「悪法は法なり。」

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|/::::::::＞-―‐-　、
|:::／　　　　　　　　丶
|'　､_　　 　 　 　 　 　 ＼　　　　　　　　　「悪法も法なり」ってソクラテスの発言？
|　/:し>　　 　 　 　 　 　 ヽ
|八:::ノ , -‐- ､　　　　　　　',＼　　　　　　って調べたとき、
| ,　 　 {: : : : : :ヽ　　、　　　|::::::〉
|　/l>､ ＼: : : : : ﾉ /し:7　　,:／　　　　　「本当に言ってた」と「言ってなかった」という二つの意見があって戸惑うかもしれない。
|ヽ＼　＼_丶-‐'　｛:::ノ　　/
|　l　 ＼　　l>､　 '　　,　 〃
|ー---=､⌒ヽﾉ　　'　 ／　　　　　　　　　それもそのはず、実際に「法に従う方が良い」という主張をソクラテスはしたんだ。
|､　　　　 ＼　)ーｧ '´
|/＼_　　　丿 _／＿
|　　 / }￣　　}:::::::::::::ヽ　　　　　　　　　　でも「悪法も法なり」っていう言葉が実際に出てきたわけじゃないし、
|＼ｧ'ｰ' 　 　 /:::::::::::／
|　　　　　 ／ ￣￣　　　　　　　　　　　　　それまでにあった議論なんかをすっとばしているから、ニュアンスが大きく違っているのが問題なんだ。
|ー-r― く
|　　乂_)_)_)


　　　　　　　　　　　　　　　　　 ,　 -―――-　、
　　　　　　　　　　　　　　　__／　　　　　　　　　 ＼ __
　　　　　　　　　　　　　／:::::}　　　　　　 　 　 　 　 ヽ:::}　　　　この言葉の元ネタは『ソクラテスの弁明』…じゃなくて、
　　　　　　　　　　　 　 |:::::::/　　　 　 　 　 　 　 　 　 V
　　　　　　　　　　　 　 ヽノ　　　　　 ,　-―- ､　　　　 ',　　　　『クリトン』というソクラテスの死の前々夜を描いた、対話篇と呼ばれる著作だ。
　 　 　 　 　 　 　 　 　 |　　 /⌒ヽ　{:.:.:.:.:.:.:.:.:.} /⌒ヽ　|
　 　 　 　 　 　 　 　 　 l　　　'　 '　　丶---‐'　　'　 '　 '
　　　　　　　　　 　 　 　 、　　 '　　く´ 厂￣｀>　　'　 /　　　　 ソクラテスの処刑の前々夜に、ソクラテスの友人クリトンが
　　　　　　　　　　　　　　｀Y⌒ >―┐､＿_／　　 　 ｲ
　　　　　　　　　　　　　　　{ ／　　 /⌒ヽ_ノ⌒ヽ／　}　　　　　ソクラテスを脱獄させようとする、というお話だ。
　　　　　　　　　　　　　 　 / 　 　 /　　　　　　　 _,／丶、
　　　　　　　　　 ,　-― ､八＿_,／　　 ＿＿ 　 　 |　 　　)
　　　　　　　　 く::::::::::::::::::ヽ|　　 　 ／ﾍ　　 ∧　　|￣￣　　　　プラトンに語った内容とされるが、彼は作中に出てきていない。
　　 　 　 　 　 　 ＼:::::::::::::::|　　 　 ＼ }　　 }ノ　　,'
　　　　　　　　　　　 丶--- ＼　　　　く＿__〉　　/　　　　　　　　というのも、ソクラテスの思想に重点を置くと、自分が邪魔だったからだ。
　　　　　　　　　　　　　　　 ／:＼　　 　 　 　 ／:＼
　　　　 　 　 　 　 　 　 　 /:/::::::::/｀￣￣￣´ヽ::::::ヽヽ
　　　　　　　　　　　　　　 (::(:::(:ノ　　　 　 　 　 ヽ::):::)::)

.

