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ArtSaltのサイドストーリー

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日本の電子書籍でもAppleとAmazonだけが勝つ

既に「外国人が見た日本の電子書籍事情: Fionの与太話」で概略が紹介されているけど、"Waiting for a Push: the Japanese eBook market in 2011" という非常に興味深いブログ記事があった。これは日本独特の電子書籍事情を論じた Robin Birtle さんの文章で、今後の電子書籍市場の牽引者としてソニー、楽天、Yahoo! JAPAN、Apple、Amazonを比較する視点が非常に斬新だ。実を言うと私も出版社とかソニーなどのハードウェア企業には見切りをつけていて、期待できるのは楽天と amazon.co.jp じゃないかな、と思っていたところなのだ。

英語で書かれたこの良記事を日本語に翻訳したいと思い、これを書いた株式会社サッカム社長 Robin Birtle さん、編集した Paul Biba さんに連絡したところ、快く了承していただいた。ありがとうございます。Thank you, Robin Birtle and Paul Biba.

以下は私の拙訳であり、誤訳があるかもしれない。

日本の電子書籍業界は活気にあふれているが何の進歩もない。東京電機大学出版局長の植村八潮氏は、最近の電子書籍ブームは実際には「電子書籍セミナーのブーム」にすぎないと嘆く。

この業界の落胆は毎年6億ドルの収入と20%を超える成長率(インプレス R&Dの調べ)と矛盾するかのように見える。しかし総収入のうち75%が漫画である。漫画と雑誌を除けば電子書籍の顧客ベースの拡大に特に注目すべき進歩はないようだ。

AmazonがKindleを出す前はアメリカではさまざまな形式の電子書籍があった。当時のアメリカの電子書籍市場は今の日本のそれとよく似ていた。品揃えは悪く、ガジェット指向の読者が多く、電子書籍のコンセプトを打ち出す大手書店は皆無だった。これらの課題すべてに対処したのがAmazonである。彼らはKindleで複雑なことを簡潔にした。日本にはこれまでこのようなpushがなかったが、そのかわりに消費者の側にpullがあり、それによって電子書籍漫画が著しく成長した。その理由を理解するには日本の混雑した通勤電車に目を向ける必要がある。

毎日およそ200万人が電車で東京に通勤している。中央線で最も混雑する駅には同じ方向に向かうプラットフォームが2箇所あり、これによって2分間に1回の割合で電車が到着できるようになっている。満員電車は不快ではあるが避けることはできない。通勤電車に乗っている人だけが電子書籍の読者であるわけではない。しかしこのような極端な環境こそが急激な技術革新を呼び起こしたのである。1999年NTTドコモは一連のiモードの携帯電話を売り出した。これは電子メールとさまざまなWebコンテンツにアクセス可能なものだった。満員電車の中でぺしゃんこになった乗客は片手でつり革を握りながらもう片方の手でiモードの携帯電話を操作できたのである。彼らは即座にこのサービスに注目し、携帯電話で読むコンテンツを求めた。

電車通勤する人々が出版社からpullするカテゴリーのひとつが漫画であることは疑いない。漫画がこのような特別な地位にあるのにはふたつの理由があり、単に人気があるからではない。第一に漫画本は非常にかさばる。雑誌というより電話帳を持ち歩くようなものだ。こんな大きい本を開くのは東京から郊外に向かう比較的すいている帰りの電車内でも困難である。もうひとつの理由は、読んでいるものを他の人に見られたくない人がいることだ。それが性的にあからさまな内容であればなおさらである。

漫画とは対照的にペーパーバックの小説は小型だ。これは「文庫」として知られている。文庫本はA6サイズだ。つまりアメリカのペーパーバックよりもかなり小さい。1冊の文庫本に収まらない小説であれば2冊またはそれ以上に分割されて売られている。これなら小説も満員電車の中で扱いに困ることはない。東京都心の主な駅には大きな書店があるので家に帰るまで1冊の小説を買い求めるのは容易である。書店のレジでは文庫本にカバーをつけてくれるので彼または彼女たちは自分の読書嗜好を他の乗客に知られることがない。

電子書籍の漫画ブームにあっては小説を読みたいと思う消費者側からのpullはない。今日にいたるまで電子書籍市場は広範な支持を得るのに苦労している。いろいろな電子書籍端末が現れては消え、魅力あるものは何ひとつ残らなかった。最近になって専用端末がふたつ登場した。SONY Reader と biblio Leaf である。後者は携帯電話キャリアーのKDDIで買える。しかしながらいずれも iPad, iPhone あるいはAndroid搭載のさまざまなタブレットやスマートフォンに見劣りする。

電子書籍漫画のブームの中で雨後のタケノコのように現れたオンライン電子書店には旧来の書店、印刷会社、出版社が加わった。彼らの目的はデジタル化された出版界で生き残ることである。これらの書店のカタログはアメリカに比べるとちっぽけだ。ほとんどは数万冊のタイトルしかなく、KindleやNookに有料のものだけで数百万冊のタイトルがあるのとは好対照だ。43社から成る日本電子書籍出版社協会 (EBPAJ) でさえ合計で2万冊以下である。Papylessには200,000タイトルがあって突出しているが、そのうちの約半分はアメリカOverDrive社と共同で売る英語タイトルなのだ。

