業績不振にあえぐ電機業界。優秀な技術者が次々と会社を去っている。ソニーを退職した古賀宣行氏もその1人だ。古賀氏は「ソニーは嫌いな会社ではないが、面白いことができなくなった」と振り返る。
古賀氏は、退職直前中国・深センでオーディオ関連の製造移管を担当していた。2010年に日本へ帰任命令が出て「それなりのポジション」も用意されたが退職を選んだ。
空気清浄機はウォークマンの延長
新天地に選んだのは起業だった。空気清浄機を作る会社「エクレア」を立ち上げた。エクレアは2012年12月に空気清浄機「cado」を発売。価格は4万4800円~と高額だが、在庫切れが続く人気となった。

ソニーはウォークマンやテレビなどデジタル製品を主力としている。空気清浄機は白物家電。ソニー出身者と空気清浄機は結びつきづらい。だが古賀氏の中ではつながっていた。古賀氏が得意とするのがメカトロニクスだ。機械制御の一部分を電子回路化することで、製品を小型・軽量化できる。かつて日本の家電メーカーのお家芸だった分野だ。
ウォークマンはカセットを挿入して再生するなど駆動部が多かった。空気清浄機も部品を組み合わせる。「いまのデジタル製品はソフトウエアの組み合わせだけど、僕がやってきたのはメカトロ。だから同じ」(古賀社長)というわけだ。
古賀社長は1980年にソニーへ入社した。世界初のフロントローディングと呼ばれる方式を採用したCDウォークマンや世界最小DATウォークマン、ICレコーダーなどの開発に携わってきた。
古賀社長はどこも発売していない「世界初のオンリーワン」製品を開発してきた自負がある。だが途中からオンリーワンのものづくりをしているのか疑問に感じてきたのだという。
デジタル製品はもう「あがり」だ
最も感じたのは2003年に発売したネットワークウォークマンの開発に携わった時だという。米アップルの携帯音楽プレーヤー「ipod」に対抗した製品だった。古賀社長にとって自信作ではあった。だがアップルは音楽販売サイト「itunes」を作りハードウエアの魅力を高めた。生態系までも作ったアップルに対して、ソニーは不発に終わった。古賀社長は「薄くなったら意味があるのかと言われればない。『乾電池で100時間使える』といっても高く売れるわけでもない。もうゴールまで行き着いた製品。デジタル製品はすごろくでいえばもう『あがり』」だと言い切る。
一方で空気清浄機は成長の余地があると映る。消費動向調査(内閣府経済社会総合研究所調べ)によると、空気清浄機の国内の普及率は43.5%。テレビなどに比べると低い。微小粒子状物質(PM2.5)など大気汚染の問題は海外でも敏感になっている。「年齢を考えると、もうそんなに長くは働けない。環境と健康に貢献できる領域で新しい挑戦がしたかった」(古賀社長)。
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