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今年の「#文学」
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トリレンマという言葉をご存じだろうか。トリレンマとは、満たすべき目標が3つあるのに、そのうちの 2つしか選択できず、残りの1つは諦めるしかない状況を指す。2つの選択肢に矛盾がある場合をジレンマというが、トリレンマはその3点版だ。 ちょっとネットで調べると分かるが、有名なのは「国際金融のトリレンマ」らしい。これは(1) 独立した金融政策、(2)為替相場の安定、(3)国際資本移動の自由化、の 3つのうち、2つしか選べない、という。 製造業で、このトリレンマに相当するのは、QCDのパフォーマンス指標だろう。いうまでもなく、Quality(品質)・Cost(コスト)・Delivery(納期)の頭文字だ。この三つは、まるで三角形の三辺のように関係し合っていて、他に影響を与えずに、独立にコントロールすることが難しい。 たとえば品質を上げたければ、その手段の一つとして検査を徹底する必要がある。しかしそう
以前も書いたことだが、私がまだ駆け出しの頃ついた先輩は、文系出身のエンジニアだった。一流大学の経済学部を出て、システムエンジニアを志し、製油所の基本計画をLP(線形計画法)で最適化設計するような仕事のセクションの、リーダー格だった。わたしは一応、工学部の修士卒だったが、もちろん知識でも能力でも、その先輩にはかなわない。おまけに粗忽な性格だったから、痛い思いをしながら色々と学んだ。 世間ではよく、理系と文系と言うような対比をするが、わたしはこの区分をあまり信じていない。高等教育の人格への影響が大きい事はもちろん認めるが、そもそも専門科目を選ぶきっかけは、単に特定科目の好き嫌いや、先生との相性だったりする。持って生まれた資質から必然的に決まる人間類型だ、とは到底言えないだろう。外的環境、つまり運不運で決まる要素が大きいのだ。 理系・文系とよく似た区分で、技術屋・事務屋という言い方がある。 前者
BOMの用語はややこしい。BOM(Bill of Material=部品表)の概念自体はもう、50年以上もの歴史がある。その間に、いろいろな用語・概念が確立し、徐々に変遷してきた。またBOMをめぐるソフトウェア業界にもいろんな技術進化と流行があり、大手ベンダーが差別化のために提唱した用語が、いつの間にかスタンダードみたいに普及していくこともある。 近年では、BOP(Bill of Processes)という用語がそうだ。このBOP概念はここ10年くらいに普及してきたものだが、実はまだ発展段階で、きちんと定まっていない。同一企業内でも異なる意味で使っていたりする。ちなみに2004年に発刊した拙著「BOM/部品表入門」では、BOPという言葉は取り上げなかった(ほとんど使われていなかったのだ)。しかし最近のBOMのセミナー等では、かならず説明する必要がある。 ちなみに、ERP(Enterpris
久しぶりに、「わたしのプロフィル」 を変更した。前回の更新から、気がつくと数年経っていた。もともと、「マネジメントのテクノロジーを考える」という、一種のアーカイブサイトをWordPressで作ろうとしたのだが、いろいろな経緯からしばらく放置していた。「わたしのプロフィル」は、その中に置いていたので、 ずっと手を入れるのを忘れていたのだ。 ちなみに、わたしの今の肩書は、「 チーフエンジニア(ビジネス・アナリスト)」と名刺に書いてある。もちろん名刺の肩書きなど、しょっちゅう変わるのだが、とりあえず職場では、ビジネスアナリシスを専門に見る立場、と言うことになっている。 ビジネスアナリシスとは、どんな仕事か。それは、「コンテキストを考慮しながら、ニーズを定義し、ステークホルダーに価値を提供するソリューションを推奨することにより、エンタープライズにチェンジを引き起こすことを可能にする専門活動である」
