連休明けの5月7日、政府が「女性手帳」なるものの導入を検討しているというニュースが流れてきた。
共同通信が伝えているところによれば、概要は以下の通りだ。
『政府は7日、少子化対策を議論する作業部会「少子化危機突破タスクフォース」(座長・佐藤博樹(さとう・ひろき)東大大学院教授)の会合を開き、晩婚化や晩産化が進む中、若い世代の女性向けに妊娠・出産の知識や情報を盛り込んだ「女性手帳」(仮称)の導入を議論、委員からは異論などは出なかった。
女性手帳は「妊娠や出産の適齢期を知らない人が多い」との指摘を踏まえて検討されたもので、女性の将来設計に役立ててもらうのが狙い。作業部会の下で具体的な妊娠・出産支援対策を討議してきたサブチームが導入を提案した。――後略――』(元記事はこちら)
この「少子化危機突破タスクフォース」の作業部会は、少子化に歯止めをかけるための具体策を、今月中に取りまとめ、6月中に策定される政府の「骨太の方針」(←なんと気持ちの悪い言い回しであることだろうか)に反映させる意向を持っているのだという。
ニュースが配信されると、ツイッターやブログをはじめとするネット上のソースには、主に女性によるものと思われる反発のコメントが一斉に書き込まれる展開になった。
「少子化の原因が、若い女性の無知や情報不足にあるのだと、政府の人間が本当にそう考えているのだとしたら、認識不足も甚だしい」
「なんという上から目線」
「っていうかあたしたちを永遠に小娘扱いにしたいわけですか?」
「それより働く女性の育児をサポートする体制をなんとかしたれや」
「これ、つい先日発表された『育児休暇3年プラン』だかと地味に連動してないっスか?」
「ああ、あれもアタマ来た。3年間抱っこし放題とか。根本的に勘違いしてる」
「つまり、女は家に閉じこもって育児してやがれってこと?」
うむ。
私の方から付け加える言葉は無い。
前々から感じていたのだが、安倍首相にとって、出産、育児、教育、および家族観といったあたりの問題は、ご自身の信念にかかわるお話で、この分野については、持論を押し通す強い気持ちを持っておいでなのだと思う。
経済、金融、外交、国防といった国政の重要課題に関して、専門家の話に比較的よく耳を傾けている姿を見ているだけに、話が教育や家族がらみになるととたんに暴走する感じには、奇異な印象を抱かせられる。安倍さんにとっては、それほど「美しい家族像」が大切なのだろうか。
育児・教育・家族の問題に関して、安倍さんにブレーンがいないというわけではない。
ただ、そのブレーンの顔ぶれが、いずれも安倍さんが常々口にしている理念を補強する人々に限られているように見える。私は、その点に危惧を感じている。
理想を持つのは結構なことだ。
政治家として立った以上、当然のことでもある。
ただ、ある理想が、別の理想の足かせになったり、特定の理念を実現するために、別のもっと大切な何かが毀損されてしまう場合がある。そこのところを考えないと、総体としての理想は実現できない。
安倍さんの言う「美しい日本」(新政権の発足に合わせて出版された最新版の書籍では、いくつかの論点を加えて「新しい日本」という表現に差し替えられている)のいくつかの部分に私は、賛同する者だ。
が、賛成できない点もある。
今回は、安倍政権が持ち出してくる「家族観」について、私が感じているところを書こうと思っている。
私は安倍さんの「家族観」について、ふたつの点で違和感を持っている。
まず一つ目は、安倍政権が、基本的な姿勢として「グローバル化」「国際化」を押し出していることと、その「家族観」が一致していない点だ。
ご存じの通り安倍さんは、TPPを推進し、積極的な貿易・外交政策を展開することを明言している。ほかにも、たとえば教育分野で英語教育を重視する方針を打ち出しており、雇用や企業の人事についても諸外国の例にならった制度を導入する旨を述べていたりする。
つまり、安倍政権は、主要な政治課題において、内向きであるよりは、外向きであろうとし、孤立的であるよりはグローバル化を志向する方向で動きだそうとしているチームだと言うことができる。
ところが、家族制度に関しては、むしろ日本古来の伝統に戻そうとしている。
安倍さんが「日本を取り戻す」と言っている、その根幹のところに「家族」があるのだと、私は、そういうふうに解釈している。この解釈は、そんなに間違っていないと思う。
よく言われることだが、わが国の家族のカタチは、他の欧米の先進資本主義諸国と比べると、より変化が少ない。良く言えばモラルを固持しており、悪く言えば旧弊だということになる。
たとえば、同居カップルにおける事実婚の比率を見ると、日本の数字は、びっくりするほど低い。
このサイトが紹介している「結婚・同棲・未婚の国際比較(2010年)」というデータを見ると、日本では、結婚によらない同棲カップル(つまり事実婚)が全人口に占める比率は1.3パーセントに過ぎない(20代~40代)。
他国の同じ項目を見ると、アメリカは12.4%、フランスは29.2%に達している。
当然、婚外子も少ない。
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