相次ぐ浸水で6割廃棄のトマト栽培、解決のヒントは「ノアの箱舟」

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 水に漬かるのが嫌なら、浮かせればいい――。「ノアの箱舟」に着想を得た逆転の発想で、佐賀県唐津市の農業生産法人「アグリッシュ」がトマト栽培に取り組んでいる。2018、19年と2年連続で栽培ハウスが浸水被害に遭った経験から、「天候に振り回されない農業を」と吉田章記社長(44)が思いついた。21年8月の大雨では期待通りに水難を免れた。(喜多孝幸)

土台が浮く仕組みを説明する吉田さん
土台が浮く仕組みを説明する吉田さん

 吉田さんは16年秋に就農。福祉の世界から転じ、独力で工夫を重ね、約20アールのハウスで高級なミニトマト「太陽のたまもの」を栽培している。加工したジュースは新鮮さと濃厚な甘さが受け、東京のホテルなどで販売されている。

 18、19年の水害ではハウスが約15センチ浸水した。内水氾濫が原因で、とりわけ18年は収穫前のトマトの約6割を廃棄する事態に。「たった数日の水害で1年間の作業がふいになる」と悩んだが、「この数日を何とか乗り切ることができれば継続できるのでは」と頭を切り替えた。

 採用している農法は、土台に苗を植え、栄養分を染み込ませて育て、実のついたツルを空中につるすやり方。元々の土台は、プラスチックの脚で地面より約10センチ高くしていた。ブロックなどでさらに高くする方法も考えたが、年々水位が上がっている気配から、「いくら底上げしてもキリがない」。社員らと話し合ううちに、大洪水の難を逃れた「ノアの箱舟」の神話から「土台ごと水に浮かせればいい」と思いついた。

浸水したハウス内で浮き上がっている土台(2021年8月、吉田さん撮影)
浸水したハウス内で浮き上がっている土台(2021年8月、吉田さん撮影)

 そこで、発泡スチロールの箱に建材用のスチール製脚(高さ約20センチ)を固定して土台をつくった。内水氾濫で少しずつ水位が増していくと、自らの浮力でバランス良く浮き上がっていく仕組み。土台を軽くするために、苗を植えていた土をヤシガラ繊維に替え、水害後の根腐れや泥土に含まれる細菌の繁殖を防ぐこともできるようになった。

 ローコストにもこだわった。既存の素材を組み合わせることで、約20アールのハウスの備えとして約300万円の費用で済んだ。20年7月に導入。21年8月、最大約28センチの浸水に遭ったが、想定通りに土台が浮いており、約1万2000本の苗でトマト栽培を続けられたという。

 8月上旬から今季の苗植え付けが始まる。大雨や水害の懸念は今も尽きない。「『天気のことだから』とあきらめずに、農業を続けられる仕組みとしてさらに研究を重ねたい」と吉田さん。「ナスやキュウリ栽培にも応用できる。若い農業者の参考になれば」と話していた。

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3216678 0 経済 2022/08/01 08:43:00 2022/08/01 11:41:03 2022/08/01 11:41:03 /media/2022/07/20220731-OYT1I50025-T.jpg?type=thumbnail

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