「Twilio」(トゥイリオ)という企業(あるいはサービス)をご存知だろうか? 500 Startupsや Union Square Venturesなどの投資家から3400万ドルの資金を集め、サンフランシスコでいまもっとも注目されているスタートアップ企業の1つだ。
Twilioが手がけるのは、VoIP(Voice over Internet Protocol)の機能をWeb APIとして開発者向けに提供するクラウドサービス。Twilioのサービスに登録した開発者はREST方式のAPIを呼び出すことで、一般の固定電話や携帯電話に発信したり、かかってきた電話を着信したりできる。TwilioはAPIの利用料を開発者から徴収するビジネスモデルだ。
と、ここまでの説明だけではTwilioがなぜそこまで注目されているのか、分かりづらいかもしれない。正直なところ、この記事を書いている私も当初「おもしろそうだな」とは感じたものの、同時に「いまさら音声電話か?」という感想を持った。「これはとんでもないサービスかもしれない」と実感したのは現地でTwilioに登録して簡単なデモに触ってからだ。
Twilioの何がすごいのか?
Twilioに登録すると使える「API EXPLORER」を見ると、実際にTwilioのAPIで何ができるのかが把握できる。
たとえば、電話をかけるなら「Make call」というAPIを使う。APIの使い方は簡単で、開発者にひもづくアカウントSIDや、発信者の電話番号(あらかじめTwilioで購入できる)、発信先の電話番号と、電話がつながった後に実行させる処理の内容を記述したXMLファイルのURLを引数にして呼び出すだけだ。
処理内容を指定するXMLファイルは、TwiMLという独自のマークアップ言語の作法で記述する。たとえば、電話がつながったあとに音声合成でテキストを読み上げる場合は以下のようなXMLを書く。
この<Say>はテキストを読み上げるための”動詞”。ほかにも、事前に録音した音声ファイルを再生する<Play>、相手の声を録音する<Record>、キー入力番号を収集する<Gather>などの動詞がある。
「シンプルさ」が引き起こすイノベーションの可能性
Twilioの使い方はものすごくシンプルで、あっけないほど手軽だ。Webに近いようで遠い“電話の世界”の知識や、VoIPを構築するための技術はいらない。他のWeb APIを使うときと同じように、Webの知識や技術だけで使えるのがTwilioの最大の魅力だ。
例に出したのは電話の発信だが、Twilioには着信、転送、録音、カンファレンス通話、SMSの送受信などの機能もある。これらの機能を組み合わせれば、LINEやSkypeのようなVoIPクライアントも、宅配便の再配達自動受付システムのようなIVRも、コールセンターのCTIも、バックエンドの通信の仕組みを知らなくても設備投資をしなくてもTwilioで作れてしまう。
実際、HuluのコールセンターではTwilioが使われているし、マッチングサイトの「Match.com」では会員同士が匿名の番号で通話できる仕組みをTwilioで構築しているという。
米Twilioの事業開発担当シニアマネージャーであるBrian Mullen氏は「これまでの電話は、通信キャリア自身が使いづらいものにしていた」と話す。「VoIPを導入するためにハードウェアをたくさん買い、VoIPのエキスパートやコンサルタントを雇う必要があった。Twilioのプラットフォームを使えばこれらが不要になり、シンプルになる」。
9月26日(米国現地時間)には米国最大の通信キャリアであるAT&Tとの提携も発表した。Twilioを使って構築された中小企業向けのボイスアプリケーション(リマインダーアプリ、電話会議アプリなどがある)の販売と、TwilioのAPIの再販をAT&Tが担う。
Mullen氏は「もっとも重要なことは、Twilioの(Web APIを提供する)アプローチを通信キャリアが認めたことだ」という。 GoogleはあらゆるビジネスをWeb化することでさまざまな業界を壊してしまったが、通信業界とその周辺がTwilioによって様変わりする可能性もある。もちろん既存のシステムの置き換えだけでなく、これまでコストがかかりすぎてあきらめていたスモールビジネスでの電話のシステム化も進むだろう。また、あらゆるWebサービスやアプリから“電話の世界”へつながることで、従来のレガシーな仕組みでは考えられなかったまったく新しい電話やSMSの使い方や楽しみ方も生まれてくるはずだ。
すでに15万人を超えたというTwilioの登録開発者の数が、その可能性を示している。