今後30年内の発生確率が70~80%とされる「南海トラフ地震」。未曽有の巨大災害が起きた時、西日本の太平洋沿岸部は広範囲で最大震度7の揺れと大津波に襲われ、東日本大震災をはるかに上回る被害が想定される。「最悪のケース」の場合、滋賀県や京都府はどのような事態に見舞われるのか。専門家や行政への取材を基にシミュレーションした。
■冬の深夜、大津や彦根で震度6強に
20××年、冬の深夜。スマートフォンやテレビから、一斉に緊急地震速報の不協和音が鳴り響いた。テレビに映し出された地図は、東-西日本の広域で強い揺れが予想されることを示していた。
20~30秒後、大津市や彦根市など県内の広い範囲が、震度6強~震度6弱の激しい揺れに襲われた。10秒、30秒、1分…。揺れはいっこうに収まらない。
■揺れの長さ、過去の地震と別次元
2018年の大阪府北部地震は、大津市で震度5弱の揺れが10秒未満、その後弱い揺れが40~50秒ほど続く程度だった。南海トラフ地震は、強さ、長さとも別次元だ。
滋賀や京都の各地で、2万棟以上の民家が倒壊した。発生が深夜だったため、多くの人が生き埋めになった。山沿いでは土砂崩れが発生し、地盤の弱い埋め立て地などは液状化現象に見舞われた。強烈な揺れは、2~3分後にようやく収まった。
■滋賀で470人が死亡、明治以降最悪の被害
滋賀や京都の被害は、地震によるものとしては明治維新以降で最悪となった。滋賀県は474人、京都府は約800人が死亡した。滋賀県の負傷者は約1万400人、全壊・全焼家屋は約1万2800棟に上った。
しかし、滋賀県は「被災地の外縁部」にすぎない。大阪市や名古屋市は、滋賀や京都以上の被害が出たほか、和歌山や三重、静岡、高知、徳島などの沿岸部は、大津波で壊滅的な打撃を受けた。東海、近畿、四国、九州を中心に全国で20万人以上が命を落とした。
■滋賀に他府県からの支援は来ない
自衛隊や消防、緊急医療支援は、甚大な被害を受けた東海-九州の沿岸部に向かった。相対的に被害が小さい京都や滋賀に、多府県からの応援は来なかった。西日本の物流はまひし、京滋でも食料や水、生活必需品が欠乏していった。
≪南海トラフ地震≫
太平洋の駿河湾-日向灘のプレート境界部にある溝状地形「南海トラフ」付近で発生する海溝型地震。「東海地震」や「東南海地震」と呼ばれる地震も含まれる。100~150年周期で、マグニチュード8~9級の巨大地震を繰り返している。最大級の地震が起きると関東-九州地方の広範囲が震度7~6強の揺れや高さ10メートル以上の津波に襲われ、東日本大震災をはるかに上回る甚大な被害になると想定されている。
おことわり この記事は、内閣府の南海トラフ地震被害想定などに基づくシミュレーション記事です。実際に南海トラフ海域を震源とする地震が発生したとき、同じ震度分布になったり、同様の被害が起こったりするわけではありません。また、京滋直下の花折断層や琵琶湖西岸断層などを震源とする地震では、緊急地震速報から揺れまでの時間差はほとんどないとされています。