「 ありがとうございました、こちらがタイヤ交換サービスの領収書です。でも、プントって、なかなかおしゃれな車ですね。」 オートバックスのサービス員は、そう言いながら、キーをわたしに返した。お世辞だろうが、言われて悪い気はしない。 ——まぁ、ずいぶん古い車ですけれどね。そう、わたしは答えた。 誇張ではない。わたしが乗っているフィアットの『プント』という車は、ほぼ20年前に買ったものだ。プント Punto はイタリア語で「点」を意味する。小さなコンパクト・カーだ。でも、たまに街乗りをするだけのわたしには十分である。そして気に入って、使い続けている。 わたしは基本的に、ひどく壊れない限り、工業製品は買い替えないポリシーである。世間では、数年ごとに車やコンピューターを買い換えるのが、常らしい。だが、 壊れてもいないものを手放すのは、なんだかもったいない気がする(単にケチなだけかもしれないが)。 とは
海外で働くということ 1ヶ月ほど休みを取って、その国に行き、仕事を探すつもりだ。そういう意味のことを、その人はいっていた。そして欧州のある国の名前を挙げた。知的で真面目そうな風貌。それなりの年代だろうか。そして続けた。日本で求職活動をしても、時間ばかりかかって、埒が明かない。やはり現地に行った方が早い、と。 近くのテーブルで耳に入っただけだから、わたしが何かコメントする立場にはない。しかし思った。(この人は中年過ぎて外国人労働者になるのか。それがどういう事なのか、分かっているのかな。家族も居るようだが、どう思っているのだろうか) 『外国人労働者』という言葉は、日本ではなぜか、単純労働者のことだけを指すようだ。だが大学出の知的職業だろうが何だろうが、自営業のプロフェッショナルでない限り、組織に雇われて働くものは労働者だ。そして外国、とくに欧米で働いて、なおかつ一定のリスペクトを受けて自分の地
夜中に目が覚めて、眠れなくなった。目を閉じても、頭がループしたように、考えるのは同じ事柄とシーンばかり。しばらくしてから、ようやく自分で「ああ、また心で残業してしまっている」と気づいた。こんな残業を深夜に自分の寝床でしても、誰も手当を払ってくれる訳でもない。やめよう、やめよう。 「仕事に心をつかってはいけない」と、昔、あるベテランのプロジェクト・マネージャーから聞いた事がある。でも、聴いて真意をすぐに理解したとはいえない。仕事は複数の人間が協力して進めるものだし、人に気遣いをするのは、ある意味、大事じゃないか。そうも思った。 しかし、この方が言われていたのは、もっと深い話だった。「心をつかう」とは、じつは気遣いとか心遣いの事ではない。心を浪費する、という意味なのだ。あるいは、わたし達の中にある、感情と思考という大切な脳のリソースを無駄につかってはいけない、というアドバイスだ。 仕事の時間が
このところ、BOM(部品表)に関する依頼や問い合せが、急に増えている。先週19日に開催した、有料1日セミナー「BOM/部品表の基礎とBOM構築の留意点および応用テクニック」 は、参加申込みが事前に満員御礼で、アンコール講演を秋に行うことになった。また拙著「BOM/部品表入門」 もつい先日、1,000部増刷して、15刷・累計13,800部となるとの連絡を、出版社からもらった。個別企業や団体からの講演依頼もあり、誠にありがたい。 だが、2004年に出版した本が、今さら売れ出すという現象は、不思議でもある。一体この20年間は、何だったのか。日本の製造業はBOMに関して、眠っていたのか? もっとも今月は、同書の中国語翻訳版も売れ続けているとの知らせも受けた。実際、中国からの製造業の視察団に本を紹介したところ、かなり興味を持っていただけた。また質問内容からすると、中国製造業も次第に、BOM(部品表)
モダンPM技法の三本柱の一つである、EVMS(Earned Value Management System)について、しばらく解説してきた。EVMSでは、横軸にプロジェクト開始からの日付、縦軸に金額をとったグラフをよく用いる(理屈の上では、別に金額に限る訳ではなく、成果物の数量を表す単位、たとえば床面積m2とか設計図面数でもいいのだが、現実には金額を使うことが多い)。そしてこのグラフの上に、計画線PV・実績線AC・出来高EVの3本の線を描いていく。 EVMSでは、スケジュール差異SV(=EV-PC)と、コスト差異CV(=EV-AC)を主要なKPIとして見ていく。両方とも、プラスならば良好、マイナスならば問題を表す。つまり、グラフで言えば出来高EVのカーブが、計画線PVや実績線ACのカーブよりも上に来ているかを、まず注目する訳だ。 そして一般に、プロジェクトという活動は、最初はゆっくり立ち上
