日本企業では今、行き過ぎた個人主義による組織設計や人事評価を反省し見直す動きが高まっている。ただ、昔の高度成長期にもてはやされた日本型経営に戻ることも難しく、これまでとは全く違う新しい視点が求められている。

 例えば、これまで我々は「組織」という言葉を使っているが、組織として上司が部下たちを管理監督するだけでは、強い会社は作れないことも分かってきた。そこで「組織という言葉を捨て、集団を“チーム”として捉え直したら、新しいシナジー効果が生まれる可能性がある」と提言しているのがチームビルディングのオーソリティである斉藤秀樹氏である。組織運営が硬直化している会社では、チーム作りから見直すのは意味があること。その要諦について、経済ジャーナリストの田代真人氏と聞いた

(聞き手=田代真人 瀬川明秀)

我々はあまり意識せずに、組織という言葉を使ってきましたが、そもそも「組織」と「チーム」の違いとは何か?また、斉藤さんが「チームづくり」を提唱されるようになったキッカケは何だったのでしょうか。

斉藤秀樹(さいとうひでき)
株式会社アクションラーニングソリューションズ代表取締役、一般社団法人日本チームビルディング協会代表理事。人事・人材開発部門の担当および人材開発部門責任者、KPMGコンサルティング(現 Bearing Point)の人事コンサルタントを経て、人材組織開発コンサルタントとして独立。米国で直接アクションラーニングコーチ養成プログラムを受け、GIALジャパン(現:NPO法人日本アクションラーニング協会)設立に参画、ディレクター就任。その後、株式会社アクションラーニングソリューションズを設立し、代表取締役に就任。著書に『最強組織を作るチームビルディング術』(日経BP社)がある。

斉藤:私は26歳の時、当時働いていた会社で最年少のチームリーダーとなりました。その時、どうやれば、ほかのチームより良い成果を出せるか、だけを考えてチーム運営をしていました。今にして思えば、とても傲慢なチーム運営だったのですが、そのチームは期待以上の成果を出していたのです。私は自分のチームに誇りと自信を持っていたのです。

 しかし、私が人事異動で、そのチームを抜けることになり、後任を信頼していた後輩に託したのですが、リーダーになった彼はチーム運営に悩み、失踪してしまいました。

 結果、そのチームはすぐに解体されてしまったのです。ショックでした。私が安定的にいい成績を上げられる強いチームを作り上げたと思っていたのは幻想だったんです。単に旧態依然の「上司」に過ぎなかったのです。

組織とは?チームとは?

その後、どうされたのですか?

斉藤:その時、「組織とは何か?」「良いチームとは?」というチームづくりの本質と向き合いました。そして、自分自身が、これまで当たり前だと考えていた、上司に気を使い、部下に気を使い、目先の目標を達成するために胃が痛むほどのストレスを抱えながらの組織運営に疑問を感じ始めたのです。

 自分自身のストレスで憔悴しきった顔、それなのに成績を上げるために部下を叱る。良い組織運営の対極にいたんですね。これではみんなのやる気が出るわけがありません。いつの間にか誰も報われない組織づくりをしていたわけです。

確かに。上司に余裕もなく、仕事の管理と叱責では部下のやる気も成長も削がれますよね。

斉藤:ええ。やはり私たちが働く上で必要なことは、チームとしての信頼関係があり、ちょっとした成果にも達成感を味わうことができることなんです。それが「やりがい」や「生きがい」につながるわけです。結局、チームとしての活動を通じてチームメンバーそれぞれが価値ある人生を送ることができるというのが、良いチームの最大の成果なんです。

 リーダーはまずこのことに気付かなければなりません。その上で何をすべきか、良いチームを生み出すために必要なことを1つひとつやっていくことが重要です。

日本企業の80%以上が機能していない

実際、いまの日本の会社に良いチームというのは少ないのでしょうか?

斉藤:私は、日本企業の80%以上の組織が機能していないと思っています。大げさだと思われるリーダーのみなさんは、ご自分の組織はチームとして機能していると自信を持って言えるか考えてほしいのです。チームとして機能している、チームとして機能していない組織の大きな違いは何だと思いますか。それは、チームシナジーを生み出せているかどうかです。

 チームシナジーとは、1人で課題に対処するよりもチームで対処した方が、個々のメンバーの特性を活かすことにより相乗効果が生まれ、大きな成果が生み出せるということです。これこそがチームとして機能しているかを判断する基準なんですね。

 もともと組織というのは「1人では生み出せない大きな成果を生み出すため」、「個々の強みを活かしてブレークスルーや斬新なアイデアを生み出すため」「一体感や達成感をみんなで共有し大きなモチベーションを作るため」「ともに信頼できる仲間と切磋琢磨して互いに成長するため」というような目標を持って存在するものです。

 このようなことは誰もが頭では分かっています。しかし、そのような理想像を抱きながら、実際にはそうなっていない組織の方が多いわけです。

では、よいチームとは

では、具体的に良いチームとはどんなチームでしょうか?

斉藤:私は良いチームのことを「健康チーム」と呼んでいるのですが、このようなチームは次のような特徴があります。

 まず「チーム意識が強く、日常的に全員が協力して業務が行われていること」

 私はセミナーやコンサルティングを通じて多くの経営者やリーダーの皆さんとお会いしています。そこで口々に「うちのチームは個人商店化していてチームとしてシナジーが生み出せていない」とおっしゃるのです。昨今、以前と比べてチームづくりを重視するリーダーは増えています。そして、課題もある程度理解されています。

 しかし、その解決策が分からず日々の雑務と課題に翻弄されているのです。とても辛い日常です。

この記事は会員登録(無料)で続きをご覧いただけます
残り4676文字 / 全文文字

【初割・2カ月無料】お申し込みで…

  • 専門記者によるオリジナルコンテンツが読み放題
  • 著名経営者や有識者による動画、ウェビナーが見放題
  • 日経ビジネス最新号12年分のバックナンバーが読み放題