　　　　　　　　　　　　　　　　 ,　 -――-　 ._
　　　　　　　　　　　　　　.　´　　　　　　　　　｀ヽ‐- 　、
　　　　　　　　　　　-‐ｆ´　　　　　　　　　　　　　 ',:::::::::)
　　　　　　　　　(:::::::::::;　　　　　　　　　　　　　　　ヽ:ノ　　　　さて本題になるが、
　　　　　　　　　 '､::::::/　　　　　　　　　　　　　　　　 {
　　　　　　　　　　 Y　　　　,f＾li　　 　 　 　 ,f＾li 　 　 |
　　　 　 　 　 　 　 |　　　　|:しl|　,　-‐- ､　|:しl|　　　|　　　　『クリトン』でソクラテスは以下のことを言っているんだ。
　　　 　 　 　 　 　 ',　　 　 ゞ_ﾉ　{:.:.:.:.:.:.:.:}　ゞ_ﾉ 　　 '
　　 　 　 　 　 　 　 ヽ　　 '　, '　 丶--- '　 ' ,　' 　 /
　　　　　　　　　　　　r＼　　　 　　＿　　　　 　 ／　　　　　　①法が合意によって成り立つこと。
　　　　　　　,　- 、　人_　丶. _　 (__／⌒ヽ/⌒ヽ
　　 　 　 ／＾丶　∨　/　　　　 ￣/　　　 　 　 /　　　　　　　 ②人に被害を与えるのは善ではない。
　　　　 /　　　　＼|_,/　　　　　　　　 　 /´￣｀ヽ . _
　 　 　,＾ 丶.　　　└!　　　　　　　 　 　 ヽ. 　　　_):::::｀ヽ　　 　③悪いことをした後の生に意味があるのか。
　 　 　|　　　 ＼　　,|　　　　　　　　　　　　/ ￣.:::::::::::::::ﾉ
　　　 丶---‐'＾{_／ ゝ　　　　　 　 　 　 ／------‐=彡
　　　　　 　 　 　 ／:::::::::`ァｰ----‐r.::´::::::::＼　　　　　　　　　要点を書きだすと、この３つだ。
　　　　 　 　 　 く:(:::(::::::::/　　　　　 ヽ:::::):::::)::ﾉ
　　　　　　　 　 　｀⌒　´　　　　　　　 ｀　⌒´






　　　　　　　　　 　 ,　-―――‐- ､　＿＿
　　　　　　　＿ ,／　　　　　　　　　 ｀丶//∧
　　　 　 ／'/／　　　　　　　　　　　　　ノヽ/|　　　　　　①についてだが、
　 　 　 { ///　､　　　　　　　　　　　∠)ハ ヾ
　　　　 V//　 /:(_>､　　,　-―- ､　{:i;;;;}:::} 　 ',　　　　　まず、ソクラテスはアテナイを出ることがなかった。
　　　　　V 　 ﾊ:{;;;;ﾉ}　 /　　　　　}　V::::::ﾉ　　 l
　　 　 　 |　　乂::::ノ　 ヽ　＿__ ,ノ　 　　　　　 |
　　 　 　 l　　　,　　 ,　　　 , へ、　　'　 　 '　　,　　　　　国法に則った罰を容認していないなら、
　　　　　 ',　　　　,　　　　/　　　＼　　 '　　　/
　　　　　　ヽ、　　　　_　／/￣￣｀ヽ -- ､ ∠、　　　　　移住の自由を持っているソクラテスは既に立ち去っているはずだ。
　　　　　　　 ＞‐-､/／⌒ｌ|　　　　 | l⌒＼)　 )
　　 　 　 　 〈　　　 /　 　 ||　　　　 | |　　　ヽ/
　　　 　 　 　 ＼　/ 　 　 八　　　 ﾉ人　　　 }　　　　　　だから、ソクラテスが罪を受け入れないとき、それは必然的に善くない行いだ、と言っている。

.

