事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

山本太郎参議院議員がIR法案採決で委員長に暴行:公務執行妨害罪等の成否

f:id:Nathannate:20180720232648j:plain

山本太郎参議院議員が、参議院内閣委員におけるIR法案の採決の際、委員長の腕や手を強く掴む行為を行いました。

これが何らかの刑罰に該当するのではないでしょうか?

過去の事例から判断しましょう。

実は以下の過去記事で検討したことが丸々当てはまります。

山本太郎参議院議員による公務執行妨害罪か

動画を見ればわかりますが、明らかに委員長の腕をつかんで文書を奪い取ろうとしています。

公務執行妨害罪(刑法95条1項)にいう「暴行」について説示した国会乱闘事件の裁判例を参考にします。

東京地方裁判所昭和31年(刑わ)第3221号 公務執行妨害、傷害等 昭和41年1月21日

元来、公務執行妨害罪の構成要件たる暴行は、公務員の職務執行の妨害となるべきものであることを要しー中略ー、従つてこれが積極的な攻撃としての性質を帯びることは勿論(最判昭和二六年七月一八日集五巻八号一四九一頁参照)、公務員の身体に何らかの危険の及ぶべきことを感知せしめ、その行動の自由を阻害するに足る程度のものでなければならないと解するのが相当である。けだし、公務員が、その職務執行にあたり、身体に何らかの危険の及ぶべきことを感知する底の直接あるいは間接の攻撃を受ければ、これが回避もしくは遅疑、逡巡など、その職務遂行の意思に外部的な影響を受け、それがため、その行動の自由が阻害されて、職務執行の停滞ないし中絶を招くであろうことは当然予想されるところであり、一方、その攻撃にして、身体に何らの危険をも感知せしめず、公務員において全く意に介しないような性質のものであるかぎり、これによつて職務の適正な執行の害されるおそれはない、というべきだからである。しかし、右説示したごとき性質の有形力の行使である以上、それが一回的、瞬間的に加えられると、はたまた継続的、反覆的に行なわれるとを問わないことはいうまでもなく、むしろ、公務員の身体に対する攻撃であればその職務遂行の意思に何らかの影響を及ぼし、適正な職務執行を害するのが通常であるともいえよう。

 「公務員の身体に対する攻撃であればその職務遂行の意思に何らかの影響を及ぼし、適正な職務執行を害するのが通常」

動画を見ても、山本太郎議員が委員長の腕をつかむなどの行為によって、採決の手続が遅延していることがわかります。

したがって、構成要件該当性はみたされることになります。

山本太郎参議院議員による威力業務妨害罪

仮に公務執行妨害にあたらなくても、威力業務妨害罪(刑法234条)にあたらないと言い得る根拠は乏しいと思います。

最高裁判所第1小法廷 平成20年(あ)第1132号 威力業務妨害被告事件 平成23年7月7日

卒業式の開式直前という時期に,式典会場である体育館において,主催者に無断で,着席していた保護者らに対して大声で呼び掛けを行い,これを制止した教頭に対して怒号し,被告人に退場を求めた校長に対しても怒鳴り声を上げるなどし,粗野な言動でその場を喧噪状態に陥れるなどした

これと比較すると、委員長の前に立ちはだかり、卓上の文書類を散らかし、委員長の腕を強く掴むなどしつつ言葉を浴びせかけることでもって採決を遅延させる行為は、「威力」に 該当すると言えると思います。

政治活動における超法規的違法性阻却事由について

国会乱闘事件では、事務次長のネクタイを引っ張って頸部圧迫をした事が公務執行妨害罪の構成要件に該当したが超法規的違法性阻却とされました。

国会乱闘事件でなぜ超法規的違法性阻却がされたのか?

東京地方裁判所昭和31年(刑わ)第3221号 公務執行妨害、傷害等 昭和
41年1月21日

しかるに、他面、同被告人らの右各行為は、その参議院議員としての本来の職務たる言論活動自体もしくはいわゆる附随的行為にあたらないとはいえ、これがいわば参議院議員の院内における広義の政治活動として、前叙各認定のごとき動機、目的のもとになされたもので、もとより議員の職務と全く無関係な個人的犯罪と異なり、この両者の相違は、犯罪成立要件もしくは量刑の面において、顕著に顕われるであろうことは、先に一言したごとくである。

