木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

ご質問について

これまでに、たくさんのご質問、コメントを頂きました。まことにありがとうございます。 最近忙しく、なかなかお返事ができませんが、頂いたコメントは全て目を通しております。みなさまからいただくお便りのおかげで、楽しくブログライフさせて頂いております。これからもよろしくお願い致します。

ニッポンのジレンマ 本日ないし明日対局

2012-09-28 13:24:54 | ãŠçŸ¥ã‚‰ã›
NHK Eテレの討論番組、
本日28日24時(ないし明日29日0時)から
ニッポンのジレンマ、放送予定でございます。

わたくしも出演しておりますので、
ご覧頂けたら幸いです。

また、NHK出版の運営するサイト「ジレンマ+」にて
出演者の収録後インタビューが掲載されております。




今回のテーマは国際関係ということで、
いろいろ準備をしまして、
学生の頃の国際法・国際政治のノートや
ケルゼン『一般国家学』の国際法の箇所などを読み返したり、
憲法9条についての奥平先生や樋口先生の議論を読んだりいたしました。

また、将棋対チェスなどもしてみて、

日本の魅力を発見しようともしてみました。



討論の現場では、
近代法秩序の神官のような立場でお話させていただきました。
ということで、ちょっと討論の自戦記解説風に。


「近代」というのは、
統一された抽象的な原理で世界を規律する思想で、
近代法や近代政治というのは、そういう思想に基づいてできているわけです。

法や政治や国際秩序というのは、
電気・ガス・水道や道路、鉄道網のような社会的インフラです。


「主権国家併存の国際システム」というのも、
やはり、我々の生きる地球の社会的インフラでありまして、
地球上に生きる人々に、平和や安全や人権を保障するためには、
それぞれの領域で暴力を管理し、その領域の人々の生活に責任を持つ主体
すなわち、国家が必要であるわけです。

主権は、対内最高、対外独立の権力と定義されますが、
対内最高でないと領域内の暴力を管理できませんし、
対外独立でないと領域に対して責任を持てません。

また、主権というのは、それが裸の状態で行使されると
非常な圧政になりますので、
立憲主義(法の支配、権力分立、人権保障、民主主義)
による歯止めをかけるわけです。

 (法学部の国際法や憲法や国際政治の講義では、
  こういったことが徹底的に叩き込まれます。)

というわけで、主権国家が持っている主権や
立憲主義の構想に従った統治のルールというのは、
「世界中で安全や人権を保障しよう」という
国際秩序のおおもとの規範を実現するための
重要な道具なわけです。

そうした国際秩序のおおもとの規範や、
地域内で確立した主権、立憲主義というのは、
清潔な上水道や、混乱なく運行される鉄道網のように、
我々が生きる上で重要な社会的インフラなのですね。

 (現在のイラクやアフガニスタンの例を見ても分かるように、
  地域内できちんと暴力を集中した権力を確立するというのは極めて難しく、
  また、諸外国に目を向けると、
  立憲主義的なルールに基づいて国家を運営することは、
  さらに難しいことなのですね。
  途方に暮れそうです。)
 (このあたりは、政治学者の吉田先生や
  国際人権NGOで活躍されている土井弁護士と、
  強く意見が一致したことでした。)

で、国際関係を考える際には、
各国の主権や、それに基づく国際秩序というものが、
全地球的公共利益(全人類の平和、安全、人権)のためにあり
重要なインフラであることを常に自覚しなくてはいけません。
 (というようなわけで、
  近代はもういらない、近代はもともとなかった的な
  議論に対しては、かなり警戒的な態度をとって討論させていただきました。
  当たり前すぎて自覚できないですが、
  やはり近代水道は、我々にとって欠くことのできないインフラなのです!)

もちろん、ここにお話したことは、大原則であって、
現実には、それがうまく機能しないことが多々あります。
 (とは、共演いたしました陳先生のご指摘です。
  ごもっともでございます。)

ただ、そうした例外問題は、大原則を正確に把握してこそ
解決できる問題なはずではないか。
 (と、こちらの収録後インタビューでお話ししております。
  ちなみに、私は、主権国家の相互協力の進展によって、
  地球的公共価値の担い手となる主体を創出しようという
  ケルゼン先生や長尾龍一先生の議論に非常にシンパシーを感じております。
  参照 長尾龍一『リヴァイアサン』(講談社学術文庫))

と、これが、近代法秩序の神官としての基本的スタンスになるわけです。

こんなスタンスでお話しさせていただきました。
共演者の皆様とは、とても楽しく議論させていただきましたし、
専攻分野外の議論や著作にふれることができて、大変勉強になりました。
どうもありがとうございました。

