木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

ご質問について

これまでに、たくさんのご質問、コメントを頂きました。まことにありがとうございます。 最近忙しく、なかなかお返事ができませんが、頂いたコメントは全て目を通しております。みなさまからいただくお便りのおかげで、楽しくブログライフさせて頂いております。これからもよろしくお願い致します。

立法裁量と違憲審査基準

2011-11-30 16:13:38 | Q&A 憲法判断の方法
さて、立法裁量と違憲審査基準論の関係について、
よしのさまよりご連絡をいただきました。
立法裁量の概念は

立法裁量について (よしの)
2011-11-29 00:13:03
初めまして、先日新司法試験に合格しましたが、合格後も「憲法の急所」を拝読するほど憲法が好きな者です

さて、一つ質問させて頂きたいことがございます。
先生は、なぜ審査密度・基準を設定する過程で立法裁量というワードを使わないのですか?

著書を拝読した限りでは、先生は違憲審査を判断代置的に行っており、裁量を前提にしていないように見えます。

最近の多くの最高裁判例においても立法裁量についての言及が見受けられますし、
芦部通説においても裁判所として立法府に対してどの程度踏み込んで審査するかといった思考方法がとられているように理解しています。

宜しくお願い致します。


 >こんにちは。合格おめでとうございます。現在、修習がはじまったところでしょうか。
  大変な責任の伴う研修、そして今後のお仕事、どうぞ頑張ってください。

  また、修習所の教官の方々に、『急所』をお勧め頂ければ幸いです^-^>
  
  さて、ご質問の点ですが、
  関連してsnow様が次のようなご指摘をされています。

Unknown (snow)
2011-11-29 14:40:10
こんにちは。よしの様の質問に関することなので、二重質問とならないために、重ねて質問させてください。
私は、比例原則は裁量統制の役割を果たすので、先生の審査基準のお立場からすると
立法裁量によって審査基準が左右されるはずがないというお考えなのだろうと、勝手に理解していたのですが、このような理解でいいのでしょうか。

一時期、審査基準基準論と立法裁量論の関係について大混乱を来していましたので、先生の本に出会って救われたと感じた部分なのです。



どうもありがとうございます。
これは基本的に、snow様のおっしゃる通りです。

結論から申しますと「立法裁量だから」という理由で
「違憲審査基準論を緩やかにする」という議論を採っている方は
芦部先生や最高裁判例含め存在しませんし、そのような立場は理論的に誤っています。
(この点は、まず『急所』104頁にもヒントになる記述がありますので、そちらもご参照ください。)

ええと、ですね、
「これは立法裁量だから厳格審査じゃないはずです」という議論は、
立法裁量の定義の理解が不十分なわけです。

立法裁量というのは、「合憲・合法な立法府の選択の幅」のことをいいます。

そして、どのような立法府の選択が合憲であるか(どのような立法が立法裁量の中にあるか)?は、
違憲審査基準を適用して、この立法の選択は合憲、この立法の選択は違憲と判断して、
はじめてわかることです。

つまり、立法裁量というのは、
何らかの理由で設定された違憲審査基準の適用の結果認められるものであって、
違憲審査基準を設定するための理由や要素にはならないわけです。



また、「広範な立法裁量が認められる」ということと「緩やかな審査基準を適用する」ことは、
同義ということになります。

なので、
「広範な立法裁量が認められるから、緩やかな審査基準になる」という議論は、
「緩やかな審査基準を適用すべきだから、緩やかな審査基準を適用すべき」と言っているのと一緒で、
ただのトートロジーです。

さらに、「広範な立法裁量を認めるべき理由」は、
要するに「緩やかな審査基準を適用する理由」ですね。

なので、「A:〈これこれこういう理由〉でB:裁量を広範に認めるべきだから、C:緩やかな審査をする」という
文章は、判例にもしばしば登場しますが、
ここでのBは、Cの理由ではなく(B=Cです)、AがCの理由だということになります。
なので、この文章には、Bの部分はなくてもいいのです。


私が、違憲審査基準設定時に、立法裁量と言う言葉を使わないのは、
この言葉をつかうと、Bの部分がCの理由になっているという誤解を招きやすいからです。

というわけで、比例原則が裁量統制基準であるというsnowさんの理解の通りということになりますね。

よしのさま、これでいかがでしょうか?

