記載がないものはすべて、記事内の写真撮影:吉本悠哉
ピークハントだけじゃない!登山は今、バラエティに富んでいる
ピークまで登り、そこでしか見られない景色を堪能する。王道の山の楽しみ方ですが、それだけに限らないのが昨今のハイカー事情。
たとえばこだわりのご飯を山行のモチベーションにする、ふかふかのトレイルの上を走ってみる、雄大な自然のなかで楽器を演奏する、筆舌に尽くしがたい景色を絵に描いて表現してみるなど、山に登る+αのアクティビティに価値や楽しみを見出す登山者が増えてきているのです。
山でけん玉を嗜むハイカーが増えているらしい
山の楽しみ方、山での過ごし方が多様化するなか、最近は山でけん玉を楽しむハイカーが増加中のようです。
登山中にけん玉を楽しむ、通称”ダマハイカー”の一人でけん玉歴3年目のlog_o_hiker さんは、山で遊べそうなモノを探していたときにけん玉と巡り合い、いまでは山へ行くたびに新しい技に挑戦して楽しんでいるそう。山小屋で小屋番をしながらけん玉を楽しんでいるhibiscuseahonuさんは、ピアスやポップスタンドなど、けん玉のオリジナルグッズを作るほど夢中です。
そうした愛好家がSNSに写真や動画を投稿することでじわじわと人気が波及。インスタグラムでハッシュタグ「ダマハイカー」と検索すると、絶景をバックにけん玉を嗜むハイカーたちの写真がずらりと並びます。
あの老舗ブランドもけん玉を販売していた!
登山やアウトドアシーンで気軽に楽しめるとけん玉に着目したのは、SNSに登場するハイカーだけではありません。じつは日本の登山ブランド最大手・モンベルからもオリジナルのけん玉がリリースされているんです。
ブランドキャラクター・モンタベアがプリントされたけん玉は、競技用けん玉の生産日本一を誇る山形工房で作られたもの。登山界の老舗が本格的なオリジナルアイテムを手掛けている点からも、けん玉がフィールドにおける新たな娯楽として定着しそうな予感を抱かされます。
それにしても、どうして「山でけん玉」にハマる人が続出するのでしょうか。そこで、山×けん玉というまったく関係ないと思える組み合わせの生みの親と一緒に山へ登り、その魅力を探ってみました。
ブームを牽引するのは、けん玉界のレジェンド
牛山翔太さん
1986年生まれ。長野県・茅野市出身。元祖・ダマハイカーとして山に登りながらけん玉を楽しむ一方、その魅力を多くの人に伝えるべくイベント活動などを精力的におこなう。これまでKENDAMA WORLD CUPに4度出場。第68回・69回・74回 NHK紅白歌合戦ではギネス記録にも挑戦した。2024年からはオリジナルのけん玉「Sumilun(すまいるん)」と「DAMAPPLE」の販売をスタート。
インスタグラム @ushi0813 オンラインストア https://ushikendama.base.shop
そもそも山×けん玉というムーブメントはなぜ起きたのか。それは5年前、多くの世界大会に出場する腕前を持つ牛山翔太さんの「絶景のなかでけん玉をしたら気持ちよさそう」という閃きから始まりました。
さっそく山に行ってけん玉を楽しんだ牛山さんは、その動画や写真をSNSにアップ。すると、投稿を見たハイカーがこぞって真似し始めたのです。
誰でも手軽に抜群の爽快感を味わえる!
スケーターやボーダーのように、けん玉をする人のことを界隈ではダマーと呼ぶそう。ダマーとハイカー。その2つの言葉を組み合わせ、山でけん玉をする人を“ダマハイカー”と呼び新たなカルチャーを生み出したのが牛山さんです。
そんな牛山さんが、大好きなけん玉と登山を組み合わせたきっかけは一体なんなのでしょうか。一緒に山を登りながら聞いていきます。
美しい景色と人の温かさに惹かれ、山を登るように
日本人にとっての富士山のように、長野県の茅野市で生まれ育った牛山さんにとって八ヶ岳は慣れ親しんだ心の故郷。
中学時代に学校登山で蓼科山と硫黄岳に登ったきり一度も山に登ることはなかったものの、八ヶ岳への郷愁に駆られたのか、2019年にふいに山に登りたいという思いに至ったそうです。
装備を万全に揃えて向かったのは、実家の窓にいつも映し出されていた天狗岳。
牛山さん
頂上に着くと見たことのない景色を目の当たりにし、感銘を受けました!
