「ねぇ、お姉ちゃん、好きな人が出来たんじゃない?」
新しい年を迎えた瞬間、皆で「明けましておめでとう」と言い合って、翌日の初詣のために布団に潜り込んだ後、不意に闇を見つめて由美は言った。家族は畳敷きの部屋に一緒に布団を敷いてもらって、3人が並んで眠っていた。父と祖父は気持ちよく飲んだお酒の勢いでもうすっかり夢の中だ。
「ど、どうしてそう思うの?」僅かにぎくりとして、なんだか眠れなかった母は娘の方を向いた。
明かりは消しているので、お互いに表情は分からない。
「なんとなく」
由美の答えに、母も頷く。
「そうね、なんとなく、ね」
そして、二人とも口をつぐんだ。相手は―。ほとんど出掛けない葵に、外に思い人がいるとは考えにくく、そんなソワソワ、ウキウキした感じは見受けられない。
まさか、と二人は同時に思っている。
まさか―、と。
それで、その話は終わり、由美はすうすうと寝息を立て始めた。しかし、母の心にはずっしりとした重石が圧し掛かり、まったく眠れなくなってしまった。基がやってきてから始まった僅かな違和感。葵の様子がどこか変で、しかし、彼女自身がそれを必死に否定している。その不可解さを由美も感じていたのだ。気のせいと誤魔化してきたことが、それでは済まなかったことを知ってしまった。
お互いの存在をまったく知らずに育った‘きょうだい’。しかし、姉弟だと分かっていて、恋に落ちたりするものだろうか。
もしも、そんなことになっていたとしたら。
それは、離婚し、二人を引き離して育てた夫婦の責任だ。
しかし、まさか…、と思い直す。
まさか、そんな筈はあるまい。知らずにどこかでばったり出会ったのならともかく、二人は姉弟だとお互いに分かっているのだから。
新しい年を迎えた瞬間、皆で「明けましておめでとう」と言い合って、翌日の初詣のために布団に潜り込んだ後、不意に闇を見つめて由美は言った。家族は畳敷きの部屋に一緒に布団を敷いてもらって、3人が並んで眠っていた。父と祖父は気持ちよく飲んだお酒の勢いでもうすっかり夢の中だ。
「ど、どうしてそう思うの?」僅かにぎくりとして、なんだか眠れなかった母は娘の方を向いた。
明かりは消しているので、お互いに表情は分からない。
「なんとなく」
由美の答えに、母も頷く。
「そうね、なんとなく、ね」
そして、二人とも口をつぐんだ。相手は―。ほとんど出掛けない葵に、外に思い人がいるとは考えにくく、そんなソワソワ、ウキウキした感じは見受けられない。
まさか、と二人は同時に思っている。
まさか―、と。
それで、その話は終わり、由美はすうすうと寝息を立て始めた。しかし、母の心にはずっしりとした重石が圧し掛かり、まったく眠れなくなってしまった。基がやってきてから始まった僅かな違和感。葵の様子がどこか変で、しかし、彼女自身がそれを必死に否定している。その不可解さを由美も感じていたのだ。気のせいと誤魔化してきたことが、それでは済まなかったことを知ってしまった。
お互いの存在をまったく知らずに育った‘きょうだい’。しかし、姉弟だと分かっていて、恋に落ちたりするものだろうか。
もしも、そんなことになっていたとしたら。
それは、離婚し、二人を引き離して育てた夫婦の責任だ。
しかし、まさか…、と思い直す。
まさか、そんな筈はあるまい。知らずにどこかでばったり出会ったのならともかく、二人は姉弟だとお互いに分かっているのだから。
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