「データは新しい石油だ」とか「データ・ドリブン経営」といった言葉を近年、耳にするようになった。データの重要性を長年力説してきたシステム・アナリストとしては、大変心強いことだ。しかし(いつものことだが)、『データ』という事がらの内実を充分理解しないまま、ムードで語られている感じが、なくは無い。 拙著『ITって、何?』の冒頭の問答でも書いたことだが、多くの人は情報とデータの区別さえ曖昧なまま、両方の言葉をごっちゃに使っている。元の原稿を書いたのは2002年のことだが、それから20年以上経っても、状況はあまり改善していない。 こういう人たちは、コンピュータの中に記憶されている数字だったら、「データ」だと考える。 だから、サーバの中に多数のファイルがごっちゃに保存されているだけなのに、「わが社には、大量の過去データがある」と考える管理職が出現する。それをAIにかけて学習させれば、素晴らしい予測モデ
さて。すでに数回に渡り、Earned Value Management Systemについて書いてきたので、読者の皆さんも、そろそろ飽きてきた頃かもしれない(笑)。 でも本当は、これから以下に書くことを述べたいがために、その前説としてEVMSの基礎について解説してきたのである。ということで、あと1回だけおつきあい願いたい。 すでに述べたように、EVMSはロジカルで素晴らしい、プロジェクト・コントロールの手法である。ただ、現実に適用するには、重大な課題をかかえているとも思える。課題は、わたしの見るところ、大きく三つある。
久しぶりの著書発刊のお知らせです。拙著『ITって、何?』 がAmazonから発売されます。電子書籍版は定価99円(Kindle Unlimitedならば無料)で、とてもお得です。 内容は文字通り、ITの入門書で、わたしの好きな対話形式による解説になっています。郷里に向かって車を運転中のITエンジニア(男性)が、助手席の翻訳業の女性に向かって、ITというものの本質は何なのか、どういうインパクトを社会に持ちうるのかを説明します。 対話は「20の扉」風のQ&Aで構成していて、助手席の女性が質問し、運転席のエンジニアが回答するのですが、ただし「○○って何?」(What is ...?)という質問だけは受け付けない、というルールになっています。 疑問のはじまり 第01の扉 どうして、誰もITって何かをちゃんと説明してくれないの?第02の扉 ITを理解している人を見分けるにはどうしたらいいの?第03の
前回の記事『モダンPMへの誘い ~ プロジェクト・コントロールの目的とEVMS』 (2024-02-25)では、「コストとスケジュールのコントロールの主要目的とはプロジェクトの着地点予測である」と書いた。つまり、あなたのプロジェクトはいつ終わるのか、完了時点ではトータルでいくらの費用を使うことになるのか、を予測することが眼目だ。その計算では、現時点での出来高EVと、これまで使った実績出費ACとの比率を表す、Cost Performance Index (CPI = EV / AC)などの指標が重要になる訳である。 ところで、ここで1つ重要な問題を考えなければならない。それは費用を認識し、計上するタイミングの問題である。ここを間違えると、出来高と実績を比較したり、CPI等の指標を計算することに、意味がなくなってしまうからだ。 例をあげよう。たとえば、何らかのマシンを、外部の業者から購入する場
前回の記事では、大手メーカーが部品在庫調整を行うことで、部品メーカー等のサプライヤーに対し平準化した安定生産を実現する方が、日本の産業界全体にとって有益であると書いた。そして、従来のいわゆる「JIT納品」による調達方式は、中堅中小のサプライヤーの生産性を阻害し、余計な納期調整にその能力を消耗させている、と批判した。 それでは、この点について、本家トヨタはどう考えているのだろうか。 トヨタ自動車こそ、「ジャスト・イン・タイム(JIT)」の 発明者であり、納入する部品メーカーに対して、時刻指定の納入を義務づけてきたのではないか。その結果、あれほどの利益を生むのであるならば、そのベスト・プラクティスを、他社も見習って採用すべきではないのか。 この点について、本サイトではずっと以前に、「あなたの会社にトヨタ生産方式が向かない五つの理由」 と言う記事を書いた。 また「 中小企業診断協会生産革新フォー
