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ArtSaltのサイドストーリー

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have to と must の違いは何に由来するか

have tomust の違いなんて検索してみれば誰でもわかると思う。私が興味あるのは「では、なぜそのような違いが生まれるか」という問題。

have の意味は単純で力強いからこそ、いろんな場面で使われてきた

have には「持つ」とか「所有」なんて意味はない。根源的な意味は「存在」「ある」。下記例文はその意味をまったく失っていない。

  1. Dick has a good face.
    face がある。それに Dick が付随している。
  2. Joan has just written the letter.
    "just written the letter" という事実がある。それに Joan が付随している。「完了」。
  3. I had my son buy two tickets.
    "my son buys two tickets" という事実がある。それに I が付随している。「使役」。
  4. The old woman had her bag stolen.
    "her bag is stolen" という事実がある。それに "the old woman" が付随している。「受動」。
  5. You have to leave here.
    "to leave here" という事実がある。それに you が付随している。

(私は「完了形」「使役動詞」「仮定法」「過去時制」「過去形」などの不適切な用語は廃止したほうがいいと思っているのだけれど、ここでは便宜上使う)

havebe, live などと同じく状態を示す動詞(または助動詞)であり、相 (aspect) に着目した場合、「状態動詞」と呼ばれるらしい。havebe に負けないぐらい力強い動詞なので、完了や使役や受動の文章で好んで使われてきた。
(ただし、その文法が現在のものに決まるまでに紆余曲折があったことは英語史の本を読めばわかる)

to不定詞には客観性が感じられる

上記例文#5の "You have to leave here." を理解するにはto不定詞の持つある種の力を知っておく必要がある。ある種の力というのは「客観性」。to不定詞に客観的な雰囲気を感じる理由を理解するのは難しくて、私自身もまだ整理できていないんだけど、かつてiKnow!の日記にこんなことを書いたことがある。

"TO PREVENT" or "PREVENTING"?

Why do the sentences all have "TO PREVENT" not "PREVENTING"? Why should you use full infinitive instead of gerund in those cases? Why does the full infinitive tend to appear in regulations, laws, standards, a kind of duty or like that?
Full infinitive sounds static, not active and often indicates solemn and general things. You should select not a full infinitive but a gerund when you want to send a kinda lively, clear and active image to the listener.

Why full infinitive? by ArtSalt - Journal - iKnow!

要約すると、こういうこと。

  • 動詞の直前に前置詞 to を組み合わせたto不定詞はなんらかの強制力、圧力、客観性を暗示することができる。
  • それに対して、動詞の末尾に "ing" をくっつけた動名詞(または動詞の現在分詞)はそういうことができない。

"You have to leave here." に「ここを離れないといけないという客観的な状況がある」という意味が感じられるのにはそういうわけがあると言ってよい。

must は古英語 motan の過去形であり、過去形は「もってまわった表現」になりうる

英語には以下のような不思議な傾向があることが知られている。
動詞(または助動詞)を過去形にすると、「現場、現実、現在からの距離感をほのめかす表現」「もってまわった表現」「丁寧な表現」になる。
Would you bring me another wine?
"Will you bring me another wine?" よりも丁寧な印象を受ける。
I could write a letter to you.
現実との距離感。いわゆる「仮定法」。手紙を書こうと思ったら書けたんだけどね。
They reached the island.
"They reach the island." は現在、過去、未来にとらわれない事実を語っている文章。それに対して、"They reached the island." は「現在との距離」をほのめかし、現在ではないもの(過去)を語っているふうに感じられる。いわゆる「過去時制」。

shallという助動詞は100年後には消滅しているかもしれない」で書いたように、must は古英語 motan という動詞の過去形であり、今日でも過去形としての性質が完全には失われてはいないはず。ゆえに「もってまわった表現」「まわりくどい表現」「婉曲な物言い」になりうる。must で語られる義務だとか必要性だとか必然性は客観的な正当性を持っているのではなく、あくまでも話者の判断にもとづくものにすぎない。

で、結論

  • You have to leave here.
    ここを離れるべきであるという客観的な事実がある。
  • You don't have to leave here.
    ここを離れるべきであるという客観的な事実がない。
  • You must leave here.
    ここを離れるべきである(と私は思う)。
  • You mustn't leave here.
    ここを離れるべきでない(と私は思う)。

参考文献

  • 「英文法をこわす - 感覚による再構築」(大西泰斗著、NHK出版)
Google
WWW ArtSaltのサイドストーリー
このような語源から理解することで単語もおぼえやすくなるし文法も理解しやすくなるのに、なぜ学校では教えないのだろう。
2019/08/23(金) 16:11:07 | URL | 名無しさん #-[edit]
コメントいただき、ありがとうございます。
そうですね、語源を学ぶ時間を授業時間の中でどう確保するか、という問題があるのかもしれません。
2019/08/24(土) 12:13:00 | URL | ArtSalt #-[edit]
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