日本の縫製工場には、世界に誇れるスゴい技術がある。しかし、海外生産の波にのまれ、人知れず次々に消えている。このままではいけない。全国の工場を訪ね歩き、優れた技術を結集して、「メード・イン・ジャパン」で世界に挑まんとする、ファクトリエの山田敏夫代表に聞く。

(聞き手は坂巻正伸)

世界的ブランド「グッチ」のパリの旗艦店を辞めて、日本の縫製工場をあちこち一人で訪ね歩いている若者がいると聞いて、話を伺いにきました。

山田:昨年1年間で200以上、今年も50以上の縫製工場を訪ねました。

目的を教えてください。

山田:アパレル業界が「良いものをより安く」を追求してきた結果の弊害を、何とかしようと思ってのことです。

「良いものを安く」はビジネスの常道、消費者にメリットがあることでは?

山田:もちろん、不当に高い価格で販売するようなことは論外です。しかし、安さを絶対視する中で、良い商品を作っている人たちが報われない現状もまた、おかしいと思うんです。

山田敏夫(やまだ・としお)氏
1982年、熊本生まれ。1917年創業の老舗婦人服店の息子として、日本製の上質で豊かな色合いの「メード・イン・ジャパン」製品に囲まれて育つ。2003年、大学在学中、フランスへ留学しグッチ・パリ店で勤務。2012年1月、ライフスタイルアクセントを設立し、国内工場の高品質な製品を揃えたブランド「ファクトリエ」をスタート、ネット通販サイトを開設した。2014年4月、中小企業基盤整備機構「新ジャパンメイド企画」審査員に。(インタビュー写真:鈴木愛子)

日本が誇る技術を消してはいけない

 日本の縫製工場は、素晴らしい技術を持っています。高級ブランドの最高級品の委託製造を手掛けている工場があり、そこには飛び切りの腕を持ったスタッフの方々がいる。しかし、訪ねてみると、作業場にはエアコンもなく、休憩するスペースもないといったことが珍しくない。

 世界が認める技術がありながら、下請けに甘んじ、カツカツの状況で何とか日々をしのいでいる。それでも生き残れれば、まだいい方で、海外生産に押された工場が、日本各地で次々と消えていっている。1990年には50%を超えていた国内生産比率が今や3%ほどになってしまった。ということは市場的には9割方、縮小したわけです。まさに壊滅的な状況の中で消えていっているのは、工場であり、日本が誇る技術です。これは何とかしなければ、と思いました。

具体的な取り組みは?

山田:2012年にライフスタイルアクセントという会社を立ち上げ、「ファクトリエ」というブランドで、オンラインショップを開設しました。ファクトリエのルールは至ってシンプルです。販売するのは、日本の工場で作った上質な衣料品。販売価格は、工場が決めた取り分の2倍。

価格は工場が決める?

「ファクトリエ」では日本国内の工場で作られた「メード・イン・ジャパン」の上質な製品を販売している。

山田:そうです。現状、多くの工場は流通・小売り側の注文に従って作り、商品を納める。「良い商品をできる限り安く提供し、お客様のニーズに応える」という錦の御旗と「できなければ別の工場に発注する」というプレシャーの下、たとえ素晴らしい技術があっても、それはコストがかかりすぎるオーバースペックの扱いとなる。結果、技術を封印し、注文通りのものを厳しい条件で下請けし続け、やがて耐え切れなくなり潰れてしまう…。

 その仕組みを変えたい。日本が誇る技術を持った作り手が、誇りを持って作った上質な商品を、それに見合う価格でお客様に提供する仕組みを作りたい。そう考えた時、工場に価格を決めてもらうのが一番だと考えました。たとえそれが他の商品より高い値付けでも、作り手がこれだけの価値があるものだと自信を持って提供して、それにお客様が満足してくれれば、それは適切な価格ですよね。

新宿西口発、夜行バスで全国の工場へ

 国内工場の壊滅的な状況を打開するには、2つのことが大切だと考えています。1つは流通を変えること、もう1つが工場自体をブランド化していくことです。

 ファクトリエの役割は、日本の工場が本気で作った素晴らしい商品を集め、お客様に提供すること。工場がしっかり利益を上げる仕組みを作り、商品は工場名入りで販売する。そうして、地方にある縫製工場が地元の人たちの自慢になる。そこで働きたいという人が増える。そうした動きを作りたいんです。

そのために、全国の工場を訪ねているわけですね。

山田:はい。最近は新幹線も利用するようになりましたが、起業当初の移動は専ら夜行バスでした。新宿駅西口のターミナルからバスに乗って、6時間、7時間かけて、工場がたくさんある地方に向かう。そうそう、京都の場合は到着ターミナルの正面が京都タワーで、地下に銭湯があるんです。そこでさっぱりしてから、いざ工場へ(笑)。

リアルに現場に足を運んでいる人ならではのエピソードですね(笑)。そうして訪ねる時は事前に工場のことを調べて…。

山田:…といった形で訪問できるケースは少数です(苦笑)。例えば、高級ブランドの下請けを任された工場が、そのブランドの看板を掲げているわけではありません。大抵はホームページもありませんから、探すのは大変です。

どうするんですか?

2012年に7坪ほどの部屋で起業した。
モデルは自分で。「プロのモデルさんを頼むと高いので…。目立ちたがり屋というわけではありません(笑)」
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