このあいだ、製造実行システム(MES)を販売する外資系メーカーの人たちと話していたら、面白いことを言っていた。MESパッケージには、実行系機能のほかに、いわゆる生産スケジューリング向けの計画系機能が含まれている。しかし日本では、この計画系機能をあまり積極的にマーケティングしていないのだそうだ。 なぜかというと、アスプローバやフレクシェをはじめとする、国内のスケジューラメーカーが強すぎて、勝負にならないからだという。だから、実行系や分析系等の広範囲な機能と、海外でも使えるグローバル性をセールスポイントにしています、と言っていた。 今日、日本の製造業では、多くの企業が生産スケジュールに関することで悩んでいる。昨年来、(財)エンジ協会「次世代スマート工場」の研究会でも、製造業向けにシンポジウムや講演など様々な活動をしてきたが、参加者の問題意識の多くが、計画系に関する悩みだった。
わたしの働くエンジニアリング業界では、「プロジェクト・マネージャー」という職務のほかに、「プロジェクト・コントロール・マネージャー」というポジションを置くことが、国際的な慣習だ。プロマネは普通、PMと略称するので、区別するために、プロジェクト・コントロール・マネージャーはPCMと呼ぶ。もっとも、小規模なプロジェクトや国内案件では、プロマネがPCM職務を兼務することも多い。だが、プロマネとPCMの仕事の内容は、区別している。PCMの仕事は、プロジェクトのコントロールである。 ・・こう書くと、怪訝な思いをする人も多いだろう。というのは、カタカナ英語で言う『マネジメント』も『コントロール』も、日本語に翻訳すると、同じ『管理』になってしまうからだ。プロマネもPCMも、脳内で翻訳すると「プロジェクト管理者」だ。何が違うのか? だが、英語でManageとControlというと、意味もニュアンスもずいぶ
従来の予実管理手法では、PV(予定出費)とAC(実績出費)を単純に比べるだけだった。これは、定常業務に関する予算ならば、十分有効だろう。部門のコピー経費などをおいかける目的には、この手法でも問題はない。 しかしプロジェクトの場合、そうはいかないのだ。プロジェクトという業務の特徴は、「終りがある仕事」である点だからだ。そのため、プロジェクトでは『進捗』という概念が必要になる。部門のコピー経費に、「進捗」を問う人なんていない。だが、プロジェクトは終わるために努力する仕事のため、つねに進捗が問われる。 そして、PVとACを単純に比較するだけでは、コストによる変動と、進捗による変動の、両方の要素が入ってきてしまうため、正しく現状認識ができない問題点があった。コストをうまくコントロールできている状況であれ、進捗が遅れている問題状況であれ、どちらも PV > AC という結果が出てしまう。だから、良い
現代の経営学は、今から100年前、フレデリック・テイラーの「科学的管理法」の実践的研究に始まると言われている。テイラーはBethlehem Steel社の工場の技師長だった当時、銑鉄(ズク=Pig-iron)を運ぶ肉体労働に関し、観察と実験に基づく科学的な方法によって、劇的に生産性を向上させたことで知られる。 彼はまず、この一連の労働を、5つの要素的なタスクに分解する。そして、それぞれに必要とする適切な作業時間を割り出した。さらにSchmidt(仮名)という労働者を選び出し、彼に「ズクを持ち上げろ、歩け、回って休め、歩け、休め」と、ストップウォッチ片手で指示した。それまで、労働者の恣意的判断に任されていた時間の使い方を、細かくコントロールしたのである。 その結果は驚くべきものだった。それまで労働者1人は、1日平均12.5トンしか運べなかった。ところがSchmidtは、なんと47.5トンの銑
前回記事「モダンPMへの誘い 〜 出費が予定を超えなければ大丈夫?」https://brevis.exblog.jp/30726239/ では、Sカーブを使って、プロジェクト状況を判断するときの問題について説明した。Sカーブとは、プロジェクトの時間軸を横に取り、縦軸に出費を描いた線のことである。ふつうは、大文字のSを引き延ばしたような形になるので、こう呼ばれている。 ところで、予定出費の線(Planned Value = PV)の線と、実績出費の線(Actual Cost = AC)の2本を描いて、その大小を比較しても、プロジェクトの状況は「よく分からない」のだ、と前回書いた。なぜなら、実績出費ACのカーブが、予定出費PVのカーブより下に来ても、それだけでは「コストをうまく抑え込んでいる」事を示すのか、あるいは「進捗が遅れていて出費がまだ少ないだけ」かを、判別できないからだ。前者ならば、プ
