Re(PLACE)04 | Rhoikos&Theodrosへのインタビュー
interviewer by Kohei Tsurumoto
「(PLACE)by method」で開催された展示「(PLACE)」では、ファッションレーベル「Jens(イェンス)」の展示空間を象徴するパイプが、スピーカーやカーテン、クローゼットなど、様々なプロダクトの機能を得ながらも、どちらとも捉えられる作品として展示されていた。ギャラリー空間や什器だけでなく、会場の建物や街並みにも溶け込みながら、展示そのものの「拡張」も志向されていた。 本企画は展示の場をオンライン空間に移し、写真家による写真作品、作家や建築家による文章など、多角的な視点から作品の解釈や「Rhoikos&Theodros(ロイコスアンドテオドロス、以下R&T)」の活動を拡張する試みである。 R&Tが考える拡張とは何か、また今回の試みを通してどこまで活動を拡げることができたのか。本企画のまとめとして、活動の経緯や展覧会について振り返りながら、R&Tの二人にその手応えを聞いてみた。
─ 2人の関係は、Jensの展示会時の什器を小宮山さんが手がけたことから始まっているそうですね。今回の個展からデビューとなるユニットですが、始動のきっかけや背景にある問題意識を教えてください。
武藤亨(以下、武藤):Jensの展示システムを更新したいと小宮山さんに話したのがきっかけだと思います。元々は展示会での見せ方を探る内容から始まりましたが、分野は違えど互いに空間への興味や関わりがとても深かった為、空間を軸とした活動をユニットとして行うことになりました。 私個人としては、簡潔で強い答えを持つ物や行動が重要とされている今の時代において、どちらともない中庸の強さを「作ること」でどう表現していけるかをテーマとしています。
小宮山洋(以下、小宮山):具体と抽象、意味と無意味、作品と作品でないものといった明確な差異を作り出すというよりは、他者と繋がることで生まれる関係性がそれらを超える状況や状態を作っていくような、そんな中道的な態度をお互いが共有していたこと。「個々の感性を活かし合う創作方法を重視し、他の組織・個人の活動を作品に取り込むことで生じる関係性を、空間やモノに拡張しながら、新たな意味・体験の創出を試みる」というR&Tの活動テーマに通じる話だと思っています。
─ 具体的な制作プロセスを教えてください。
武藤:明確な役割分担はありませんが、コンセプトや道筋を立て、R&Tのビジョンとなるものは小宮山、個別の制作は二人、展示要素を編集して現場に落とし込む作業は武藤が担当しているかたちになります。
─ 本展はJensの空間で重要な役割を果たす「28mm 径のパイプ」に着目されていますが、何故このパイプに着目したのでしょうか。
武藤:Jensのパイプを選ぶ基準は主に、「重さに対しての強度」と「空間への馴染み方」です。入手しやすい24~32mm径の中で、洋服を陳列した際のしなりもストレスがなく、空間にも調和したのが28mm径のパイプでした。 加えてJensは移動することを前提としてスタートしている為、軽い、入手しやすい、荷物として纏めやすい、場所に合わせて調整できる、という点は重要でした。このパイプはオンラインで3,000mmまでミリ単位で発注できます。
小宮山:Jensの見立てによって、細いワイヤーで吊られたアルミパイプは服をかける「什器」に様変りします。展示の準備をしている中でその風景を眺めていた際に、誰もが見たことのある「28mm 径のパイプ」に空間やモノへの様々な拡張の可能性を改めて感じました。
─ 展示されている作品には、本来のパイプとしての用途と、機能が付加され新たなプロダクトへと変容していく「過程」が表現されていました。 ステイトメントにも記載のあるように、「新たな意味・体験の創出」としてこの「過程」の表現が、一つのものを多角的な視点で捉えることを促していましたが、作品制作においては具体的にどのような点を意識されましたか。
武藤:個々の制作については、作品そのものの制作というよりは現場で組み立てる作品の為のパーツを作っていた感覚です。大体の作品プランとそうなるであろう為の作品パーツの制作を、空間を意識しながらパイプを起点に組み立てていました。あくまで感覚ですが、成立したプランを100とした場合、具体的に何かになるであろう=50、他の何かにもなるかもしれない=30、何になるか分からない=20、これくらいの塩梅でパーツを調達していきました。
