「登らずにガイドする」1歩前の力を伝える登山ガイド・平川陽一郎さん
当企画では、自分の目標や目的、趣味趣向にあったガイドさんを見つけられるよう、さまざまなタイプのガイドさんにフィーチャー。今回はアウトドアブランド「finetrack」の直営店をベースに、各種講習会を中心に活動する平川陽一郎さんを紹介します。
2023/05/02 更新
編集者
YAMA HACK編集部
月間350万人が訪れる日本最大級の登山メディア『YAMA HACK』の運営&記事編集担当。山や登山に関する幅広い情報(登山用品、山の情報、山ごはん、登山知識、最新ニュースなど)を専門家や読者の皆さんと協力しながら日々発信しています。
登山者が「安全に」「自分らしく」山や自然を楽しむサポートをするため、登山、トレイルランニング、ボルダリングなどさまざまなアクティビティに挑戦しています。
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制作者
小川 郁代
犬と音楽とお酒大好きのインドア派が、クライミングと出会ってアウトドアの世界へ。登山、ハイキング、最近は沢登りとBCクロカンに夢中。山に行くだけじゃわからない「山のコト」を伝えたい。
小川 郁代のプロフィール
アイキャッチ画像提供:平川さん
登山のスキルを高めたい!そんなときは“山のプロ”にお任せ
登山を続けていると、「もう少し難易度の高い山に挑戦したい」「山のいろんな楽しみを味わいたい」という想いがわいてくるもの。実現のためには知識や技術の習得が欠かせません。
登山に詳しい人が身近にいない場合は、ガイド登山を依頼したり、講習会に参加したりするのもひとつの手です。必要なスキルはもちろん、その山や土地の歴史、植生についても学ぶことができるので、山の楽しみ方が広がります。
そうはいっても、誰にお願いしたらいいのか、どんな講習会に参加したらいいのか悩んでしまうことも。
そこで当企画では、自分の目標や目的、趣味趣向にあったガイドさんを見つけられるよう、さまざまなタイプのガイドさんにフィーチャー。今回はアウトドアブランド「finetrack」の直営店をベースに、各種講習会を中心に活動する平川ガイドを紹介します。
平川 陽一郎(ひらかわ よういちろう)
提供:平川さん
登山者を増やしたい。事故を減らしたい。
提供:平川さん
一般的にガイドといえば、お客さんを希望する山に案内するのが主な仕事ですが、平川ガイドの主な活動の場は、知識や技術を習得するための講習会。活動のベースとしている、アウトドアブランド「finetrack」の直営店をはじめ、メーカーや山岳会などが主催する講習会を通じて、登山に必要なさまざまな技術や知識を伝える活動を行なっています。
1年間で行なう講習の数は、机上と実技を合わせて、なんと100回近くにも及び、内容も基礎的なものから、難易度の高い登山に必要な分野まで多岐にわたります。
提供:平川さん(TOKYO BASEテント泊講習会)
その活動のベースにあるのが、「登山者を増やしたい」、「事故を減らしたい」という2つの想い。登山を楽しむ人が増え、山のすばらしさを多くの人に知ってもらうのと同時に、無知や油断、準備不足など、本当なら起こらずにすんだはずの事故を、ひとつでも減らすために何ができるかを常に考えているといいます。
講師としての平川ガイドの活動には、大きく分けて3つの柱があります。
解りにくいことを解りやすく、多くの人に学びのきっかけを与えたい
提供:平川さん
①一般登山者向け講習会
活動中心となる登山講習会は、行政や山岳会などの団体、メーカー、ショップなどが主催するものに、平川ガイドが講師として招かれる形で行なわれます。
安全に登山するためのノウハウや、登山用具の選び方、テント泊の技術、トレッキングポールの使い方などの基礎的なものから、難易度の高い登山で必要とされる専門的な技術まで、登山に関わるあらゆる分野に及びます。
山の専門家としてのコンサルティングができる販売員を育てたい
提供:平川さん
②アウトドアブランド「finetrack」でのスタッフ研修
平川ガイドが活動の拠点とする「finetrack」では、ブランドマネージャーとして販売スタッフの教育にも力を注ぎます。
商品の特徴や扱い方など、販売に必要な知識や情報の伝え方はもちろんですが、とくにスタッフに意識してほしいと思うのは、コンサルティング力を養うことだといいます。
登山界の未来のために、ガイドの地位や技能を向上させたい
提供:平川さん
③ガイド向け講習
もうひとつの柱が、プロのガイドを対象にした活動です。2013年には、ガイドの技術や地位の向上を目指して、日本山岳ガイド協会の正団体として、「マウンテンガイド協会」を立ち上げました。
また、日本山岳ガイド協会の緊急時対応技術講習会の指導者として、プロのガイドを対象とした専門的な実技の指導や、技術向上、資格制度の確立のための活動などに参加しています。
活動の様子を拝見!