また、このような興味深い議論に参加させていただく貴重な機会を
与えてくださいましたスタッフの皆様に、御礼申し上げます。

公式戦情報

2012-09-27 13:43:04 | ãŠçŸ¥ã‚‰ã›
最近、これまでに経験したことのない土俵で戦うことが多かったのですが、
現在、公務員の政治活動規制の合憲性を検討する論文という
非常にマイフィールドな土俵で戦っております。

いやになるほど議論が積み重ねられてきた領域ですが、
今年の重判で、民法900条の合憲性問題の決定版を書いたように、
公務員の政治活動規制問題の決定版を出すつもりで、書いております。

ゴキゲン中飛車を終わらせる、な竜王のお言葉をお借りし、
公務員の地位・権限の濫用を伴わない政治活動規制に関する議論を終わらせるつもりで書きます。


因みに、公務員の政治活動規制の急所は、
奥平康弘「日本社会の現在と最高裁判所」法律時報増刊 国公法事件上告審と最高裁判所
で、がっちりつかまれております。

あとはその急所に一撃するだけです。

最高裁の裁判官席に座る人々も、これを読んで、投了するはずです。
もし、私の原稿よまなかったら、不勉強太郎です。はい。


と、自分を鼓舞してみました。

将棋対チェスの歴史(3)

2012-09-24 16:54:03 | å°†æ£‹
さて、そんなわけで、宴もたけなわな将棋対チェスの歴史であるが、
リットン調査団の調査により、
どうも日本では、大局将棋が日常的に指されているわけではないらしい
ということが分かったわけであるが、
といって、チャトランガ系統のゲームが全くないわけでもないらしい
だって、桂馬と言う駒の動きはみんな分かったんだもの
ということになった。

そもそも、402枚も自軍がいる大局将棋が日常的に行われているというのは
いかにもありえそうにない事態であり、
それを本気にしていた銀チャ連も銀チャ連であるが、
それにつけこんで、大会180連覇をした日本代表も日本代表である。


とまれ、こうして日本で、「本当に」指されている将棋のルールを
調査するため、第二次調査団が送られた。

その結果、判明したのは、
日本の本将棋というのは、一軍20枚の常識的な(?)ルールであり、
これなら、別に問題ないだろう、ということだった。

ところが、第二次調査団は、さらなる驚きに見舞われる。
一枚一枚の駒の動きが、諸外国の将棋類に比べ
あまりにも、「みみっちいpetty」のである。

ちなみにこの「みみっちい」と言う表現であるが、
日本側は、これを「繊細delicate」と表現するよう主張して、
かなり長い議論がなされ、結局、正式報告書では
「かわいいpretty」と表現することになった。

この議論を「みみっちい」議論というか、「繊細な」議論というかは
今でも議論が分かれている。


さて、この駒の動きが、えーと、その、とにかく「小さい」というのは
日本将棋の特徴である。

チェスには、飛車の動きをする駒(ルーク)が二枚あり、
飛車と角を足した奔王の動きをする駒(クイーン)も一枚。
桂馬も八方に動く強力な駒(ナイト)になっている。

日本語で言うと、王と歩を除くすべての駒が「大駒」だが、
将棋の場合、大駒は自軍に二枚だけ。

一説によると
諸外国の将棋類では、駒の動きが強くなっていったらしいのだが、
日本では、駒の動きがどんどん小さくなっていったという。

日本的と言えば日本的な気がするエピソードである。


さて、そんなわけで、駒の動きがあまりに弱くなったところで
加えられたルールが「持ち駒」であり、とった駒を自軍に加え
いきなり敵陣に送り込める、と、こういうことである。

これは将棋を指したことがある人ならだれでも実感されたことと思うが、
持ち駒というのは、かなり狂暴である。
諸外国の将棋類から見れば、ほとんど反則技だろう。

自分で駒の動きを弱くしておきながら、
それではゲームにならないと、
最後には、逆切れのような反則技に近いルールを加える。


日本的と言えば日本的な気がするエピソードである。

                    (つづく)

スピーチの急所

2012-09-23 14:23:46 | ã¡ã‚‡ã£ã¨ä¸€è¨€
将棋ペンクラブ大賞の授賞式で、村山慈明六段が、
「自分はスピーチが苦手なので『スピーチの急所』という本が
 あれば今すぐ買いたい」と述べ、
初代スピーチ名人に輝いてから、はや数週間。