小宮山:全体のコンセプト・構成を考える上で、抽象度を上げていくことを前提としながらも「日用、非日用」「日常、非日常」「インテリア、プロダクト、彫刻、絵画、インスタレーション」といった機能や記号的なもの、時間といったレイヤーを掛け合わることで、鑑賞者が「28mm径のパイプ」がどのように変容したのか具体的にイメージできる状態は作りたいと考えていました。
─ テーマとなったJensは、匿名性のあるブランド名が表すように、作家と協働でのアプローチや、創作の上で集められた時間の流れや人の気配が漂うコレクションが特徴的です。 本展においても、パイプ自体の浮遊感や、作品の一部として配置されたJensのアイテムとの関係性から生じる気配、パイプから変容した各作品のもつ機能とモノとしての空気感、といったように、「浮遊」「気配」「空気感」といった掴みどころのないものへのアプローチも重要なポイントとなっていたと感じます。
武藤:現場で空間に落とし込む際には、個々の作品については鑑賞者が完成したイメージまで想像できるが完成していない物である事を心がけました。 「~であるようでないもの」と表現していますが、プロダクト・インテリア・インスタレーション・彫刻と様々な境界に触れるが分類できないもの、様々な分野を横断できるが答えが一つではないものです。 且つ個々の作品がmethodという環境に様々な在り方で調和することも重要だったので、それぞれの空間に合わせた作品の配置、元々あった要素の展示物への転用も行い、展示全体としてはギャラリー外の環境も取り込む視点で構成しています。 これによって、テーマからも、個々の作品からも、ギャラリーからも、カミニートという建物からも、環境全体から鑑賞者に咀嚼を委ねられる様な関係性を作れたと思っています。
─ 鑑賞者に解釈を委ねることによって、R&Tとしての意図とは異なる反応も出てきたと思います。展示期間内の反応や「Re(PLACE)」の対話の中で、「拡張」を感じたエピソードがあれば教えてください。
武藤:新たな拡張という観点でのエピソードはなかなか思い浮かびません。 意図しない事が生まれる為の展示や「Re(PLACE)」であるので、意図していない事が起これば起こるだけ企画は良い形になってゆくと捉えています。 質問に当てはまりませんが、個人的に拡張はフィジカルな側面で感じる事が大きいので、設営時の即興性から生まれた価値は大きかったと感じています。
小宮山:エピソードと呼べるか分かりませんが、「Re(PLACE)」で参加してくれた3人の作家が自らの内面を拡張していくさまに興味を覚えました。オランダの写真家Kim van Aalderen は自身のカラフルな写真表現が実家にある様々なモノに起因していたということにプロジェクトを通じて気づいたそうです。 建築家の西澤徹夫さんはテキストを書き終えたあと「むしろ自分のすべきことを整理できた」とコメントがありました。また、クリエイティブディレクターの佐々木新さんは僕らの活動を掘り下げ観察していきながら、彼自身の中にある世界のあり方を更新しているように感じました。
─ 武藤さんへの質問です。今回はR&Tとして焦点を当てたテーマそのものが、ご自身のブランドでした。本展を進める上で、Jensとしての視点とR&Tとしての視点が必要だったかと思いますが、どのようなことを意識しながら作業にあたりましたか。
武藤:Jensというブランド自体は商業的なものであるものの、空間作りについては非常に個人的なものであった為、一人で全く違う視点を持つというよりはJensで行なっていた無意識的な部分(特に空間構成について)を観察し直し、抽出してゆく様なイメージで立ち回りました。
その中で、自分が他者に投げ掛け、受け渡し、それを相手が咀嚼し応用する様を見てこちらが「拡張」される、そしてアップデートされた状態から、また次の投げ掛けを行っていくサイクルが、自分がモノと場所の両方を形にする意味・共通性だと再確認しました。
結果、なぜ空間を作るのかといった無意識な一面と、ベースとなる洋服を作って売るという一面が非常に強く関係していることも改めて確信でき、空間からブランドを見つめ直すいい機会となりました。 そういった、曖昧で自由に変化してゆく価値のやりとりを最も活かせるものとして「ファッション」という言葉を捉え、居場所にしているのだと思います。
─ 小宮山さんへの質問です。これまで発表されている作品やプロジェクトにおいても、本来のモノがもつ形態や意味を観察・抽出し、そこから新たな機能や形態を解き明かそうとする試みは一貫されていると思います。今回の展示においては、テーマであるJensを咀嚼し、R&Tとしての表現を行う上で、「R&Tらしさ」という点も含めて、どのようなことを意識されましたか?
