恐竜化石をデジタルで解明、CTに魅了され「抜け出せない」…福井県立大准教授が出版
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福井県立大恐竜学研究所の河部壮一郎准教授(古生物学)が、CT(コンピューター断層撮影法)などを用いた恐竜研究を紹介した著書「デジタル時代の恐竜学」(集英社インターナショナル)を出版した。デジタル技術で岩石に埋もれた恐竜や鳥類の骨の形状などを解明していく様子を記している。河部さんは「恐竜などの研究への思いや裏側を知ってほしい」と話す。(北條七彩)
「ぼくはCTスキャンがどうやら大好きなようだ」
「CTスキャナーにつながれたコンピューターから、少しずつ骨などの内部構造を記録した白黒画像が吐き出されてくる様子は、永遠に見ていられる」
筆致から、デジタル技術を使った恐竜研究への高揚感が伝わってくる。
大学時代、「鳥の脳の形を見たい」とダチョウの頭部内をCTで見て以来、「どっぷりCTを使った研究に足を踏み入れてしまった。抜け出せない」と興奮した様子で語る。「CTとの出会いがなければ研究者になれていなかった」と言うほどだ。
著書では、福井県勝山市内で化石が発掘された前期白亜紀(約1億2000万年前)の恐竜「フクイベナートル」や原始的な鳥類「フクイプテリクス」を例示。デジタル技術の力を借り、肉眼ではわからない化石の内部を調べることで、他にはない特徴を見つけて新種として発表した経緯を知ることができる。
鳥類の脳の研究をきっかけに、「いつか恐竜研究に携わりたい」と考えていた河部准教授にとって、2019年に新種と発表された「フクイプテリクス」との出会いは衝撃的だった。
13年の発掘調査。岩石に埋まっている鳥の形をした化石を一目見て、「どこの鳥なのか」と興奮した。骨の形が推定できるほどの大きさ。「研究の表舞台に出さないといけない」。この時代の鳥類の化石は国内では見つかっておらず、貴重な発見だった。しかし、化石は岩石に埋まり、表面以外はまったく観察できなかった。
「岩石の裏側にも良い情報があるはず」。県立恐竜博物館(勝山市)の工業用CTでスキャンをしたものの、岩石と化石の境界が明瞭にならなかった。
そこで、より鮮明な画像を求め、兵庫県の放射光施設「スプリング8」に化石を持ち込んだ。その結果、境界が鮮明に映り、数万点の画像を丹念に処理することで、デジタル上で骨を「抽出」。新種だとわかった。
骨格の復元には3Dプリンターを使用。骨格模型は恐竜博物館で展示されている。
「今まで目にすることのできなかったものが目視できるようになる。その瞬間の喜びは何物にも代えがたい」「名前をつける研究に携われるなんて思っていなかった。命名者の一人になり、夢が全部かなった」。デジタル技術を活用した「恐竜学」の魅力をそう説明する。
来春には県立大に「恐竜学部」が新設される予定で、CTや3Dプリンターを活用する「デジタル恐竜学」を教育の柱としている。河部准教授は「新しい技術を毛嫌いすることなく、次代の恐竜研究を学生と一緒に考えたい」と意気込む。
新書判224ページ、税込み990円。