放射能の消滅処理
原発の導入が検討された当初、放射能の処理問題は、原子力を推進する原子物理学者、原子力工学者たちによって、「いずれ科学技術で解決する。」と約束されて、原発は見切り発車されました。つまり、放射性元素の放射能の消滅は理論上は可能である・・・と考えられていました。
しかし、私はかなり以前より、これは熱力学の法則のような、物理の法則であり、原理として不可能では無いかと考えていました。そう考えていた20世紀末頃以来、やっと先日腰を据えて調べてみました。ネットで学術論文まで見られる便利な時代になったものです。
1974年の日本原子力学会誌Vol,16,No11 に『放射性廃棄物の消滅処理』と言う論文が載っています。この論文は、原子核物理を殆どかじった事もない私にとっては知らない知識が多過ぎて、読んでもわからないところだらけでしたが、かつて読んだ槌田敦氏の書物の助けもあって、要旨はある程度理解できました。
その方法は、長寿命の放射性同位元素を廃棄物中から分離し,それに中性子または高エネルギー陽子をあて、より短寿命の同位元素や安定な同位元素に変換させ、人間にとって危険性の高い放射性同位元素を実質的に消滅させてしまおうという方法です。
そう書かれれば、「なるほどその方法があるか!」と思えるかもしれませんが、その方法によって、放射性物質ではない安定した原子核までをも放射化してしまうのです。つまり、現実的には全然役に立つ方法では無いばかりか逆効果です。この論文から半世紀以上経った現在でも、全く実用化の目処さえ立っておりません。
この論文には具体的方法として,
(1)原子炉を利用する場合
(2)高エネルギー陽子加速器を利用する場合
(3)核融合炉を利用する場合
の3つ が考えられているとあります。
このうち、(3)の核融合炉は、いまだに実用化されていませんから話になりません。(この論文が書かれた当時は「20世紀中には出来る」という予測が結構あったんじゃ無いでしょうか?)
残りの2つの方法の(1)も(2)も、放射性同位元素をしっかり分離しないと(元素の種類によっては分離が容易であるような例も挙げられていましたが、逆にかなり困難な元素の例も挙げられています。・・)、安定した同位体の原子核までをも放射化(不安定化)して放射能を増殖してしまいます。消滅する量を遥かに上回る超ウラン元素、放射性元素が出来てしまうのです。これまた話になりません。
この論文では、放射能の消滅処理は、理論的には可能なようなことが示されています。しかし、
「ある放射性元素の放射能を消滅させると他の元素が放射化される」と言う現象から、私は熱力学第二法則を想起していました。即ち、あるものの温度を下げるとき、周囲が熱を奪うわけですが、その結果、系全体では、熱量が増えると言う、いわゆる「エントロピー増大の法則」です。 勿論時間が経てば放射性元素は崩壊して減って来ますので、そこはエントロピーの法則とはかなり異質です。
これらの論文で曖昧と感じた部分は、閉じた系全体で放射能を消滅することができるのか、と言う点です。論文を読むとそのようにも取れますが、閉じた系での総量のデータは見当たりません。
どうなんでしょう?
原子力学会では、「技術の問題」としていることになりますが、熱力学第二法則のように、「系全体としては放射能の消滅は不可能」かも知れないことを完全否定はできない感じがします。直感や憶測程度でいいですので、どなたでも是非ご意見ください。
現在も放射能の消滅処理の研究はまともになされているのでしょうか?現在の処分法には、「ガラス固体化して地層処分」のように、時間が来るまで(文明の歴史と比べて半永久的に)放射能を隔離する以外の選択肢はありません。・・最終処分場、即ち、地層に埋める場所を探すのに四苦八苦していますが、消滅処理の話は全く聞きません。殆ど諦められているのでしょう。「放射能の消滅処理が出来るまでの仮処分」という建前上のスタンスさえ失っているように思えます。
つまり「科学技術で解決する。」と言う約束は果たされていないのですから、原発は許されないはずです。超悪質な詐欺的技術です。
件の論文にさりげに「(放射能の消滅処理は)わが国を除いて ほとんどまともに取り上げているところがないというのが現状である」と書かれていたのが脱力です。更に1972年の同様の論文には「(放射能の消滅処理は)夢物語的構想」とまで書かれています。原子力の専門家は、この時点で既に、放射能の消滅処理は諦めていたようです。でも、笑ってはいられません。時間のみの解決策で、何千、何万年も、安全に保管することは不可能です。特に、地震と地下水の多い日本では、数百年以内に漏れ出てくる事はほぼ確実です。件の論文も認めています。人間は本当に愚かです。こんな原発をやる輩も許可する輩も許容できません。文明崩壊、人類滅亡の大きな原因の一つになるやも知れません。
参考文献:
1.放射性廃棄物の消滅処理(早稲田大学理工学研究所) 道 家 忠 義 日本原子力学会誌 Vol16,No11(1974)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesj1959/16/11/16_11_557/_pdf/-char/ja
2.特集・放射性廃棄物の処理処分 VI. 放射能の消滅処理 (理 研)浜 田達二 日本原子力学会誌 Vol14,No4(1972)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesj1959/14/4/14_4_170/_pdf/-char/ja
3.資源物理学入門 槌田敦 NHKブックス(1982)
4.原発安楽死のすすめ 槌田敦 学用書房(1992)
5.新石油文明論 槌田敦 農文協(2002)
6.「エントロピー経済学」入門 ほたる出版(2007)
※文献 1.と2.は、原子核物理に詳しい方でも無い限り読むことはお勧めしません。私も理解できないところが多く、読むのに疲れました。そして、読んでも、結局実用不可と言う結論です。それでもどちらか一方を選ぶなら、1の方が少しは読み易いかもです。
※3.,4.,5.,6.は私がかつて読んだ槌田敦氏著の蔵書の中で、放射能の消滅処理に関する記述のあるものです。どれも、一般向けに、ごく短く簡潔にまとめられています。その中でも比較的詳しいのは、4.です。この4は文献2の論文にも触れています。
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