【重要】急所第八問の訴訟形態について

2011-11-30 15:52:24 | ä½œå“æƒ…報 『憲法の急所』
先日、mona様から次のようなご連絡を頂きました。

急所・第8問 生活保護減額処分事件について (mona)
2011-11-28 19:02:42
木村先生、こんばんは。
たびたび質問、失礼します。

急所・第8問の、取消の違法事由の主張の仕方について疑問が生じたので教えてください。

問題では、Xは本件「裁決」の取消訴訟を提起しています。
そして、検討編では「本問では、そもそも本件変更処分は違法であり、これを適法とした本件裁決も違法だと主張することになります。」(P.281)と、されているのですが、ここで原処分主義(行訴10条2項)が頭をよぎりました。
裁決の取消訴訟では、裁決固有の瑕疵しか主張できない以上、本件変更処分が違法であることは主張できないのではないか、という疑問です。

裁決主義なのかな、と思って生活保護法を見てみたのですが、そうでもなさそうで、よく分からなくなってしまいました。

お時間のあるときで結構ですので、よろしくお願いします。



>monaさま (kimkimlr)
2011-11-28 21:28:56
こんにちは。

確かに処分取り消し訴訟でないというのは不思議です。

実は、あの問題は朝日訴訟のやり方にあわせてあります。
あの訴訟では、原告が、処分が違法であり、それを適法とした裁決も違法
というロジックで裁決取り消し訴訟を提起しており、
被告も裁判所も原処分主義からのつっこみをいれず
実体判断をして上告まできたという事案なのです。

『急所』では、有名な朝日訴訟と処理が違うと混乱を招くと思い
処理の仕方を踏襲しました。

、、、。ただ、そもそも朝日訴訟がなんで
裁決取消訴訟なのか、良くわからない気もします。
私も確認してみますが、monaさんも行政法の先生や社会保障法の先生にきいてみてください。

何か分かったら教えてください


お返事、ありがとうございます (mona)
2011-11-28 22:50:10
さっそくのお返事、ありがとうございます!

朝日訴訟の処理の仕方だったんですね。
処理手順まで気にして読んだことがなかったので気付きませんでした・・・
ちゃんと原文を読んでみようと思います。

私も何か分かったら、またコメントさせていただきます。

ありがとうございました!


分かったかもしれません (mona)
2011-11-29 16:24:26
こんにちは、木村先生。
今日も寒いですね。

昨日、質問させていただいた、朝日訴訟の処理手順の謎が解けたかもしれません。

それは…
朝日訴訟は行政訴訟法施行前に係属していた訴訟なので、行訴法10条2項の規定が適用されない(附則5条)ということです。

行政事件訴訟法が施行されたのは、昭和37年5月16日。朝日訴訟の第1審判決が出たのは、昭和35年10月19日なので、少なくとも行訴法施行前に訴訟は係属しています。
そして、附則5条は「この法律の施行の際、現に係属している裁決の取消の訴えについては、第十条第ニ項の規定を適用しない。」と定めています!
なので、朝日訴訟には原処分主義(行訴10条2項)が適用されません。

だけど、どうして原告が採決の取消訴訟を選択したのかは調査しきれていません。
行政訴訟法特例法下では、原処分主義の規定はなかったそうですが(芝池義一「行政救済法講義 第3版」p.78,7行目)、当時は当事者も裁判所も、「処分」と「裁決」のどち

らで処分の違法性を争うべきかについて、あまり意識していなかったということなのでしょうか…






どうも、ありがとうございました。
単純に朝日訴訟の訴訟形態を踏襲していましたが、確かに法改正があって
現行法の下では原処分取消訴訟が正しいのかもしれません。

調査の粗さを、猛烈に反省しております。
どうもありがとうございました。

因みに、朝日訴訟で裁決取消を訴えたのは、恐らく、
争点が厚生大臣の決定した基準額の適法性だったからではないでしょうか?
これを争点に、市を相手に訴訟するのは、筋が違っているようにも思います。

この点については、もう少し調べてみたいと思います。
閲覧者の方で、何かご存じの方がいらっしゃったら、教えて下さい。
うーん、葛西先生か、尾形先生に聞いてみるか。

制度的保障と制度後退禁止

2011-11-30 15:50:26 | Q&A その他
制度後退禁止と制度的保障 (お茶の子)
2011-11-28 18:17:24
 「急所」において説明されている「制度後退禁止の原則」といわゆる制度的保障の関係がよく整理できません
 前者は,国家への請求権のうち具体的立法をまつべき抽象的権利の内容について,国家が充足すべき内容を持たない立法をすることが禁じられる,という意味と理解してい

