新編新訳20編



平凡社ライブラリーのために編まれたホルヘ・ルイス・ボルヘス(Jorge Luis Borges, 1899-1986)のエッセイ集。『論議』『永遠の歴史』『続・審問』から20の文章が選ばれ、訳出されています。訳者は木村榮一氏。


ボルヘスの作品は、多数の邦訳が刊行されてきましたが、比較的近年では、国書刊行会の「ボルヘス・コレクション」(全7冊予定既刊6冊)や、岩波文庫が精力的に文庫化を進めているところ(現在7冊)でした。平凡社ライブラリーでの登場は、『エル・アレフ』(木村榮一訳、平凡社ライブラリー、ISBN:4582765491)に続いて2冊目となります。


以前、「哲学の劇場」というウェブサイトに、ボルヘスの書誌をつくったことがあります。ボルヘス全集の目次や既存の翻訳書をできるだけ網羅した書誌です。その後手を入れていないため、近年の翻訳などについては反映しておりませんが、原著と邦訳の対応を知りたい場合などには有益かと思います。


そんなわけで、いろいろな版で読んでもいるため、今回の平凡社ライブラリー版は、なにかの用事でもできるまで見送ろうと思っていた矢先、書店で目にしたが最後そのままレジへ運んでしまいました(ボルヘス怖い)。いえ、棚のまえでぱらぱらページを繰っているうちに、「うん、どれも読んだことがあるとはいえ、この並び順では読んだことがないし、木村榮一さんの翻訳もいいなあ」と感じてのこと。ボルヘスのブッキッシュなところに面白みを感じない向きもあろうかと思いますが、彼の書物とのつきあい方に接すると、到底彼のようにはできないとはいえ、なんだかこちらも書物とちゃんと付き合おうという気分になってきたりもするのです。


また、目下のところ夏目漱石の『文学論』を読み解く本を書いているということもあって、ボルヘスが次のように述べているのを見ては、ますます見過ごせないと思った次第です(誰になんの言い訳をしているのか)。

小説の手法の分析はこれまであまり広く行われてこなかった。歴史的に考えると、他のジャンルが優勢だったために長年放置されてきたということになるが、より本質的な理由は小説の技巧が解きほぐしがたいほど複雑であり、しかもそれがプロットと切り離せないという点にあると考えられる。法律書、あるいはエレジーを分析する場合は、特殊な語彙を用い、十分納得のいく文章を書くことは容易だが、長い小説を分析する場合は、共通の合意に達した用語が欠けている上に、ただちに証明できるような例を引いて、言わんとすることを例証することができない。

(同書、23ページ)


――という具合で、ボルヘスが書いたこの文章が収められている『論議』という本は、1932年の刊行。その後(あるいはそれ以前)、小説の技法の分析はどういう状況にあるだろうかという問いも自然と思い浮かび、あれこれの本が連想され、本が本を呼ぶというわけです。


そちらは未見ですが、『幻獣辞典』(柳瀬尚紀訳、スズキコージ絵、晶文社、2013/10、ISBN:4794968310)も新版が出たようですね。改版の上、新しく絵を追加しているようです。


■目次

論議(1932年)
・現実の措定
・物語の技法と魔術
・ホメロスの翻訳
・フロベールと模範的な運命


永遠の歴史(1936年)
・永遠の歴史


続・審問(1952年)
・城壁と書物
・パスカルの球体
・コールリッジの花
・『キホーテ』の部分的魔術
・オスカー・ワイルドについて
・ジョン・ウィルキンズの分析言語
・カフカとその先駆者たち
・書物の信仰について
・キーツの小夜啼鳥
・ある人から誰でもない人へ
・アレゴリーから小説へ
・バーナード・ショーに関する(に向けての)ノート
・歴史を通してこだまする名前
・時間に関する新たな反駁
・古典について


訳者解説
付注人名一覧


■書誌


発行:2013年10月10日
版元:平凡社
叢書:平凡社ライブラリー797
訳者:木村榮一
装幀:中垣信夫
定価:1200円+税
頁数:276
索引:あり(人名への注に関する索引)


■リンク


⇒平凡社 > 『ボルヘス・エッセイ集』
 http://www.heibonsha.co.jp/catalogue/exec/viewer.cgi?page=browse&code=76_797


⇒国書刊行会 > ボルヘス・コレクション
 http://www.kokusho.co.jp/np/result.html?ser_id=128


⇒哲学の劇場 > 作家の肖像 > ボルヘス
 http://www.logico-philosophicus.net/profile/BorgesJorgeLuis.htm