なぜ日本ではキャッシュレス化が進まないのか? 日銀のレポートをもとに、海外の事例とも比較しながら、あらためて日本の現状について論点整理を試みたい。(『牛さん熊さんの本日の債券』久保田博幸)
※『牛さん熊さんの本日の債券』は、毎営業日の朝と夕方に発行いたします。また、昼にコラムの配信も行ないます。興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
なぜ?突出した現金流通残高、所有するだけで使われないカード類
現金依存が続く日本
あらためて日本でのキャッシュレス化の現状について、論点整理を試みたい。
今回は「BIS決済統計からみた日本のリテール・大口資金決済システムの特徴(PDFファイル)」という、今年2月に日銀が出したレポートを参考にして見ていく。
日本における「現金流通残高」の対名目GDP比率は突出して高く、キャッシュレス化が急速に進行しているスウェーデンの約11倍にも達する。
日銀のレポートによると、日本において法定通貨である「円」という現金の利用が多くなっている理由として、
- 国内の治安が相対的に良く、盗難等により現金を失うリスクが他国対比では低い
- 偽造された銀行券が相対的に少なく、銀行券に対する国民の信認が高い
- 低金利環境により現金保有の機会費用が小さい
などの理由を挙げている。
また、現金の支払い手段としての側面から見てみると、法定通貨としての強制通用力や一般受容性(支払いに使えるという認識)といった性質に加え、支払完了性を有する(債務がなく決済が完了する)こと、価値以外の情報が切り離されているという意味で「匿名性」を有することといったメリットが挙げられている。
電子通貨ではこの「匿名性」が失われる可能性がある。また支払可能な金額が額面金額に限定されていることも、むしろ現金のメリットと捉える向きもあると指摘されている。
日本人は電子マネー・カードをどう使っているのか
日本ではカード決済のウエイトが相対的に小さく、支払手段として現金が幅広く使われているが、各種カードの1人当たり合計保有枚数をみると、日本では平均7.7枚とかなり多い。
実はデビットカードの保有枚数も日本は多いものの、それはデビットカードの保有枚数には「J-Debit」が計上されているためで、使わなくてもデビットカードの機能もあるカードを複数枚所持していることが要因となっている。
そして、日本におけるカード決済金額をみると、次のような特徴がみられるとレポートでは指摘している。
- 電子マネーによる決済金額は、各国平均を大きく上回っている
- クレジットカードは、概ね各国平均並みに利用されている
- デビットカードによる決済金額は、各国平均を大きく下回っている
電子マネーのカード利用に関しては、交通系カードが広く普及していることやポイントの付加などが日本で多く利用されている要因となっている。また、電子マネーによる決済は、小売店等における少額決済を中心にかなり急速に増加しているようである(nanacoやWAON等々)。このため、日本における少額貨幣の流通残高は減少している。