能登大雨「外は海みたいになっとって逃げられない」…家ごと流された長女の父「早く抱きしめたい」

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 石川県能登地方を襲った記録的な大雨から一夜明けた22日、土砂や流木に覆われた被災地では、懸命の捜索活動が行われた。濁流に分け入って進む警察や消防、自衛隊の姿を、不明者の家族や友人らが祈るように見守った。(金沢支局 平松千里、成島翼)

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塚田川流域を捜索する消防隊員ら(23日午前9時8分、石川県輪島市久手川町で)=大石健登撮影
塚田川流域を捜索する消防隊員ら(23日午前9時8分、石川県輪島市久手川町で)=大石健登撮影

 河川が氾濫し、複数の住宅が流された輪島市久手川町。22日朝、 喜三きそ 鷹也さん(42)は、自衛隊や地元消防などが塚田川の川下で行う捜索活動を見つめていた。流された自宅にいた長女の輪島中3年、 翼音はのん さん(14)と連絡が取れなくなってから、丸一日がたつ。

塚田川付近で捜索活動を行う消防隊員ら(22日午後6時25分、石川県輪島市で)=大石健登撮影
塚田川付近で捜索活動を行う消防隊員ら(22日午後6時25分、石川県輪島市で)=大石健登撮影

 「部屋の扉が開かない。外は海みたいになっとって、窓からも逃げられない」

 最後に娘の声を聞いたのは21日午前9時50分頃。雨脚が強くなって心配になり、市内の職場からビデオ電話をかけた。家に1人でいた翼音さんは、激しい濁流を窓越しに映しながら早口に言った。

 鷹也さんが2年前に再婚し、ともに暮らす妻の紗菜さん(25)も直後に外出先から電話し、「なるべく高いところに逃げて」と伝えた。翼音さんは「うん、分かった」と応じたが、午前10時には連絡が途絶えた。

 鷹也さんは冠水した道路を歩き、昼過ぎに自宅に戻ったが、家は流されて基礎だけになっていた。「『翼音、翼音』と呼んだけど、返事はなかった。もうここにはおらんかった」。すぐに捜索願を出した。

 「明るく元気で頭が良い」という翼音さんは自慢の娘だ。中学では美術部の部長を務める。テストの点はいつも良く、金沢市の高校への進学を目指して受験勉強に励んでいる。

 紗菜さんともすぐに打ち解けた。皿を洗ったり、幼い妹をあやしたりと、家族思いの一面もある。9月中旬に行った修学旅行の思い出を楽しそうに話してくれた。

 「早く見つかってほしい。抱きしめたい」。鷹也さんは絞り出すように語った。

 珠洲市若山町の土砂崩れ現場では、羽田登喜雄さん(72)が見つかり、死亡が確認された。近くに住む親族の乙丸美代子さん(71)は「なんであんなにいい人が死ななきゃいけんのや。あんまりや」と肩を落とした。

 家が近いこともあって長年の付き合い。車の運転免許を持っていない乙丸さんを、車で買い物に連れて行ってくれた。遠い場所でも、買い物の時間が長くなっても文句の一つも言わない。いつでも「行こうか」と二つ返事で乗せてくれた。

 10日ほど前に会った時、「いつも悪いね。こんなもんしかないけど、持っていってや」と、スーパーで買ったパックのすしや缶ビールを手渡した。羽田さんは「おお、悪いね。これで一杯やるわ」と、いつも通りの笑顔で自宅に帰っていった。

 それが最後の会話となった。乙丸さんは「まさかこんなことになるとは夢にも思わん。元日の地震では大丈夫だったのに」と声を詰まらせた。

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