「独身、40代、趣味はBL二次創作」ダメ人間に思えるのはハードルを上げすぎてるから/カレー沢薫の創作相談
独身、40代でBL二次創作をしている自分がダメ人間に思えて辛い
「隣の芝生は大麻に見える」
自分は荒れ果てた庭で季節感のないニットをオナモミだらけにしているというのに、隣家の連中は魔法のハーブに囲まれてハッピーそうに見える、誰もが一度は陥ったことがあるだろう感覚ですが、実際は隣の庭に生えているのもオシャレ感覚で植えたはいいが収拾がつかなくなったミントでしかないことの方が多いのです。
私も今年で40歳になりましたが、傍から見れば結婚し、持ち家に住み、作家業をやっているという順風満帆、一体何が不満なのかその愚痴臭い口をまつり縫いしてやろうか、と思われているのかもしれませんが、実際はいつまで仕事があるのか不安でたまりませんし、電気代が上がった上に、言われるがままにつけた太陽光発電の高額売電が今年で終わって来年からどうすっかな、と思っています。
そしてもれなく「私以外の40歳はもっとちゃんと生きている」と思っているのです。
おそらくあなたのことを見て「結婚という選択肢を取らずとも一人で生きていけてすごい、それに引き換え自分は」と思う人もいると思います。
しかし、大体はそう見えるだけで実際はそんなに良いものでもないし、ビッグ麻ガーデンだって「お縄」というリスクを抱えて生きているものなのです。
本当に隣家がハッピーだったとしても、それは「他人にとってのハッピー」でしかありません。
私の家の前は公園なので、毎日二階の私の部屋の窓から、遊ぶ子供とそれを見守りながら世間話に興じるお母さま方の集団を見下ろす形になります。
それを見るたびに「みんなちゃんと社会生活を営んでおり、自分はそこからはじき出された存在である」と痛感して落ち込みます。
しかし、相手からしてみれば、中年無職に毎日監視されているとわかった時点で己の立場を「いいね」とは思えないでしょうし、仮に私がその輪に体験入部させてもらったとしても30秒ぐらいで「部屋に戻ってウマ娘やりてえ」と思いはじめるでしょう。
結局、今の部屋から一歩も出ず、アマゾソの箱を持ってきてくれる人が社会との唯一の接点という状態が私の「ベスト」なのだと思います。
もし仮に「家庭と仕事を両立し、さらに創作にも打ち込んでいる」という、あなたがあこがれる存在になったとしても、感じるのは幸福や優越感ではなく「やることが多い」という金田一少年の犯人メンタルなのではないでしょうか。
これは自分の手に余る、とりあえず家庭とやりがいがありすぎる仕事は外しとくか、と自分に扱えないパーツを外していった結果、結局「元の自分」に戻る気がします。
自分のキャパ以上のことや向いていないことをやろうとすると、自分が潰れるのはもちろん、周囲までも不幸にしかねません。
あなたも選択ミスや努力不足ゆえの「末路」ではなく、自分にできることをやりながら、創作という楽しみも見つけた現状こそが「最善」だったと考えてはどうでしょうか。
現状の自分を認められないから、BL趣味が恥ずかしい
それに他人の芝生が大麻に見えている時は、大体「自分の芝生が犬の便所」に見えているときです。
自己評価がマイナス五億だから、65点の燻り集団に囲まれてもみじめな気持ちになってしまい、そんな自分が興じている「BL二次創作」なる行為も人様に言えない恥ずべき趣味に思えてしまっているのです。
そんなに自分を激辛評価していたら、例え趣味がお琴にテニスでも「何がお琴にテニスだ、若いころに男にペニスを追いかけていれば今頃こんなことには」などと島耕作のような難癖を自分につけはじめるだけです。
「BL二次創作」という趣味を肯定するには、まずは自分自身を肯定しなくてはいけません。
だからと言って自己評価を上げるためにキャリアアップをしようとしたり、pixivランカーを目指したりする必要はありません。
そう簡単にできることでもありませんし、むしろできない自分に余計がっかりするだけです。
変わる必要はなく、現状の自分を認めればよいのです。
あなたは「自分はオタクであることとBL二次創作しかない」とおっしゃいますが、私は自分のことをクソオタ創作マンで本当に良かったと思っています。
創作を仕事にしたからではなく、手取り12万で会社員をやりながら子ども部屋おばさんをしていた頃からそう思ってました。
私は生まれる前に、協調性を子宮、社会性を金玉に置いて出てきてしまった人間なので、学校にも会社にもなじめず、むしろ周囲に迷惑をかける存在でした。
そんな人間でも「創作」をして世に出せば「このカプの作品を描いていただきありがたき幸せ」「大変おいしゅうございました」など、心からの感謝や賛辞をいただけることがあるのです。
こうやって礼を言ってくれる人たちも出会いが私の作品ではなく「バイトの同シフト」とかだったら私に対し「一刻も早く死んでくれ」以外の感情は抱かないと思います。
つまり私は、キモオタインターネットお絵描きマンじゃなかったら、何の楽しみもなく、誰にも感謝されず迷惑だけかけたまま死んだ可能性が高いということであり、考えただけでもゾッとします。
あなたも自分がもしオタクのBL二次創作者じゃなかったらどうなっていたかを想像してみてください。
そうすればオタク趣味も汚点ではなく「自我崩壊を水際で食い止めてくれる救世主」としてもっと大事にできるのではないでしょうか。