小宮山:大きな枠組みとしては協業と拡張のあり方を探ることでしょうか。methodでの展示「(PLACE)」ではJensをテーマに空間やモノへの拡張が試みられました。「Re(PLACE)」では展示のテーマを踏襲しながら、展示場所や作家をリプレイス(Replace=置き換える、取り替える)することで「(PLACE)」という展示そのものを拡張しています。空間やモノへの拡張にとどまらず作り手や展示環境そのものを拡張の対象にすることで、観る人や関わる人が創造的になれる状況を試みました。
展示内容から考えた場合にはJensの根幹をなす「中庸」という考え方を解釈し拡張している点にあります。Jensは作家による作品、服やジュエリー、什器のどれかが強く主張するのではなくそれらが空間の中で調和し配置されていることに主眼が置かれています。私たちは什器として使われている「28mm径のパイプ」にモジュールとしての拡張性を見出しながら、一方でその拡張されていくモノや空間に中庸のあり方を再定義できないかと考えました。
具体的にはそれが何なのかを定義することを目的としていない「~のようなもの」を作ることでした。まるで作品のようであり、それは製品のようでもあり、空間そのもののようであり、途中の何かでもあるような。Jensの服には機能がありJensの空間に置かれるアーティストの作品には作家固有の強い個性がありますが、本展示の作品群はモノ単体で見たときにも明確な機能や強い個性を持つものではありません。それらは記号や機能や役割、意味といったものから解き放たれ、緩やかにたゆたいながらさまざまな空間と接続していきます。それがあたかも昔からそこにあったかのように、そして昔からそこには無かったかのように。
─ 次のプロジェクトについて、現時点で具体的な構想はありますか? また、今後協働したいチームや、拡張したいジャンル、お二人が現在関心をもっている人や活動がありましたら、教えてください。
武藤:まずは今回の展示を発展させて再インストールするような機会を持ちたいと思っています。今回はギャラリーでしたが、ホテルの一室などコンパクトな空間で構成する事に興味があります。個人的に扱ってみたいテーマは銀座ルノアールです。 また、スケール感が大きく変わってもこの活動は成り立つと思っているので、自然や屋外の対象もテーマとして扱ってみたいです。
小宮山:個と個が繋がり拡張していくフォーマットやプロトコル(手順)について興味があり、最近では特に「ゲーム性」に着目しています。オンラインゲーム「フォートナイト」内でラッパーのトラビス・スコットがライブパフォーマンスを披露し同時に1200万人がプレイしたことや、ソーシャルメディア上での二次創作の台頭といったような、観る人が作り手や使い手になり創造的な関わりを獲得している状況、そしてソーシャルメディア上での二次創作や音楽表現としてのラップが小さなコミュニティ内での「遊び=ゲーム」から始まっていることにも合わせて関心があります。
Profile: 鶴本浩平
1989年生まれ。大学在籍時に『Tokyo Art Map』の編集に参加。『QUOTATION』のコントリビューターを経て、現在はデザイン誌の編集に携わる。
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