日本になぜグーグルのような会社ができないのか――。
古くはマイクロソフト、最近ではグーグル、フェイスブックなど、アメリカではテクノロジーに強みを持つ企業が多数登場している。日本でも、LINEなどの世界的に影響を与える会社が登場しつつあるとはいえ、アメリカに比べれば圧倒的に数が少ない。
この理由として、日本人は新しいことにチャレンジしたがらない、ベンチャーキャピタルなどの投資環境が整っていない、前例主義や過去の実績を重視するのでベンチャー企業の製品やサービスを敬遠しがち、などがよく挙げられる。
だが、「日本ではエンジニアが評価されない」ことが、大きな阻害要因になっているのではないかと、ギノの片山良平CEOは指摘する。
ギノは、ITエンジニア(システムエンジニア)に実際にプログラム(コード)を書いてもらって技術を評価するサービス「paiza」(パイザ)を昨年10月に開始したベンチャー企業。これまでのエンジニアの転職では、プログラムを書けるエンジニアを採用したいのに、プログラムを実際に書いてもらって評価することが行われていなかった。これをウェブ上で実現したのがpaizaだ。
今回は片山社長に、日本のITエンジニアの現状や日米の違いについて話を聞いた。従来のITは企業のコスト削減の手段の1つでしかなかったが、ここ数年、ITやウェブがビジネスの中核に組み込まれつつあるなかで、エンジニアの役割も変わりつつあるという。
(聞き手は小野口 哲)
片山さんは、日本のITエンジニアが軽視されている、地位が低いことを懸念されているそうですね。
片山:以前から、グーグルやフェイスブックのような会社が、何で日本から生まれてこないのかと、思っていたのです。
私も以前、プログラムを書いたり、プロジェクトマネジャーをやったりしていたのですが、その当時、システム構築プロジェクトがうまくいかずに炎上することが多かったのです。そんなとき、会社の上の人たちの方針は、「エンジニアは必要なときだけ調達をしてきて使えばいい」というものなのです。
“ただ作るだけ”の製造プロセスの人というふうにエンジニアは見られていたわけです。すごく軽視されている風潮があったんですよ。
じゃあ、うまくいかなかったり、遅れたりするプロジェクトに、急にエンジニアを追加投入するとどうなるかというと、うまく回らないで炎上するんです。もっと上流から見ないとうまくいかないというのは、自分自身がエンジニアだったので分かっていたんですけど、何度繰り返しても、学習せずに毎回炎上するわけです。
エンジニアはいつまでたっても単純労働者扱い
IT業界では、エンジニアのことを基本的に「人月単位」で計算しますよね。エンジニアを「何人を何カ月投入する」という考え方で、個々の能力がどうこうというよりは、単純労働の単位として投入するという考え方がずっとありますね。
片山:そうですね。やったことがない人だと、プログラムを書くことは単純労働だと思っちゃうので、新卒でもできるじゃないか、みたいな話になるんです。特に、「資源を輸入して、それを加工して輸出する」というような、古い日本のビジネスモデルをやってきた人たちにすると、どうしても単純労働者扱いになっちゃうんです。
ソフトウエアを作るのって単純な製造プロセスは結構少なくて、それを製造してみることによって、いろいろな発見があって、それを企画側にフィードバックしながら開発するような、企画と製造プロセスが一体になっているところがあるんです。
あと、プログラムをしたことがない人たちが、会社の上司や上層部にいっぱいいるのですが、彼らは、今、言ったようなことをまったく理解できない。エンジニアを正しく評価できないから、優れた人をうまく使えない、それであまり優れてない人を上に持ってきちゃうというようなことが起きるわけです。
ソフトウエアを作れる優秀な人は上にいかないし、上の人は分からないまま、という状況が続いているわけです。こんな状況では、テクノロジーを大切にする、グーグルやフェイスブックのような会社は、日本から出てこないんじゃないか、と、以前からおぼろげながらに思っていたわけです。
日本でもエンジニアで評価される人が必要だろうし、評価する仕組みのようなものも必要だろうという思いがあって、今の事業につながっていったわけです。
多くの企業にとって、ITはコスト削減の道具だった
なるほど、それが事業を起こすきっかけになるのですね。
片山:そうです。日本のIT業界では、システムインテグレータ(富士通、日立製作所、NTTデータなどに代表されるシステム構築会社)は、依然として極めて大きな位置を占めています。
各ユーザー企業には、コストセンターとして「情報システム部」のようなところがあって、そこから「コスト削減のための情報システムを組め」みたいな命令があって、システムインテグレータが受注するような“連なる構造”があるわけです。こういう構造だと、基本的に情報システム部って売り上げとかで評価されない組織なので、いかにコストダウンをしたかというところに評価が行き着いちゃうわけです。
そうなると、やっぱりそれが実際にモノ(ソフトウエア)を作るといったときにも、品質がどうとかいうよりも、いかに安く、それなりのものを作れたかということになっちゃうので、末端にいるエンジニアの人たちも、“一山いくら”という世界にどうしてもなっちゃうんです。
こういう世界がずっと続いてきたわけですけど、今って、転換点に差し掛かっていると思うんです。「ソーシャルゲーム」などが出てきたというのが大きなポイントです。ソフトウエアを作ることが、非常に儲かること、利益を出せることだということを、すごく分かりやすいこととして、社会がやっと認識し始めてきたと感じるのです。
これまでのITの目的はいわゆるコスト削減で、システムを導入したことによって人がこれだけ減らせて、年間5000万円削減できましたとか、そういうものですよね。これが、ソーシャルゲームなどの出現で変わりつつあると?
片山:いわゆるプロフィットセンターというか、事業部の中にエンジニアがいるような状態で、事業部としては売り上げ責任を持っていて、その中でどういうふうに売り上げを伸ばしていくかという、投資的、事業開発的な観点の位置付けで、エンジニアが重要になってきたということです。
そうするとエンジニアの役割もすごく変わります。今までの守りの姿勢から、攻めというか、いかに早く事業環境を変えていくかとかに直接的に関わるわけです。ウェブ、ネットなので、ダイレクトにお客さんの反応が見えて、それに対応していくことになりますから。
大企業の受託の仕事などだと、最初に話があってから実装されるまで半年とか、すごく長いスパンになることは珍しくありません。
一方、事業部の中にいるエンジニアだと、昨日の夜に出てきた問題を朝話し合って、夜にはもう解決してアップロードされているというような感じです。そんなスピード感で、投資をどんどん回収していくわけです。そういうふうにコストセンターからプロフィットセンターに変わる、そういう変化があると思うんですね。
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