景気は今春から後退局面に入ったと言われている。26日にも発足する安倍晋三政権は景気テコ入れのために大規模な補正予算案を編成し、日銀にも大胆な金融緩和を迫る方針だ。景気循環論の第一人者である嶋中雄二・三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所長に現状と先行きを分析してもらった(聞き手は渡辺康仁)。

景気は後退局面に入っていると言われています。足元の状況をどう見ていますか。

嶋中 雄二(しまなか・ゆうじ)氏
三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所長。1955年東京生まれ。1986年早稲田大学大学院経済学修士。仏リヨン経営大学院留学などを経て97年に三和総合研究所主席研究員。2006年三菱UFJリサーチ&コンサルティング投資調査部長兼主席研究員。2010年から現職。内閣府経済社会総合研究所の景気動向指数研究会委員や景気循環学会常務理事なども務める。(撮影:松谷祐増)

嶋中:景気の循環を見るうえで重要なのは鉱工業生産指数です。生産指数は4~6月期に前期比2.0%減、7~9月期も同4.2%減と大幅なマイナスを記録しました。しかし、10~12月期は予測指数を織り込むと前期比で0.6%増となります。この数字が実現するかどうかはわかりませんが、単月で見ても10月の生産指数は前月比で1.6%増加し、9月の4.1%減からプラスに転じました。どうやら、鉱工業生産の底は9月だったということになりそうです。

 12月の生産予測指数は前月比7.5%増と大幅な伸びが見込まれています。自動車などの輸送機械工業や電子部品・デバイス工業、電気機械工業といった代表的な産業を中心に好調の見込みで、流れとしてはうまくいきそうだと言えます。

 注目すべきなのはトヨタ自動車が11月下旬に発表した生産計画です。月々の動きを見るために弊社が独自に季節調整をかけたところ、11、12月と前月比でプラスになったのに続き、2013年1月は23.7%増となります。四半期で見ると、10~12月期の前期比14.1%減の後、2013年1~3月期(1~2月平均で計算)は27.1%の大幅な増産を計画していることになります。

 裾野の広い自動車メーカーの積極的な生産計画を前提にすると、1~3月期の生産は相当強いものになる可能性が大きいのです。

 景気が底入れする「谷」の時期を議論する場合、景気動向指数をもとに算出する「ヒストリカルDI」と呼ぶ指標を見て判断します。11の個別指標のうち50%以上の指標がプラスであれば景気が上向きと判断するわけですが、11月にはそのラインを上回ってくるでしょう。50%を上回った前の月が景気の「谷」となりますので、2012年3月に「山」をつけて後退局面に入った国内の景気は10月には「谷」を迎えたと言えます。つまり、12月の今の時点では景気が回復局面に入ってから2カ月目になっているのです。

リーマン後と似る中国の底入れ

日銀が今月発表した企業短期経済観測調査(短観)は大企業製造業の業況判断が大きく悪化しました。それでも景気は回復しているのですか。

嶋中:確かに、短観は9月調査よりも大幅に悪化しました。10~12月期の実質GDP(国内総生産)はほぼゼロ成長と見ていますが、ひょっとすると小幅なマイナスになるかもしれません。しかし、それをもって10~12月期に景気がさらに悪くなったという議論をするとしたら、極めてラフなものと言わざるを得ません。景気の転換点は本来月次で付けるため、短観やGDPで見てはいけないのです。

 そもそも今回の景気後退は私が言い出したのです。9月5日に公表したレポートのタイトルは「まさかの“景気後退”も、すぐ見えるトンネルの出口」です。私自身、当初、景気は踊り場かなと思っていましたが、7月の生産指数が大きく落ち込んだのを見て、これは景気後退だなと思いました。9月の時点で景気後退と認めているエコノミストは極めて少数でした。

10月が景気の谷だとすると後退局面は7カ月です。なぜ、短期間で終わったのでしょうか。

嶋中:リーマンショック後の景気の谷が2009年3月だと私はいち早く指摘しましたが、その時と同じような環境にあります。2009年3月から5月にかけて、トヨタとホンダがハイブリッド車の生産を大きく増やしました。生産指数が2月に底を打ったのに続き、自動車の生産計画が非常に強気になったのです。これが国内での景気底入れの兆候だと思いました。

 当時はもう1つ事情がありました。リーマンショック後に世界の主要国で景気が一番早く底入れしたのが中国です。中国の景気の先行指数は2008年11月に底を打ち、その後、2009年2月を境に景気は回復したのです。先行指数の動きを見ると、今年10月まで4カ月連続で前月を上回っています。

 寄与が大きいと見られるのが貨物総量と主要港の積み荷取扱量です。2008年末の段階で、当時の温家宝首相は港に積みあがっていた在庫が随分はけてきたという発言をしている。今と非常に似ているのです。

 当時と今とで事情が違うのは、9月の反日デモ後の中国での日本車の販売落ち込みです。ただ、日本メーカーの販売台数は依然として水面下にありますが、前年比のマイナス幅は徐々に小さくなっている。中国市場全体で見れば、10月以降は順調に回復しています。

 中国は金融緩和でマネーサプライを増やしているため、北京や広州などを中心に不動産価格も底入れの兆候が出ています。製造業の景況感を示すPMI(製造業購買担当者景気指数)も8月を底に、11月には拡大と悪化を判断する目安となる50を超えました。固定資産投資や小売り売上高も7~9月に比べて10~11月は改善している。これだけ材料があれば、中国の景気が回復しているのは明らかです。

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