　　　　　　　　　_,　 -―‐-　..,,_
　　　　　　,　 ´　　　　　　　　　｀　 、
　　　　 ／　　　　　　__　　　　　　　 ＼　　　　　　　　　①の時点で、法が許容される範囲がとても狭くなっていることが分かる。
　　　〃　　　　　 ／.:.:.:}　　　　　　　　 ヽ
　　 /　　　　　　 {:.:.:.:.:.;'　　　　 ゝ_　　　　',
　　,'　 　 　 　 　 ゝ._,ノ　　　　　/:しﾊ 　 〃⌒ヽ　　　　つまり、「悪法も法なり」という言葉を使うとして、かなり限定されないと意味がないんだ。
　　|　　　　　　　　　　　　　　　 {:::::::::j 　 |:..:..:..:..}
　　l　　　　　 　 　 　 　 　 　 　 ゝ _ノ　　':..:..:..:.ﾉ
　　',　　　　　　　　　　　　　　　　 ,　 ,　　　ｧｰ'　　　　　もっと言えば、罰を告知していることと、それを逃れる方法があるのが重要なんだ
　 　'、　　　　　　　　　　　　　　　　 ,　／V
　　　ヽ　　　　　　　　　　　　　　　　　(_ 〃 '⌒l
　　　　 ＼／⌒ 丶 ,　-―- ､ 　 　 　 ／　 　 ﾉ　　　　 その二つが満たされているとき、「悪法は法なり」だと言えるな。
　 　 　 　 {: : : : : : : : : : : : : : ヽ-‐=≦)　　 ／
　　　　　　ヽ,　- ､: : : : : : : : : : : : : : : ヽ.／






　　　　　　　　　　　　　　　　_,.　 -――-　 ..,,_ ,　-―::::...
　　　　　　　 　 　 　 ,　　 ´　　　　　　　　　　　ヽ:::::::::::::::::',
　　　　　　　　　 _.／　　　　　　　　　　　　　　 　 ＼::::::::::::|　　　　　　　　　次に②だが、もし私人が国法を守らなくて良いなら、
　　　　　,....:::::::::::/　　　　　　　　　　　　　　　　　　　丶 :::::l
　　　 　 {:::::::::::::/　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ｀¨ヽ　　　　　　　　国家はどうなるかというと、滅ぶ。
　　　　　|::::::::::/　　　　　　　　　　　　　　 　 　 　 　 　 　 　 ',
　　　　　ヽ :::/　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 　 　 ',
　　　　　　)'　　　　 　 　 　 　 ,　-―‐- ､　　 　 　 　 __, 　 　 !　　　　　　　というのも誰も国法を守らなくなるからだ。
　 　 　 　 ,　　 　 　 　 　 　 〃: : : : : : : : ヽ　 r‐ 　´　 ﾉ　　　|
　 　 　 　 |　　　　　　　　　 li: : : : : : : : : : :}　 丶--‐ '　．　　 '
　　　　　　',　　 r-― 　　ﾌ　ゝ: : : : : : : ／　　　 ．　　　　　 /　　　　　　　だから国法を破るっていうのは国を愛する人にとっては善くない。
　　　　　　 ',　　丶--‐ '´　　　 ｀ ¨¨¨ ´　　　　　　　　． 　 /
　　　　　　　'　　 ．　　．　 　　　(⌒　　　　　　　　,　-‐-､/
　　　　　　 　 ＼　　．　　　　　　 ゝ　 　 ／⌒ ＼'　　　　 ヽ
　　　　　 　 　 　 丶 . ／⌒＼ 　　(__,ノ/　　　　　 　　　　 ﾉ　　　　　　　　こんな感じで国家に対して被害を与えることになるから、逃げないと言っているんだ。
　　　　　　　　　　　{　{　 　 　 ヽ ＿__ ｣　　＿＿　　　　／
　　 　 　 　 　 　 　 ',　　　　　　　　 r ''"´　　　　 ｀ヽ　 ＼
　　　　　　　　　　 ／` ｰ, 　 　 　 　 ＼　　　　　　　　',　　ヽ　　　 　 ／⌒丶
　　　　 　 　 　 ／　　　/　　 , -―- ､　丶.　　　　　　 }　 　 ',　　 ／:::::::::::::::::::::丶
　 　 　 　 　 ／　　　　 | 　 / l　　　 / ＼　 丶 　＿_,ノ　　　 } ／::::::::::::::::::::::::::::::::::)
　　　　　　 /　　　　　　',　/　|　　　 |　　 ＼　　　　　　　　　 ;:::::::::::::::::::::::::::::::::::;　'
　　　　　　丶------―ﾍ｛　 |　　　｜　　　 }　　　　　　　　 /:::::::::::::::::::::::;　　'´
　　　　　　　　　　　　　 八＼ヽ　 　 ヽ 　 ／　　　　　　　　/:::::::::::_, 　 '´
　　　　　　　　　　　　　　　＼｀て　　　う'´　　　　　　　　／-‐''"´