もう10年以上も前のことになるが、ある大手システム・インテグレーターに呼ばれて、そこの有力なプロジェクト・マネージャーさん達の話を聞いたことがある。プロマネさんの1人は、こんな話を切り出した。 「PDCAサイクル、なんて言ってもさ、それって大体、絵に描いた餅じゃないか。そもそも最初に計画なんか、ふつう立てないだろ? プロジェクトに飛び込んだら、最初はまず、様子を観察するはずだ。顧客やメンバーに話を聞いて、これまで使った費用とかを確認して、状況を理解する。その上で方針を決めて、やるべきことをやっていく。これが現実のサイクルじゃないか。」 その時は、ふーん、と言う気持ちで聞いていたのだが、後になって、この人はいわゆる「OODAループ」の説明をしていたのだと気がついた。PDCAはPlan, Do, Check, Actionの略だが、OODAはObserve, Orient, Decide, A
あなたは、ある化学企業の経営者だ。自社の業容拡大をはかりたいが、日本の国内市場はすでに飽和しているため、海外の新興国に権益を得て、新しく化学プラントを建設することにした。 そして、これはと思う部下をプロマネに任命し、現地に派遣する。しかし、プラントはなかなか完成しない。それどころか、現地のパートナー企業の不満の声も、あなたの元に届いてくる。そこでTV会議で現地のプロマネを呼び出し、話すことにした。では、あなたがまず質問すべき事は何だろうか? ・・これは、わたしが大学などでプロジェクト・マネジメントを教える際に、よく最初に出す問いかけだ。出席者に尋ねると、いろいろな答えが返ってくる。例えば「工事はどこまで進んでいるのか」「資材は十分に足りているのか」「労働者の質はどうか」などなど。
3年前の秋、コロナ禍の真っ最中に、息子夫婦が結婚式を挙げた。ちょうど緊急事態宣言が解除され、外出自粛が緩んだ頃だった。その後また感染の波がぶり返していくのだが、ほんの短い、奇跡のような自由な期間に、友人親戚が集まって、(マスクは必須だったが)二人の前途を祝福することができた。 その少し前、息子から式場の相談を受けたとき、わたしは一つだけお願いをした。日時も場所も、二人の望むように決めてくれていい。ただ、西洋風の結婚式をするなら、ちゃんと信者も聖職者もいる、普通の教会であげてほしい。カトリックでもプロテスタントでも構わない。ともかく、毎日毎週、信者が来てミサや礼拝をする、本物の教会でしてくれないか。結婚式場に付随したチャペルに、どこからか説教師を招いて、そこで神の前で誓ったりするのはやめてほしい。
その手紙を見つけたのは、父の執務室の机の中だった。わたし達はその日、遺品を整理するため、亡き父が通っていた本社のオフィスを、初めて訪問していた。机の広い引き出しの奥のほうに、他の文房具などに混じって、小さな封書入りの手紙があった。切手も、宛先住所もない。おそらく職場で人づてに、あるいはもしかしたら直接、渡されたのだろう。 父は機械屋だった。大学で機械工学を学んだが、学生運動に加担していたため、大企業ではなく、創業したばかりの小さな機械メーカーに入った。創立時のメンバーは6、7人ほどだったと聞く。幸い戦後復興と高度成長の追い風もあって、次第に中堅メーカーへと成長していった。まだ50代の若さで病没した時、父はその会社の常務になっていた。 わたしの考え方は、父に非常に影響されている。化学工学を専攻したわたしに、就職するならエンジニアリング会社が良い、と勧めてくれたのも父だ。人が生きていく上では哲
C・N・パーキンソンといえば、かつてベストセラー『パーキンソンの法則』 で、一世を風靡した経営学者だ。元はアカデミックな歴史学者だったが、行政組織の研究に転じ、「役人の数は仕事の量にかかわらず、一定の率で増えていく」と言う法則性を示して有名になった。社会における矛盾を、思いもよらない角度から、機知に富んだ文体で描き、読んでいて非常に面白い。 わが国に紹介された3冊目の本『パーキンソンの成功法則』(原題:In-laws and Outlaws)は、彼が明確に経営論に踏み出す意図をもって、それもアメリカ流の経営学を意識して書いた本だ。とは言え、読んでいると時々、英国風のエピソードが出てきて、いかにもと思ってしまう。 本書は、読者(「君」)を架空の主人公にして、企業で下から上に出世し、上り詰めていくストーリーを骨格に持っている。日本版には「はだかの経営学」とサブタイトルがつけられているが、ウィッ