ますが,このことと,制度的保障が目指す国家の国民に対する義務は同じものと考えてよろしいのでしょうか?私は,制度的保障として説明される権利や制度(大学の自治,政教分離,地方自治,信教の自由など)も制度そのものではなく,その核心を侵害するような立法が禁じられるという意味で,先生の「制度後退禁止」原則と同じ趣旨のもの

と理解できると考えます。まったくピントが外れているかもしれません。「急所」には,確か,制度的保障という項目の説明がなかったように記憶していますので,制度的保障をさらに発展させたお考えなのかなとも思います。どうか御教示くださいませ。




>お茶の子さま (kimkimlr)
2011-11-28 21:25:55
はい。

「制度的保障」というのは、
個人の権利を保障したものではなく、
客観法原則として保障されるにすぎない
(したがって、その違反について個人の主張適格が認められない)
という意味の言葉なので、
制度後退排除「権」とは、かなり異なる概念です。

(シュミットの制度的保障という概念は、
 また全然違う概念です。
 興味があるなら説明します。)

なので、制度後退排除権は、制度的保障とは全く関係のない「制度後退の禁止」という
社会権の分野で発達してきた概念を
整理したものとご理解ください。

ただ、もちろん制度核心は立法によっても奪えない
という議論なので、
良く似ていると直感されるのも無理はないかなと思います

ありがとうございました (お茶の子)
2011-11-29 07:28:55
木村先生さっそくありがとうございました
憲法,行政法が大好きで何十年も勉強しているのに理解がいいかげんなことにあきれるばかりです
今後ともよろしくお願いします

>お茶の子さま
なんと!何十年も勉強されているのですか。
今後も頑張ってください。

憲法29条2項の内容

2011-11-30 15:49:11 | Q&A その他
29条2項と森林法 (だま)
2011-11-26 12:20:58
第5問とくにテーマ講義④について質問させていただきます。

木村先生の「29条2項は、国に対し「公共の福祉」に適合する財産法の構築を請求する権利を各国民に保障する条項として理解できます」という説明は、非常にわかりやすく助かりました。

もっとも、上記のように29条2項を理解し、請求権だとすれば、請求の要件はどのようになるのでしょうか?
29条2項の文言上、①財産権侵害があること(既得権侵害だけではない)、②公共の福祉に適合していないこと、となるでしょうか?

これを前提に森林法違憲判決を読んでみると、
①分割請求権を制限
②公共の福祉に適合するかどうかは、比較考慮で判断し、目的○だが、制限に合理性はない

となり、すっきり理解できたような気がしています。

理解に誤りがある点を指摘していただければ助かります。


>だまさま (kimkimlr)
2011-11-26 12:35:06
そうですねえ、①財産権侵害という要件は
たぶん「財産権」の定義ができなくて、
うやむやになるので、要件は、
①現行財産法が公共の福祉に適合していないこと
②そのことから不利益を受けていること
位になるのかなと思います。

どうだろう。

急所第九問と白紙委任

2011-11-30 15:48:09 | Q&A その他
第9問 住基ネット起因損害の賠償制限について (tom)
2011-11-24 10:23:34
木村先生こんにちわ。

質問を1つよろしくお願いします。

P316で、「仮に、本件法律10条が有効だとしても、本件総務省令は委任の範囲を超えており…」と書かれています。
この点、私は白紙委任の問題として検討してしまいました。

委任の範囲の逸脱の問題か、白紙委任の問題かはどうやって区別すれば良いでしょうか。

検討の順番としては、①白紙委任→②委任の範囲の逸脱で、①に問題がなければ②の検討のみで良いということでしょうか。


>tomさま (kimkimlr)
2011-11-24 15:18:15
ええと、白紙委任の問題は、
そもそもそこから委任の趣旨をよみとれない
という法文で、
あの問題で書くとすれば、
一番最初かなとお思います。

委任逸脱は、委任の趣旨が読み取れるとしても
そこからずれてるという話で、一応、
白紙委任問題とは区別できるはずかと。

いや。気づきませんでしたが
確かに重要な論点ですね。
ありがとうございました。

ご返答ありがとうございます (tom)
2011-11-25 11:42:58
検討順序としては、①白紙委任:委任の趣旨を読み取れるか→②委任逸脱:①の委任の趣旨が読み取れるとしても、委任の範囲を逸脱しているか、という順序で検討するとい

うことですね。

ありがとうございました。

>tomさま (kimkimlr)
2011-11-26 12:03:35
おいっす