机上講習
提供:平川さん
実践に備えて知識や情報を身につけるため人気の講習会。オリジナルの教材と巧みな話術には定評があり、リピーターも多い。
実技講習
提供:平川さん
フィールドで実際に体験しながら技術を身につける実技講習は、さまざまな登山技術から道具の使い方まで内容も多種多様。
ものづくりの現場で得た経験が築いた「伝える」職人技
提供:平川さん
——山に関わる仕事をするようになったきっかけは?
登山は高校の山岳部で始めて、大学も山岳部で山に没頭していました。卒業する年に、当時のリンクサール(※1)の最高高度を登って、社会人になっても山を続けたいと思い、融通が利くところをと思って、登山用品店のニッピンに就職しました。
※1……1979年立正大学山岳部が、パキスタン・カラコルム山脈のリンクサール遠征隊に参加、平川氏を含む同期でロープを伸ばしたが、水壁に阻まれ最高高度6050mで敗退。2020年にアメリカ隊によって初登頂され、その年のピオレドールを受賞した。
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提供:平川さん(『LINK SAR I 1979 コンダスの女神 難峰リンク・サークルへの挑戦』 立正大学カラコルム登山隊1979編)
最初は山に登るために選んだ仕事だったのですが、ここで営業、広告宣伝、製造、商品開発など業務の一通りを任されるうちに、山の道具の奥深さに魅せられていきました。
その後ありがたいことに、ハイポスポーツ、アウトドアプラザなど、別の登山用品店から次々と声をかけていただき、結局登山用品の業界に40年以上関わっています。
——ガイドを始められたのは?
登山用品店で働くのと並行して、店の講習会などを中心にガイド活動を始めました。
その後、ガイドの技術や地位の向上を目指して、2013年にマウンテンガイド協会を立ち上げました。設立当初は24人だったガイドが、今は50人にまで増え、それぞれが個人ガイドとして活躍しています。
提供:平川さん
——ファイントラック直営店をベースに活動をするようになったのは、どのような経緯があったのでしょうか?
そもそものきっかけになったのは、2009年に発生したトムラウシ山での遭難事故(※2)でした。夏山で一度にあんなに多くの人が低体温症で亡くなるという事実が信じられなくて、体温を保つことの重要性を改めて考えさせられました。
どうしたら事故を防げたのか、低体温症を防ぐための方法を徹底的に研究した結果、行きついたのが、ファイントラックのメッシュ肌着(現在のドライレイヤー)の存在です。
※2……2009年7月16日、北海道大雪山系トムラウシ山で、ツアーガイドを含む登山者8名が低体温症で死亡。夏山の山岳遭難事故としては近年まれにみる数の死者を出した
撮影:YAMA HACK編集部(finetrackのドライレイヤー)
これを使えば、確実に低体温症のリスクが下げられるとわかり、あちこちの講習会で、「絶対に着たほうがいい」と伝えていました。当時はまだなじみのない商品でしたが、これを広めることが登山者にもガイドにも絶対にプラスになると、頼まれたわけでもないのに、勝手に宣伝をしていたようなもんですね。
それもあってか、ファイントラックが初めて直営店を作るときに、ファイントラックの金山社長から「売るためではなく伝えるための、講習会をメインにした店にしたいので、ぜひ協力してほしい」と声をかけてもいました。
「服や道具が生まれる過程に関われたことが、今の活動を支えています」
提供:平川さん
——平川さんは、講師としてひっぱりだこですが、強みは何だと思われますか?
登山の経験や記録だけでなく、登山用品業界に長年いることで、いろいろな裏側を知っていることではないでしょうか。
製品ができる最初の部分を見てきたからこそ、ひとつの製品の背景が想像できるし、それを使う場面も想像できる。初心者がどのようなことに戸惑うのか、経験者がもう1歩先に行くには何が必要か、全体を把握するのに、登山用品業界での経験は、とても役立っていると思います。
提供:平川さん(夏山フェスタ福岡)
あとは、講師経験が長いので、しゃべりはうまくなりましたね。しゃべるのは好きなんですが、僕の講座は、必ず時間通りに終わります。必要なことをちゃんと伝えるには、だらだら余計なことをしゃべらないことも重要なんですよ。
——登山以外で興味のあることは何ですか?
山も好物ですが、実は読書も好物です。
以前、神田小川町に努めていた時は昼休みや仕事帰りなど、いつでも本と触れ合える幸せな場所でした。
登山関係、自然、探検冒険はもちろん、時代物、経済物と乱読ですが、今でも月平均7~8冊は読んでいます。
提供:平川さん
——最後に、平川さんが思う登山の魅力を教えてください。
登山の魅力は一言で言えないくらい、いくつもあります。やはり、普段の都会とは異なる、山という非日常のフィールド中で味わう解放感。自らの課題にチャレンジできた時の達成感。大きな自然と一体になれた時に味わえる一体感でしょうか。
平川さんより、山好きのみなさん&登山を始めたい人へ
提供:平川さん
平川ガイドがアドバイス!テント泊の基本