また偶然出会った登山者と何気ない会話で盛り上がるなど、人の温かさに触れたことも山の虜になった理由です。
誰もやっていないことにトライして、みんなでハッピーに
山でけん玉をするようになったのは、その年の夏から。きっかけは、けん玉仲間と技を見せ合ったりSNSに投稿したりする用の動画を撮影するためでした。
そもそも牛山さんがけん玉を始めたのは10年前。通っていた諏訪市のセレクトショップ「TIMENESS POP STORE」でけん玉が販売され、スケーターなど横乗り系の人たちがやり始めると、ダサいと思っていたけん玉が途端にかっこよく見えたのだそう。
誰もやっていないからこそ、やってみる
そんなストリートスタイルのけん玉仲間がかっこいい動画を撮るなか、牛山さんはあえて誰もやっていない「山」をロケーションにした動画を撮ることにしました。
牛山さん
最初はかっこいいけん玉を広めたいと思ったけど、かっこいい人はすでにいっぱいいる。だから僕は自分が好きな「山」でやるスタイルにして、みんなでハッピーになれたらなって。けん玉をすると、みんな笑顔になるので。
老若男女問わず楽しめて、コミュニケーションの手段にもなる
けん玉といえば、子供からお年寄りまで年齢に関係なく楽しめるのが魅力。ケガをしないし、場所も取らないので万人に優しい遊びです。
また誰でも手軽に楽しめるため、山ではじめましての人だろうと言葉が通じない海外の人だろうと一緒に喜び合って仲良くなれるコミュニケーションツールにもなってくれます。
牛山さん
手軽にできる気持ちいいトリックがいろいろあるので、練習すれば自分の成長過程を実感することもできますよ。
編集部 大迫
大人も一瞬で童心に帰れますね。遊びながら上達する経験も得られるのはうれしいです。
大皿に乗せるだけであれば割と簡単なので、最初の成功のハードルが低いのもやる気がでますね。
大自然の中で技を決める快感は唯一無二
地上でも十分楽しいけん玉ですが、あえて山ですることのよさとは一体何でしょう。
牛山さん
大自然の中でするけん玉は開放感抜群ですし、山という特別なロケーションで技(トリック)を決めた(メイクした)ときの気持ちよさは、地上のときとは段違いです!
牛山さんは景色の良い広い山頂やテント場で過ごす長いフリータイムにけん玉をすることが多いそう。
一人はもちろん、みんなで一緒にやる楽しさもある
また一人の場合と、大勢でおこなう場合とでも楽しみ方は異なるようです。一人の場合、絶景をバックに難しいトリックを成功させたいとストイックにトライするため、より没入感を味わうことができる。仲間との場合は技にはそれほどこだわらず、楽しい時間をシェアしながらまったり過ごすことが多いのだとか。
牛山さん
他の人と同じトリックをすることを「シンクロ」といいますが、一緒にきた仲間とシンクロできたときも気持ちいいですね!
好きな場所で好きなことをやるって最高の贅沢!
いまでこそ広がりを見せつつあるダマハイカーですが、牛山さんが山でけん玉を始めたばかりの頃は、「なぜ山でけん玉を?」と批判的な言葉を浴びたり、冷ややかな目で見られたりすることもあったそうです。
そのため誰にも見られないよう人がいない場所や人の少ない時間帯に、一人でひっそりとやることが多かったとか。
牛山さん
でもそのうち登山仲間がけん玉を買って、けん玉をしている動画を送ってくれるようになりました。
もちろん周りのことは考えますが、山でどう遊ぶかは自由でいいんだと改めて思い、それから僕も人の目を気にせずけん玉を楽しんでいます。
けん玉で山のつながりが、どんどん増えていく
すると、山で知り合った人たちが「僕にもやらせて」など牛山さんに声をかけてくれるように。広い山の中にけん玉がきっかけで人の輪が、会話が、生まれる。そんな一期一会も山でけん玉をすることの魅力でしょう。
牛山さん
好きなけん玉を好きな山でやれるっていうのは、最高の贅沢。たとえるなら、山でビールみたいな感覚ですね。もっと山でけん玉をする人が増えて、一緒に楽しめたらいいいな。
山の楽しみ方は、もっともっと自由でいい!