二次創作は環境が整った趣味
それに己の作り出したもので他人を心から楽しませる、というのは結構難しいことであり、誰にでもできることではありません。
お菓子作りやハンドメイド雑貨が趣味だったとしても、それを他人にあげて喜ばれるには相当の腕前が必要ですし、下手をすると「汚菓子職人」などと嫌がられ、それが社会生活に影響を及ぼしかねません。
片や二次創作という趣味は、pixivのように己のパーソナリティを一切出さず実生活に無影響な場所で発表できます。
さらに「クッキー焼いたから食べて」と押し付けるでもなく、例え未熟でも「タマキン(カプ名)の学パロ作ったんでここに置いておきます」と、好きな人だけご自由にお取りくださいシステムで発表できるので、少なくとも人に迷惑をかけることなく、上手くいけば自己満足と他者満足が同時に得られます。
一人でできる上に、それを発表するシステムも確立しており、さらにそれがタダで利用できる、ここまで環境が整えられた趣味もなかなかないのではないでしょうか。
恥ずかしくて年齢を明かせないとおっしゃいますが、明かしたくなければ一生明かさないままでいいですし、読み手にとっては推しカプのSSS(シコシコ創作)を描いてくれるなら年齢などどうでもよく、必要なのは自己防衛のための「↑20」という表記のみです。
むしろ、老後資金2000万などと言われる現在、将来に不安を抱え、己の存在意義を問いがちな中年にとって、ローコストで年齢に評価が左右されず、人様のお役に立てるかもしれない創作という趣味は最適です。そんな趣味をモテてラッキーとすら思えますし、やろうと思えば死ぬまで続けられるところも人生100年時代においては高ポイントです。
自分で高い壁を立てる自傷行為
そもそもあなたの考える「40代のあるべき姿」のハードルが高すぎるのではないでしょうか。
「40代にもなって結婚も子供も作らずオタク趣味に興じるとは何たることか、ちゃんとしろ」と他人に言われたわけではないでしょうし、他人に言われたとしても「ちゃんとしたところで令和にもなって人様にそんなことしか言えないのか」と思えば、その程度でしかありません。
自分で高い壁を立ててそこにぶち当たって死ぬというのは自傷行為、もしくはセミのやることなので「成人してから親に金を借りたことがない」「前科がない」「40年連続呼吸達成」など、自分を労わる発想を持つよう心がけてください。
そして、BL創作はともかく、昨今、アニメや漫画、ゲームというのはそこまで特異な趣味ではありません。
そんなに珍しくもないのに、自分で自分を異質な恥ずべきもの扱いして孤独に陥ってしまっているのではないでしょうか。
先日美容院に行った時、特にオタク風というわけでもない女性が美容師にチェンソーマンの話をはじめ、そのまま「シャンプーされながらスマホで再生をはじめる」というエクストリーム視聴を開始されました。
それを見て「大人がみっともない」と思ったかというと「あ、かっこいい」と思いました。
何事も、己が恥ずかしがるから恥となるのです。
本当に恥ずかしいならさっさとやめる、やると決めたら堂々と、です。
自虐するにも「俺みたいな中3でグロ見てる腐れ野郎、他に、いますかっていねーか、はは」のように、一周回って肯定になるぐらい勢いよくいきましょう。
初めまして、最近こちらのコラムを知り、興味深く楽しく拝見しました。自分もお悩み相談したく投稿します。
自分は独身、40代でBL二次創作をしていますが時々そういう自分にとても落ち込みます。独身でパートナーもおらず子どももおらず、20代の頃から自分だけが変わらず、この歳で現実逃避してBL二次創作なんかにかまけている、ということにです。
あまりにも自分がダメ人間に思えて辛く、こんな人様に言えない趣味はもうやめたほうがいいのかと落ち込みます。
ツイッターを拝見すると同年代の方はいますが、大体が結婚、子育てなどリアルと両立しながらオタクをしている方で、二足のわらじをきちんと履いて、現実をしっかりと生きながらバランス良くオタクも楽しんでおられて立派だなと思います。
自分もそうだったら、趣味はオタクです、ともう少し堂々とできた気がしますが、残念なことにパートナーも家族もなく仕事でもキャリアを積んでいるとも言えず、オタク以外に何もありません。
ツイッターや支部でプロフィールのわかる方は、若者か、もしくはパートナーがいたりお子さんがいたり仕事に邁進しつつもオタクを楽しんでいる方ばかりの気がして、いい年をしてオタクしかない人間は自分だけなのでは・・・と思えてプロフィールや年代を公表することもできません。
イベントに自主参加することはありませんが、声をかけていただいたり、過去に一緒に本を作りましょうとお誘いをいただくことも何度かありました。しかし正体が40代の未婚者とバレたら引かれてしまうかもという思いで断ったりしてしまいました。
同年代で独身のオタク仲間がいれば心強いと思うのですが、見つけることができない故に、自分だけなのではという気持ちがしてしまいます。
また現実世界で「休みの日何してる」という話題にもオタクを見るか描くかしかしていない自分はリアル友にも本当のことが言えません。オタクでも、リアルでも、本当の自分を晒せない自分が情けないです。
こんな自分に落ち込まずにオタクを続けるにはどのように気持ちを持てば良いのでしょうか。