強すぎるベテラン40歳の勢いは加速した。通算連続出場記録歴代1位更新を続ける東前頭10枚目の玉鷲(片男波)が、尊富士との無傷対決を押し出しで圧倒し、4連勝。優勝経験もある25歳の実力者を左腕1本で土俵の外に飛ばした。無敗は綱とりに挑む大関豊昇龍を含む5人。大関琴桜は早くも3枚目を喫し、横綱昇進がますます厳しくなった。

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勝利の余韻に浸るかのような長風呂から上がると、玉鷲の笑いがあふれた。「今日は気持ちいいですね。良い仕事をしたね」。サラリーマンが仕事後に生ビールをグビグビ飲むかのように、体のケアを兼ねたドリンクを一気に飲み干した。

一般社会人なら働き盛りと言われる40歳だが、角界ではベテランと称される。前日は尊富士との対戦を「楽しみ」と言い切った。先場所の千秋楽、激しく向かってくる“若手”にイライラする“上司”かのように「土俵で熱くなって硬くなっちゃったんだよね」と突き落としで敗れた。「今日は落ち着け、落ち着けってずっと思っていたよ。相手は若いし、優勝経験もある。押し相撲で勝てて一番うれしい」。互いが頭で当たった立ち合いでも冷静に。少し引いた相手の胸に左腕をグッと伸ばした。その瞬間、体が宙に浮くかのように決着がついた。

試行錯誤するのは20代のころと変わらない。「食事は意識しています。今は好きな物を食べること」。30歳のころ、集中力アップや疲労回復を補足すると知人の助言を受け、稽古や取組前後に小さい巾着袋に入れて持ち歩いたチョコを食べていた。「もうやめた。チョコ太るし。最近はたくさん食べると体重が増えるようになった。食べたいものは食べるけれど、自分でここまでと量を抑えられるようになったのは変わったところかな」。おちゃめな笑顔は10年前と変わらない。

年明けは都内の浅草寺に初詣に出かけた。でも、おみくじは引かない。「人間、運も決まった量だと思うので。そこでは使わない」。初土俵も、新三役を決めたのも、初優勝も初場所だ。験の良い初場所の始まりは、最高のスタート。「始まり良しは終わりも良し。フフフ」。玉鷲自作の格言も誕生。自身3度目、初の40代賜杯となるか。【鎌田直秀】

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