今年1-10月の「人手不足倒産」は前年同期比20.4%増の324社。企業はバブル期以来の人手不足感を訴えていますが、なぜこの状況でも賃金は上がらないのでしょうか?(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2018年11月19日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
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「人手不足倒産」2割増
商工リサーチのデータによると、今年1-10月の「人手不足倒産」は、前年同期比20.4%増の324社となりました。日銀の「短観」でも、中小企業を中心に、企業の「雇用判断」はバブル期以来の「人手不足感」を訴えています。
もっとも、生産年齢人口が減少するのに伴って、一時は就業者数も減っていました。しかし、リーマン危機での落ち込みが大きかったこともありますが、リーマン危機後は就業者数も増加傾向に。昨年度の就業者数は6,566万人で、リーマン危機前の、例えば2005年度の6,365万人を200万人も上回っています。
これは、人手がまったくなくなったわけではなく、人手不足の中でこれまで労働市場に参加しなかった女性や高齢者、外国人労働者が加わったためと見られます。
このため、冒頭で紹介した「人手不足倒産」も、その7割に当たる237社は、後継者を見つけられずに倒産したもので、求人難による倒産は46社にとどまっています。
人手不足でも賃金が上がらない
労働力はあっても、熟練労働力・技術労働者の不足が、企業の「人手不足感」を高めているのは間違いなさそうです。
しかし、それにしても労働者の賃金はなかなか上がらず、物価上昇を差し引いた実質賃金はこのところマイナスが続いています。今年になって賃金が増えたように見えましたが、これも調査サンプルの入れ替えによるもので、同一サンプルでは依然として低い伸びにとどまっています。
厚生労働省の「毎月勤労統計」によると、この9月の名目賃金総額は、同一サンプルでみると0.2%増にとどまり、実質賃金は1.3%のマイナスになっています。
失業率が2%台前半まで低下し、企業もバブル期以来の人手不足を感じていながら、なぜ賃金が増えないのでしょうか。
その原因は、意外にも労働生産性が上がっていないことにありそうです。そしてそれは、人手不足を誘因するものでもあります。