面もあるだろうが、製造現場には明らかに活気が溢れていた。

筆者は日経ビジネスオンラインで4月30日に「サンショウウオが見たホンダ寄居工場の6年間」という記事を書いた。詳細はこちらを読んでほしいが、寄居工場の建設プロジェクトは、2008年9月のリーマンショックを境に大きな方針転換を迫られた。
輸出を中心に据えた高級車工場から小型車工場への造り替えだ。だから11月7日に報道陣に公開した生産ラインに「アコード」や「アキュラ」の姿はなく、フィットばかりが流れている。
しかし方針転換をしたとはいえ、ホンダは工場建設を止めはしなかった。リーマンショックの時点で建屋はできていたが、設備はまだ据え付けられてはいない。輸出から現地生産へ、という流れと国内市場の漸減傾向を踏まえれば、既存の工場だけで生産し続けるという判断もあり得ただろう。巨額投資になる完成車工場の新設は1歩間違えればリスクにはならないか。
西本準埼玉製作所長と、寄居工場責任者の河野丈洋主任技師に、なぜ寄居工場の新設を貫いたのか。直接ぶつけてみる事にした。次ページに2人とのやり取りを掲載する。
海外ではダメなのか
寄居工場が稼働しました。しかしホンダの生産台数の8割はすでに海外です。今後伸びるのも海外。今、日本に新しい工場を造るのはなぜでしょうか。

西本埼玉製作所長: ホンダは2016年度に600万台超の販売計画を掲げています。(現状の約400万台から)増える分はほとんど小型車です。寄居工場でフィットと同じプラットフォーム(車台)のクルマを効率よく生産すれば、寄居で培った小型車生産の先端技術をグローバルに展開できる。今までより効率的に世界で拡大していくための発信基地だと考えています。
その役割は日本の工場でなければダメなのでしょうか。ホンダにも、例えばメキシコやインドネシアといった今後稼動する工場はほかにもあります。

河野主任技師: 海外でクルマを作ることはできます。経験も十分にあります。でも重要なのは、そのクルマ作りに競争力があるかどうかです。研究所(=本田技術研究所)があり、エンジ(=生産技術・設備を担当する子会社のホンダエンジニアリング)があり、材料メーカーなどもいる。色々な技術が日本には集積しています。
そこで競争力があるモノを生み出して世界に展開していく。世界の拠点がばらばらにやったら効率が悪いし、平均的なクルマ作りの技術しかできないですよ。集積のある場所で集中してレベルが高いモノに収斂させていく事を選んだのです。
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