乱立する電子書店に困惑する消費者は電子書籍を買うことよりも読むためにやらなければならないことのほうが大変であることに気づくはずだ。電子書籍端末と違ってPCまたはMacを使用する場合他社製品であるリーダー・ソフトウェアをインストールしなければならない。電子書店はしばしば複数の異なる形式の電子本を売る。Windowsでしか動かないソフトウェアもあるし、特定のバージョンの .NET Framework が必須なソフトウェアもある。仮に電子書籍の書店が提供するアプリケーションが1種類であるならiPadとiPhoneのユーザはこの混乱を免れる。もちろんそれぞれの書店にはそれぞれ別のアプリケーションが必要であり、ひとつの書店は2種類のアプリケーションを提供する。ひとつは漫画用、もうひとつは通常の本のためのアプリケーションである。

日本の電子書籍市場を本格的な流れにするにはどんなpushが必要だろうか? 書籍を売る者が電子書籍体験をことごとく単純にし、新刊も過去の作品も含まれる幅広いコンテンツを提供するようにpushすればいいのだ。間違ったタイプのハードディスクプレーヤーと同じような結果になってしまうのではないかと思わせないぐらいこの市場がじゅうぶんに成熟していていることを広範な消費者に理解させるには、電子書籍を売る者は消費者の信用を得ていなければならない。課金の仕組みも極めて重要だ。電子書籍の消費者になるであろう人たちのクレジットカード情報を既に持っている販売者は非常に有利である。

このようにpushできる可能性がある企業は6社ある。そのうちの3社はソニーと楽天と Yahoo! JAPAN だ。ソニーはかつての輝きを失ったが、日本国内では強力な企業であり、信頼あるブランドである。ソニーは競争力がある電子書籍端末をつくる力があるし、ユーザの読書体験を簡潔にまとめる力がある。楽天は日本最大のオンライン・ショッピング・モールだ。ここには30,000の店舗と実際に買い物する800万の顧客がいる。最後に Yahoo! JAPAN についてだが、この企業は同一の名を持つアメリカの企業よりもはるかに巨大である。この企業はオークションと検索で他を圧倒する。eBayとGoogleと Yahoo.com が組み合わさったのが Yahoo! JAPAN であると考えればよい。

今年6月13日ソニーと楽天は4社からなるグループを代表して、彼らのサービスと端末で相互運用ができるよう検討していく、と発表した。残りの2社はパナソニックと紀伊国屋である。紀伊国屋はリアルの店舗とオンラインの店舗を持つ書店だ。4社はbooklistaのインフラを利用して相互運用を促進していく予定である。booklistaは2010年に発足、電子書店用のインフラを提供し、既に SONY Reader と biblio Leaf 向けに電子書店を運営している。booklistaはソニーとKDDIと凸版印刷と朝日新聞社の合弁会社である。

6月13日の発表は日本の読者にとってより良い読書体験への希望になる。しかし電子書籍の主流につながる動きを先導するpushではない。ソニーと楽天が本当に日本の市場をpushしたいのなら発表内容とは正反対のことをやるべきだ。すなわち彼らがなすべきは業界の伝統と競合者の動向にこだわることなく他を圧倒して電子書籍を売ることであり、そこに集中すべきである。他社との相互運用なるものはいかなる位相においても管理と技術的資源の流用に言及しようとしない点で妥協につながる。

3番目にとりあげたいのが Yahoo! JAPAN だ。しかし Yahoo! JAPAN は電子書籍市場に参加する意思を全く見せていない。となるとpushできる能力があるのは残り3つの外国企業だ。そう、予想どおりAppleとAmazonとGoogleである。

Googleは今のところ日本で電子書籍に関しては存在感がない。iOSとAndroid向けの Google eBooks アプリケーションは日本では使えないからだ。日本の企業がGoogleと共に新しいことを始めるのは難しい。Google検索は日本でも多くの人に支持されている。だがGoogleは日本の企業との関係において課金の仕組みをつくりあげていない。AppleやAmazonと肩を並べるのを想像するのは困難だ。

AppleにしてもAmazonにしても電子書籍の販売を日本向けにローカライズしていない。しかしいずれも支払いの仕組みはiTunesと amazon.co.jp を通じて確立している。

Amazonの顧客はKindleを日本に発送してもらうことが可能だ。そしてアメリカのWebサイトで本を買える。日本では買えない本もあるが、それ以外はごく普通に英語の本をKindleで体験できる。AmazonはKindleで日本語コンテンツの販売を認めていない。Amazonはいかなるコンテンツであっても日本の出版社と契約するとは発表していない。もしもAmazonが日本語の本を買えるKindleまたはタブレットを売り出し、必要なコンテンツの契約を実施できるなら、同社はアメリカでの成功を日本でも再現する立場を確保するだろう。

Appleは既に日本語コンテンツをサポートするとしているが、日本語テキストの扱いについて深刻な制限がある。とはいえ JAZZ JAPAN という出版社が既にiOS向けにバックナンバーをビデオつきで売っている。残念なことに、iBooksの JAZZ JAPAN の日本語フォントは長いテキストの一節にはあまり合っていない。そしてiBookstoreで雑誌 "JAZZ JAPAN" を買うことは現状では不可能なので読者はそれを JAZZ JAPAN のWebサイトで買い、手動でiTunesに加える必要がある。

Appleは日本語テキスト表示に対応した規格ePub3.0の開発に加わった。同社は日本語コンテンツを完全にサポートするバージョンのiBooksを出す予定である。今後Appleにとって未知の要素になるのは日本でiBookstoreを開始するスピードと日本の幅広い出版社と協議する際にかかる時間である。

AppleかAmazonか? 幸いなことにどちらか一方である必要はない。2012年上半期において両社は共に日本の電子書籍市場をpushし始めるだろうと私は期待している。

Waiting for a Push: the Japanese eBook market in 2011 by Robin Birtle | TeleRead: News and views on e-books, libraries, publishing and related topics

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