能登大雨「外は海みたいになっとって逃げられない」…家ごと流された長女の父「早く抱きしめたい」
完了しました
石川県能登地方を襲った記録的な大雨から一夜明けた22日、土砂や流木に覆われた被災地では、懸命の捜索活動が行われた。濁流に分け入って進む警察や消防、自衛隊の姿を、不明者の家族や友人らが祈るように見守った。(金沢支局 平松千里、成島翼)
河川が氾濫し、複数の住宅が流された輪島市久手川町。22日朝、
「部屋の扉が開かない。外は海みたいになっとって、窓からも逃げられない」
最後に娘の声を聞いたのは21日午前9時50分頃。雨脚が強くなって心配になり、市内の職場からビデオ電話をかけた。家に1人でいた翼音さんは、激しい濁流を窓越しに映しながら早口に言った。
鷹也さんが2年前に再婚し、ともに暮らす妻の紗菜さん(25)も直後に外出先から電話し、「なるべく高いところに逃げて」と伝えた。翼音さんは「うん、分かった」と応じたが、午前10時には連絡が途絶えた。
鷹也さんは冠水した道路を歩き、昼過ぎに自宅に戻ったが、家は流されて基礎だけになっていた。「『翼音、翼音』と呼んだけど、返事はなかった。もうここにはおらんかった」。すぐに捜索願を出した。
「明るく元気で頭が良い」という翼音さんは自慢の娘だ。中学では美術部の部長を務める。テストの点はいつも良く、金沢市の高校への進学を目指して受験勉強に励んでいる。
紗菜さんともすぐに打ち解けた。皿を洗ったり、幼い妹をあやしたりと、家族思いの一面もある。9月中旬に行った修学旅行の思い出を楽しそうに話してくれた。
「早く見つかってほしい。抱きしめたい」。鷹也さんは絞り出すように語った。
珠洲市若山町の土砂崩れ現場では、羽田登喜雄さん(72)が見つかり、死亡が確認された。近くに住む親族の乙丸美代子さん(71)は「なんであんなにいい人が死ななきゃいけんのや。あんまりや」と肩を落とした。
家が近いこともあって長年の付き合い。車の運転免許を持っていない乙丸さんを、車で買い物に連れて行ってくれた。遠い場所でも、買い物の時間が長くなっても文句の一つも言わない。いつでも「行こうか」と二つ返事で乗せてくれた。
10日ほど前に会った時、「いつも悪いね。こんなもんしかないけど、持っていってや」と、スーパーで買ったパックのすしや缶ビールを手渡した。羽田さんは「おお、悪いね。これで一杯やるわ」と、いつも通りの笑顔で自宅に帰っていった。
それが最後の会話となった。乙丸さんは「まさかこんなことになるとは夢にも思わん。元日の地震では大丈夫だったのに」と声を詰まらせた。