キスするだけが愛じゃない。推しを死なせてしまう矛盾と苦悩の理由/カレー沢薫の創作相談
文/カレー沢 薫
この質問を見て「創作オタというのは何て面倒くさい生き物なのだ」と思われたかもしれませんが、全くその通りであり、急いでいるときは絶対に目を合わせてはいけない人種です。
逆に「何でもいいから音がないと狂いそうだ」というときは、創作オタに推しの解釈について尋ねれば二時間ぐらいは奇声や異音を発してくれるのですが、たぶんradikoとか聞いている方が有意義だと思います。
しかし、同じ創作者でも「推しが好きだから推しが幸せになる話を書く」という非オタでも理解できる光側の者もいれば、オタである私ですら相談文を10回読んでも途中で遭難してしまう相談者のような闇の者もいます。
ここで話は全く変わるのですが、私は女児歴30年以上の大ベテランでありながら「セーラームーン」を全く通っていません。
最近ネットで「美少女戦士セーラームーン『月野うさぎは人生の同志』」という見出しを見て「なんて激シブな劇場版タイトルなんだ、俺もセーラームーンの事を『月野同志!』と呼べるならセーラームーンを履修しておけば良かった」と激しく後悔しました。
その後、そういうタイトルではなく、声優さんがインタビューで答えたコメントの引用ということが判明したのですが、それにしても強い文字列なので、ぜひ次のタイトル候補にしてもらいたいです。
私の記憶では「推しに重い設定をつけたり生と死の境を彷徨わせたり、果てはバームクーヘンエンドを食らわせてしまう創作オタ」に向けて発せられた言葉だった気がします。
推しや推しカプのことが好きなはずなのに、気づいたら推しカプに死体を埋めさせ、何だったら推しを埋めてしまう。何故好きな相手にこんなことをしてしまうのか、と悩む創作オタに対し、セーラーメリバが「だきしめてキスをするだけが愛してる証拠じゃないわ、せっかく平和なギャグ時空に生まれた推しにバトロワパロ(アラフォーオタが即死)をさせて、カップリング相手に撃ち殺させる愛のかたちもあるの」と、言ったような幻覚をいま見ました。
実際、推しに対する愛情表現というのは人それぞれであり、エグすぎるR-18G二次創作を描く人に「そのキャラが嫌いだからそんなヒドいことをするのか」と聞いたところ「嫌いな相手の内臓なんか描きたいわけないだろう」という言葉が返って来たそうです。
あなたも「好きでも嫌いでもないキャラに重い設定を見いだし生死の境を彷徨わせろ」と言われても「桃に入れられて川に流された」とか、どこかで聞いたような設定しか思いつかないと思います。
落ち込むのは性癖と倫理の乖離しているから
問題は、推しを「死なせたり、不幸にしてしまう」という自分なりの愛情表現をして満足できていれば良いのに、それが自分の地雷で落ち込んでしまっていて、ここが一番光のオタクが混乱する遭難ポイントです。
これは、良心や倫理観と「性癖」が必ずしも一致しない、むしろ真逆な場合があるからだと思われます。
私も表面上は光のオタクであり、好きなジャンルは「イチャラブ」であり、「#ここに教会を建てよう」みたいなタグがついているものを率先して見ます。
逆にバッドエンドや死にネタ、ましてNTRなど絶対見ないのですが、先日仕事で仕方なくNTRものを読んだところ、正直イチャラブの5兆億倍興奮しました。
しかし、その後の賢者モードが「2日目」どころではない重さで、しばらく寝込んでしまいました。
つまり私は「性癖」的にはNTRに興奮するのに「倫理」や「良心」的にはNTRに嫌悪があり、この「性癖」と「倫理」の乖離が大きいほど人は苦しむのです。
おそらくあなたも性癖的には、推しの不幸や死にカタルシスを感じるのに、良心的には推しを酷い目に合わせたくないと思っているから苦しいのだと思います。
体調を考慮して楽しむ
残念ながら性癖というのはよほどのことがないと変わらないと思います。
よって私は「体調を考慮しながらつきあう」ようにしています。
いつもは重い賢者モードに耐えられないのでハピエンしか嗜みませんが「今日は体調が良いし、長女だから耐えられる!」というときには、NTRなどをドカンと一発楽しむこともあります。
あなたも「今日推しを死なせたら一週間は寝込むな」というときには推しを死なせない。
「今日は元気だから、推しを最も信頼していた人間に裏切らせ失意の中むごたらしく死なせても大丈夫」というときだけ筆を進めるなど、生活と精神に影響を及ぼさないラインを見極め上手くつきあっていきましょう。
どれだけ特殊な嗜好を持っていても、それを「創作」という法やリアル倫理に反しないところで昇華できる時点でとても恵まれていますし、同じ癖を持っていながら、創作をする術を持たない人はあなたの作品を楽しみにしていると思います。
どうせ変えられないなら「難儀な癖」ではなく「才能」と思って上手くつきあい、これからも創作を楽しんでもらえればと思います。
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はじめまして。楽しく創作相談を読ませていただいています。
私は二次創作字書きなのですが、ついついギャグ作品の推しに重い設定を見出し、生と死の境を彷徨わせたり、過酷な運命を背負わせたりしてしまいます。最近では「闇の◯◯」と呼ばれるタイプの人間です。にも関わらず、死ネタが苦手です。
普段は推しの悲惨さに泣きながら書いていますが、うっかり死なせてしまうと1週間ほど引きずります。その癖、大抵の場合は死が最善の選択なので回避することもできません。筆が異常な速度で推しの死を目指す最中、酷い事をしている自覚もあり、我ながら難儀すぎてキツいです。どうしたら自分で地雷をバラまく矛盾から抜け出せるのでしょうか。
長々と失礼致しました。これからも更新楽しみにしています!