渡辺明王将(名人・棋王=36)への挑戦権を争う、将棋の第70期王将戦挑戦者決定リーグが22日、東京・千駄ケ谷「将棋会館」で開幕した。午前10時から始まった注目カード、藤井聡太2冠(18)対羽生善治九段(49)は午後7時17分、後手の羽生が中盤、接戦から抜け出して80手で勝利を手にした。ここまで4連敗と相性が悪かった史上最年少プロから初白星を挙げた。19日に竜王戦7番勝負の挑戦権を獲得した。27日の50歳の誕生日を控え、40代最後の対局で連勝し、こちらも好スタートを切った。

羽生の手が激しく震えた。勝利を意識したときのしぐさだ。76手目後手2五香。2六に逃げてきた藤井玉を頭から押さえ付けた。「最後に詰みが見えて、やっと勝ちだと思いました」。40代最後の対局には、「特別なことはなく、一生懸命やろうと思っていました」とだけ、応えた。

2018年2月、朝日杯オープン戦準決勝で初めて対戦して以来、公式戦で4連敗。今局はきわどい形勢の競り合いから抜け出した。「今までほとんどチャンスらしいチャンスがなかった。今回は良かったかな」。ホッとした様子だった。

上座にいる史上最年少プロは今年、立て続けに棋聖と王位を獲得した。過去4局は段位が上だったため、上座だった羽生は今回、下座。相手がタイトル保持者の場合は、九段でも序列が下になるからだ。厳然たる現実を受け止めた。

前局、竜王戦挑戦者決定戦では往年の手堅い指し回しで竜王戦の挑戦権を得た。タイトル獲得通算100期がかかる大舞台に、2年ぶりに戻る。その会見で藤井の活躍ぶりについて問われ、「2冠という大きな実績を残されている。日々の対局や棋譜を見て参考にしたり、勉強しているところです」と、存在を認めた。

強い年下との対局が増えるなか、最新の将棋に対応する必要性を実感している。「考えなくてはいけないことがたくさんありすぎ。最近の将棋を理解しているかは分からないが、後れを取らないように心掛けている」と、自らの立ち位置も理解している。

王将リーグとほぼ同時期に、2日制の竜王戦7番勝負も10月から加わる。前後の移動まで含めると4日を費やしながら、豪華メンバーの王将リーグや他棋戦も掛け持ちする。タイトル獲得計99期(内訳は竜王7、名人9、王位18、王座24、棋王13、王将12、棋聖16期)のトップランナーは、気力を充実させてこちらでも挑戦権獲得を目指す。【赤塚辰浩】

◆王将戦 将棋の8大タイトル戦の1つ(ほかは竜王・名人・叡王・王位・王座・棋王・棋聖)。挑戦者決定リーグは、前期シードの4人(広瀬・豊島・藤井・羽生)と、1次~2次予選を勝ち上がった3人(永瀬・木村・佐藤天)の計7人による総当たり戦。成績最上位者が挑戦者となる。95年の第44期には、当時まだなかった叡王を除く6冠を保持していた羽生が、谷川浩司王将に挑戦した。阪神・淡路大震災に遭いながら対局をこなした谷川が4勝3敗で防衛した。翌年の第45期は、6冠すべてを防衛して再度挑戦者として登場した羽生が谷川に4連勝。史上初の7冠全制覇を達成した。