1985年5月。カリフォルニアにあるアップル本社では、緊急の役員会が開かれていた。その前年、社運をかけて開発し発売した新製品Macintoshの、販売不振による経営悪化の責任を問うて、CEOのJ・スカリーが、創業者であるスティーブ・ジョブズから、経営権限を剥奪する動議を出したのだ。 周知の通りスカリーは元々、ジョブズがペプシコーラからスカウトしてきた経営のプロだ。だが、会社が傾きつつある中、2人の間の確執が強まる。そしてジョブズは、スカリーの中国出張の間にクーデターを起こし、彼を追放しようとした。しかしスカリーはジョブズの計画をつかんで、逆に緊急の役員会を招集し、役員達に彼とジョブズのどちらを選ぶのか、選択を迫った。
拙著「世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書」https://amzn.to/3ZTfx8g にも書いたことだが、自分が海外プロジェクト部門に出たのは、39歳の時だった。それまでは主に国内向け業務の部門におり、半分はIT系の、残り半分は新規分野の事業開発的な仕事をしていた。しかし「このままでは、せっかくエンジニアリング会社にいるのに、本流であるプラント系の海外プロジェクトを知らないままになる」と、自分のキャリアに危機感を抱くようになり、思い切って手を上げ、全く未経験の部門に移ったのだった。翌年は不惑。遅すぎるかもしれないとの不安をいだきつつの決心だった。 移った先では、すぐにプロジェクト・チームに配属された。英国・米国と自社の3社ジョイント・ベンチャーで、ある中東の大型LNGプラント案件の基本設計と見積を行っていた。右も左もわからないど素人が、プロジェクトの真っ只中に放り込まれたのだ
銀座のカフェに座って、この文章を書きはじめている。周囲は外国人ばかりだ。耳慣れない、いろんな音声が飛び交う。みんな観光客なのだろうな。日本にようこそ、楽しんでいってもらえば幸いです・・滅多に銀座なんかに来ないわたしだが、勤め先である横浜みなとみらいでも、事情はだんだんと似てきた。 観光地のカフェで外国人旅行客に取り囲まれる事と、海外企業とのプロジェクトを進めることとに、共通点はあまりない。耳慣れない外国語の音声がときどき聞こえる、でも意味が分からないので聞き捨てにする。髪の毛や肌の色の違う人たちが、ちょっと物珍しいことで喜んだりする。そんな楽しみ方もあるのかと驚くが、自分も共感できる訳では無い。共通するのは、そんなところだろうか。 海外プロジェクトの最大の障壁は文化・風習や言語の違いである、と考える人は少なくないようだ。たとえばイスラムの国では、1日に5回お祈りをするから、仕事がしょっちゅ
それでは、部長が課長をマネージすることも、ガバナンスなのか? 課長だって、立派なマネジメント職である(ちなみに、わたしの職場では課長職のことを、昔から「マネージャー」と言う職名でよんできた)。 答えから言うと、それは違う。確かにガバナンス的な側面も、少しはある。だが、課長は部長にマネジメントされている。部長の指示には強制力があるからである。強制力を伴う計画・指示と報告・評価のサイクルをマネジメントと呼ぶ。 強制力とは何か。それは簡単に言うと、賞罰の力である。指示に従った場合には、褒賞を与え評価する。従わなかった場合には、罰を加え、あるいはその地位から追放することができる。また、重要な経営資源の運用に関する決裁の権限も持つ。具体的には、特に金銭である。費用の支出には、承認が必要となる。それがマネジメントの強制力だ。 これに対して、取締役会が会社の執行役員や経営者に対して用いる権限は、影響力で
2000年に刊行した拙著『革新的生産スケジューリング入門』 は、ご承知の通り、長らく版元品切れ状態になっています。本書はわたしの初めての単著でもあり、また類書がなかったため、それなりに広く受け入れていただいた、思い入れ深い書籍です。おかげさまで10年以上にわたり売れ続け、今も問い合わせを時折いただいていますが、次第に入手が難しくなってきました。 では生産スケジューリングについて、他にお薦めできる分かりやすい入門書があるかというと、あまり見当たらない状況ではあります。加えて昨今、製造業の方とセミナー等でお話しすると、決まって「計画系に悩んでいます」「スケジューリングをどうにかしたくて」という声を聞くようになりました。
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