山のなかで新たな娯楽と快感をもたらし、登山者同士のコミュニケーションツールにもなるけん玉。ザックに一つしのばせておくだけで、これまで以上に豊かな山登りを体験できるはずです。
山ギアとしても映えるけん玉
ダマハイカーの多くは、ギア好きで高感度な人が多いというのはブームを牽引する牛山さんの所感。たしかにデザイン性の高いけん玉は所有欲をくすぐられるし、軽くてそれほど嵩張らないので山ギアの一つとしても携行しやすそうです。
ちなみに牛山さん、好きが高じて2024年からけん玉の制作・販売をスタート。地元・八ヶ岳でけん玉を楽しむハイカーのイラストがポップに描かれた「Sumilun(すまいるん)」には、八ヶ岳をけん玉の名所にしたいという牛山さんの想いが表現されているそう。
さらにトリックをより楽しめるよう皿の形状や玉の質感にもこだわっているので、けん玉初心者も扱いやすくておすすめです。
レベル別のトリックに挑戦してみよう!
けん玉をゲットしたら、かっこいいトリックをメイクしたいですよね。そこで牛山さんより初級・中級・上級とレベル毎にトリックを伝授してもらいました。動画を参考にぜひ挑戦してみましょう。
初級編
初級トリック「世界一周」
小皿→大皿→中皿に乗せて最後は剣先に刺す
中級編
中級トリック「レジェンド」
飛行機(玉を持ち、前方にふり出したけんを手前に半回転させて、 けん先を玉の穴に入れる)
→はやて中皿(けん玉を空中に投げて、けんを玉から引き抜き、落下してくる玉を中皿で受ける)
→ダウンスパイク(玉を下から上に引き上げて穴に突き刺す)
上級編
上級トリック「タップジャグル灯台-スワップけん」
タップジャグリング(玉で中皿をタップした後にお手玉のようにジャグリング)→灯台(玉の上にけんを立てる)→スワップけん(灯台の状態から玉を剣先にさす)
牛山さん
玉を受け取るときは、膝の屈伸をしっかり使いましょう。上達するコツは、上手な人に教えてもらいながらひたすら練習あるのみ! あと技が決まったら思いっきり喜ぶことですね。
編集部 大迫
カジュアルな遊びと思いきや、実際にやってみるとさまざまな種類のトリックや組み合わせがあって気づけばのめり込んでいる。けん玉、奥の深い世界です!
ちなみに僕が吹き出しの写真でおでこにけん玉を乗せているのは牛山さんに教えてもらった「ユニコーン」というトリックですよ。
山でけん玉をする際、気をつけるべきこと
楽しいはずの遊びが、誰かの迷惑になってはいけません。山でけん玉をする際はしっかりマナーを守り、安全に楽しみましょう。
・大きな声で騒がない
・足場が不安定、崖に近いなど危険な場所ではやらない
・集中すると視野が狭くなるので、人とぶつからないように常に周りを意識し、一定の距離を取ること
牛山さんからのメッセージ
牛山さん
たかがけん玉、されどけん玉。生涯遊び続けられるうえ、一つのコミュニケーション手段として登山のおもしろをさらに広げてくれる可能性を秘めています。
みんなでその可能性をもっと探求していきたいですね。そしていつか地元の八ヶ岳がダマハイカーで賑わい、けん玉の名所になってくれたらうれしい!
みなさん、ぜひ一緒に山でけん玉しましょう!
編集部 大迫
話を聞くまでは「山でけん玉をする意味って?」みたいなことを考えていましたが、意味なんてなくていいんですよ!笑
大好きな山で楽しく過ごす方法の一つがけん玉だっただけ。危険や周りに配慮しつつ、いろんな人の山との関わり方が増えるとおもしろいですね。
※けん玉にハマった取材チームは、取材後2時間ほどけん玉に夢中になりました