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　　　　　　　　　　＿＿
　　　　　　 rァ'´　　　ｕ ｀丶　_
　　　　　　 /　r‐､　　　＿┘{::::}　　　　　　　　　　　　　　　　③についても格段に特別なことは言っていない。
　 　 　 　 / 　 ＼_)　　 ／　‘T′
　 　 　 　 {　　　　　 u　 ∵√}⌒!　　, -‐ ﾆ-'――
　　　　　　ヽ　　　　U　 /⌒ ／⌒l　 {／´/　　　　　　　　　　国法に守られていながら、いざソクラテスがアテナイから去れば、
　　　　　　　 ＼　 /⌒ 　　 (　　 /.／　　｜
　　　　　　　　　｀¨ゝ　　　 　 ￣ヽ ＼　　 |　　　　　　　　　　　どんな人間からも誹りを受けることになるし、なにより自分の良心が許さない
　　　　　　　　　 　 |　　　　　　　　',　　　｜
　 　 　 　 　 　 　 八　　　　　　　　}-‐ ､　、
　　　　　　　　＿＿_.ヽ　　　　　 ／: : ／　 ＼　　　　　　　　　そんな状態で、生きたくない。もっと誇れるように死のう！…これがソクラテスの主張だ。
　　　　　　　｛: : : : : : : : :＞―='ー‐'´ ｀ ー-=ゝ . ＿＿＿
　　　　　　　 丶---‐ '´




　　　　　　　　　　　　　　　　　　 _,,..　　 ..,,_
　　　　　　　　　　　　＿_ ,　＜´　　　　　　　｀＞ ､ ＿
　　　　　　　　　　/　　／＿　＼_/　　　　　､／　__＼　ヽ
　　　　　　　　　　{　〃ｨ´￣｀ヽ　　 u　　 　 　 〃￣ヽヽ }　　　　　　　　つまり、①、②、③の価値観を共有していない人間には
　　　　　　　　　　∨　{{　　　　}}　,　-―‐- ､　{{　　　}} V
　　　　　　　　　　 ,　　ゞ. ＿ ノ　 {　 　 　 　 }　ゞ.＿ノﾘ ',　　　　　　　　なんの意味もない言葉になるんだ。
　　　　　　　　　　 |　　==￣　　　ヽ　＿＿ ノ　==￣　　 |
　　　　　　　　　　 |　Ｕ　'　　' 　 　 　 　 　 　 　 '　　' 　 |
　　　　　 　 　 　 八　　　　'　　 /´￣￣￣￣ヽ 　 '　　 /　　　　　　　　少なくとも農民を土地に縛りつけた封建領主は言えないし、
　 　 　 　 ＿　　　　ヽ　　　　　/　　　　　　　　}　　　／
　　　　　{　　 ￣｀丶　/⌒ /´￣｀ヽ-―――/´￣｀Y　　　-―-､　　　　誇りも誉れも持たない人間にとってもそうだ。
　　　　　 ヽ　　　　　 ｀丶　　　　　　＼--- /　　　 ﾉ´　　　　　/
　　 　 　 　 ＼　　　　　　}　　　　　　　　　　　 　 く　　　　　／
　　　　　　　　 ＼　 　 　 ,　　　　　　　　　　　　　　',　　 ／　　　　　　　つまるところ、使う場面によって正しいかどうかは変わってくるし、
　　　　　　　　　　丶　_,ノ　　　　　　　 　 　 　 　 　 l_ ／
　　　　　　　　　　　　/　　　　　　　　　　 　 　 　 　 }　　　　　　　　　　　使うと絶対に誤解が生じてしまうので、できるだけ避けるのがオススメ。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　～～～おわり～～～

>>7989
言ってはいるんですけど、使う人によってここまで意図を変えることができるのか…、
っていう逆に感心してしまう例ですね…。

なんというか、法律を変える立場の人間とか、
奴隷なんかの自由でない立場の人たちに向かって言える言葉じゃなかろうに…。