スピーチの急所といって思い出すのは、
やはり三つの袋の話である。

これは、古都大学京都の卒業式で
二代目学長、能勢益男教授が放ったスピーチに由来する。

「卒業式には、三つのふくろがついてきます。

 第一に、給料袋。卒業し社会人になると、
 お給料をもらうようになります。

 第二に、おふくろ。本日正装されたみなさんの雄姿、
 親御さんが見に来てくださっていることでしょう。

 そして、最後に、堪忍袋。
 えーと、あれ、なんで堪忍袋だっけ。ま、
 とにかく、社会人は忍耐です。」

という内容のスピーチである。

そもそもスピーチというのは、
目の前においしい料理があるパーティー会場で、
刻一刻と料理が冷めて行く中なされるものであり、
できるだけ手早く行うのが好ましい。

また、聴衆は、趣味も年齢も性別もばらばらなので、
できるだけ手広く興味を引けるスピーチが好ましい。

そんな中、この三つの袋の話は、見事である。

まず、話は三つ目の袋のところで必ず終わる。
それなら、まあ少しは聞いてもよいではないか。

そして、三つの袋があると言われれば、
とりあえずなんだろうと興味が引ける。

そういうわけで、この三つの袋のスピーチは
またたくまに全国に広がり、
なぜか大学の卒業式を超えて結婚式までをも席巻するようになったという。

ところで、
このようなくだらない記事を読み通すのにも、
やはり堪忍袋が必要であろう。            忍耐。

伝票はメイエさんに

2012-09-19 13:53:12 | éŸ³æ¥½
先日、ふと見たテレビ番組にレヴァンフランセの面々が出演していた。

レヴァンフランセは、
フルートのパユ、クラリネットのメイエ、オーボエのルルーといった
一流のフランス出身音楽家による室内楽ユニットで、
プーランクを十八番とする大人気グループである。

ちなみに、写真で見たとき、このユニットで一番イケメンなのは
ポール・メイエ氏(クラリネット)なのだが、
実演やテレビでのインタビューの様子を見ていると、
これはもう、ただ、ものすごいいい人である、
ということが伝わってきて、
演奏家というより、頼れる事務局長と言う空気が漂う。

「他の方は心から楽しそうで大騒ぎで、
 何も話を聞いて下さらなかったんです。
 なので、伝票は、端っこでウーロン茶を飲んでいたメイエさんに
 渡したんですよ」
  とはレヴァンフランセ日本公演の打ち上げ会場となった
  「居酒屋・美濃囲い」の女将の証言である。

さらにちなみに、
このグループで一番態度がデカいのは、
おぎやはぎの小木さんに似たピアニスト、エリック・ルサージュ氏である。

パユやメイエのような華々しい受賞歴があるわけではないのだが、
演奏を見ていると、そして、なにより立ち振る舞いを見ていると、
この男が支配者だ、と言う空気が漂うのである。

「明らかに態度が悪いから、ルサージュに
 『お前がボスだろ』って聞いたら、
 『ウイ』って答えたんだよ。」
  とはレヴァンフランセの打ち上げ会場となった
  「レストランバー矢倉」のマスターの話である。

閑話休題。

まあ、とにかく、そんな伝票を渡すならこの人しかいないメイエ氏や
誰がどう見てもボスに見えるルサージュ氏から成るユニット
レヴァンフランセなわけであるが、
私が見たインタビューで、パユはこう答えていた。

パユは、周知の通り、20そこそこの若さで、
ベルリンフィルの首席フルート奏者になり、
数々のソロCD,フルートコンチェルトのCDをリリースした現代最高のフルート奏者である。

技術も表現もあまりに素晴らしいため、
本当にフルートだろうか、と言いたくなる演奏の数々。

あまりにウマすぎてフルートに聞こえない音色を出すフルート奏者は、
最高級の音楽家であることはともかくとして、
最高級のフルート奏者と言えるのか、だって、フルートに聞こえないんだもの、
と、禅問答の一つもしたくなるではないか。


閑話休題。

まあ、とにかく、そんなパユに、ギャラリーの音大生の方が質問をした。

音大生の方の質問は、演奏会後にモチベーションがダウンしてしまうのだが、
どうしたらよいでしょう、的なものであった。

これに対するパユの答えは、

「音楽会の後に、楽しかった、またやりたい、もっとやりたい、
 と思えないのなら、
 音楽へのアプローチを変えてみてはどうか。
 演奏会をすることだけが音楽を楽しむ方法ではない。」

 と、こういうものであった。

厳しい。

いや、しかし、その通りだと思う。ちなみにこの時、
パユの表情は硬く、怒っているといっても過言ではなかった。

厳しい。

およそ何かのプロであるなら、この厳しさに耐えれるよう、努力しなければならない。
私は、このパユの表情を一生忘れないと思う。



ちなみに、番組では、このパユ発言後に、がちがちに緊張する空間を
ルルーが盛り上げていた。

「きっと君は緊張してしまうんだろう。
 僕も演奏会で緊張しちゃうことあったよ。 
 だけど、力を抜くことを覚えれば自然に楽しくできるよ。」
 的な発言で、会場の空気は和らいでいった。

ルルーの笑顔は、素敵だった。
たぶん、モテると思う。

レヴァンフランセは、本当に良いチームだ。