出張などで中国に行った際、スーパー巡りと並んで楽しみにしているのが証券会社の店頭を見て回ることだ。

 2007年から2008年にかけ中国株がバブル最盛期だったころに店頭をのぞくと、昼休みに抜けてきたであろうショップ店員やコック(白帽子に前掛け姿)、おじいさんやおばあさん、主婦、そして一見して分かる農村からの出稼ぎ労働者がずらりと並んでいた。

 店舗は大きな株価ボードに加え、株価チェックや取引ができる電子端末を10~30台据え付けているのが一般的だ。皆、一心不乱に端末を操作し、知り合いと売買のタイミングを話し合っていた。

 口座開設を受け付ける有人の窓口もあって、店舗の外にまで列が続くほどだった。店の外には株式評論家と称する人たちが机を出し、株式必勝法のレジュメを売ったり講釈を垂れていたりしていた。「先進国では株式市場の時価総額とGDP(国内総生産)が概ね同じ水準にある。中国はまだ半分。つまり、中国株は倍になっても不思議じゃない」という解説を今も覚えている。

 すぐ側では端末の空きを待つ顧客たちが賭けトランプで時間をつぶしていた。携帯電話やスマートフォンによる売買が盛んになる前の光景だったのかも知れない。

投機を好む理由とは

 中国人は「山っ気」が強いとされる。つまり、投機を好む。

 周囲を見る限り、確かにそんな印象はある。証券口座の数は1億7000万(休眠口座を除くと1億4000万)を超えた。最盛期の売買代金は米国に次ぐほどだった。

 だからといって、個人的には「中国の人は株式投資のリスクを恐れない」「むしろ破れかぶれだ」などと言うことはできない。健康保険も、年金も、失業時の手当も貧弱な中国で、おカネのない暮らしは本当にみじめだ。

 いくら賃金が上昇していると言っても、中国では普通に働いていてはなかなか裕福にはなれない。資産を築くには官僚や政治家になって既得権益にあずかるか、起業して立志伝中の人物になるか、株や不動産で一山当てるかだ。要は、それ以外に貧しさから抜け出す方法がなかなかないのだ。

株価指数は3分の1に下落

 今は、どうなっているだろうか。1カ月ほど前。久しぶりに訪れた中国のいくつかの街で、証券会社に足を運んでみた。

 どこも閑散としていた。店舗のレイアウトは以前と大きな変更はないようだったが、上海でも湖南省・長沙でも数人が気だるげに端末の前に腰をかけているだけだった。携帯での取引が普及した影響もあるだろうが、店頭の活気のなさは現在の株式市況と無関係ではない。

 11月27日、中国株の代表的な指数である上海総合指数は1991.165と、節目となる2000を終値ベースで割り込んだ。リーマン・ショック後の急落局面以来、ほぼ3年10カ月ぶりだ。この指数は2007年秋に6000を超えていた。最高値からの下落率は70%に迫り、日本のバブル崩壊とそれほど大差ない暴落ぶりだ。

 どうしてこうなったのか。中国経済の成長が鈍化している、インフレを恐れて中央銀行が金融を引き締め気味にしている、海外からのホットマネーが流出している……。人によって様々な解釈がある。

 株価が割高か割安かを見る指標の1つ、PER(株価収益率。数字が大きいほど割高とされる)は、上海株の場合約11倍だ。2007年には60~70倍に達していたことを考えると、かなり割安になっているようにも見える。日本株のPERは15倍前後。米国株はダウ構成銘柄で15倍、ナスダック総合株価指数では20倍弱だ。

 新興国株は値動きが粗いことが多いので、PERは先進国株より低いことが一般的だ。5年にわたる調整局面を経て、中国株はようやく「割高でも割安でもない水準」になったと見ることもできる。少なくとも、近いうちに力強く反発するとの見方はほとんどない。

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