まず、本件が参議院議員の院内の広義の政治活動としており、個人的犯罪と異なる判断過程を経るということを判示しています。

それぞれ前叙認定にかかるがごとき行為に出でた動機、目的は、その際、本会議開会の振鈴後、松野議長において開会を宣べるまでの時間が通常の場合におけるそれに比してかなり短かく、かつ、これにひきつづいて、直ちに記名投票のための議場閉鎖がなされたので、政府与党である自民党及びこれに同調していたと目される緑風会の各議員は殆んど入場し、一応会議のための定足数こそ充たしていたものの、一方、野党である社会党議員は、当時議運委などが開かれず、従つて、野党としての立場上、何時本会議が開かれるかも予知しえない状態にあつたという事情も加わつて、その大部分が右議場閉鎖に至るまでの短かい時間内に入場を果しえず、議場外に取り残され、事実上、同党議員については、その審議参加の機会もしくは表決権行使の機会が失なわれる結果となり、また、それがため、同被告人らにおいては、他の社会党議員と同様、当時の緊迫した参議院内の情勢下にあつて、閉鎖中の議場内で現に行なわれている議事もしくはその後の議事経過に予測しえないものがある、と感じて、強い不信感に駆られたところから、それぞれ閉鎖中の議場内にあえて入場し、被告人亀田においてはー中略ー、事実上失なわれる結果となつた審議参加の機会もしくは表決権行使の機会の回復をうるため、ー中略ー議院運営の適正を期さんとしたものにほかならないから、これがいわば政治的な意味においてはその立場を異にすることによつて自ずから評価を別にするであろうことはさておき、行為の動機、目的としては、やはりこれを正当なものとして是認しなければならない。
 次に、その際の同被告人らの行為の具体的な態様は、前叙において詳細に認定したとおりであり、いずれも外見上有形力の施用と目すべきものであるが、その程度は、まことに軽微であつて、これが同次長もしくは右佐藤宏に対してことさら危害を加えようというがごとき性質のものでないことはもとより、同被告人らは、その間それぞれ、同次長もしくは同議長に対する抗議ないし議事中止の進言を終始つづけており、ー中略ー、その身体に対する侵害の度合が低いこと、をあわせかんがみれば、その手段において未だ止むをえない限度を逸脱していないものと認むべきである。

まとめると

  1. 参議院議員の院内の広義の政治活動は個人的犯罪の場合と異なる判断過程を経て刑法的評価が加えられる。
  2. 野党の審議参加の機会、評決権行使の機会が不当に奪われた
  3. 行為の動機、目的は、失われた審議参加の機会、評決権を回復するため議院運営の適正を期するため
  4. 行為の具体的態様は、有形力の行使であるも軽微であって、危害を加えようとするようなものではなかった

山本太郎議員の場合はどうでしょうか?

確かに、行為の具体的態様は相手に危害を加えようとするものではなかったと思われます。しかし、審議参加の機会や評決権行使の機会が不当に奪われた事実はなく、それを回復するための行為として暴行が行われたということではないということが明らかです。

したがって、山本太郎議員には超法規的違法性阻却事由が存在しないと言えると思います。

国会の自律権・免責特権・議院警察権との関係

この先は、そもそも裁判で扱うことができるかどうかの話です。

既に上記記事で書いてますが、改めて本件について言及します。

国会の自律権について

憲法58条に国会の自律権が規定されているため、国会内での行為は司法審査の対象にならないという主張がありましたが、国会乱闘事件では司法審査の対象となると判示されました。

山本太郎議員の行為は有形力の行使なので、国会乱闘事件と同様、司法審査の対象になることが明らかだと思いましたので、既述の通り検討しています。

免責特権について

国会議員の免責特権(憲法51条)について

本条の免責特権が前述のような立法の目的および趣旨によつて国会議員に付与されたものであることに鑑みるときは、その特権の対象たる行為は同条に列挙された演説、討論または表決等の本来の行為そのものに限定せらるべきものではなく、議員の国会における意見の表明とみられる行為にまで拡大される

このような判断基準がありますが、山本太郎議員の行為が意見の表明とみられる行為でないということは明らかではないでしょうか?

議院警察権との関係

東京地方裁判所昭和31年(刑わ)第3143号 公務執行妨害被告事件 昭和37年1月22日

この告発は政府与党ならびに自由党側議員から為されたもので社会党議員はその告発者中に包含されていないから決して参議院自身の告発ということはできないが、斯の如き多数の国会議員によつてその告発の意思表示が為された以上、検察庁がこれに基き捜査を遂げた結果起訴するに至つたのはむしろ当然であつて、その間なんらの手続上の違法はないものといわなければならない。

国会法114条では議長に議院警察権が認められていることから、議長が何ら警察権を行使していないのに起訴することは許されないとする主張が過去になされました。

しかし、それも否定されています。 

したがって、議長の意思とは無関係に、国会議員が多数、告発の意思表示をすれば確実に検察は受理するということです。国会議員1人や数人程度で議院警察権との競合をクリアするかは不明ですが、必ず排除されるとも言えないということがわかります。

IR法案採決時の行為の懲罰動議について

上記記事では、過去に懲罰動議が出され、懲罰委員会で議事録化された事案について、除名処分となった事件を紹介しています。

除名処分となった事案ですら、暴行行為はありませんでした。

通常は議院内での暴行は除名処分となるべきですが、懲罰動議すらあがらないとしたら、与党は野党に何か後ろ暗いものを感じているか、何かを握られているか、ただ度胸が無いだけです。 

まとめ:公務執行妨害、威力業務妨害、懲罰動議

山本太郎IR法案暴行妨害

  1. 山本太郎議員の行為は公務執行妨害・威力業務妨害の構成要件に該当する
  2. 山本太郎議員には超法規的違法性阻却事由は存在しない
  3. よって、山本太郎議員は公務執行妨害又は威力業務妨害の罪を負うのではないか
  4. 国会議員が覚悟を持てば、告発・懲罰動議のいずれも可能

イギリス議会ではソードラインが設定されているということを知らない人は居ないでしょう。議会では言い争いをしても決して暴力に出てはいけないという理念を表したものです。

今回の事例を何らのお咎めなしにしてしまえば、議会制民主主義の秩序が保てなくなります。最終的には、テロリストによる議事妨害も可能になってしまうのではないでしょうか。

そして、上記画像にはカメラマンが山本太郎議員の行為を真正面から写していますが、妨害の瞬間をどこか流しているでしょうか?なぜ、この場面を報道しないのでしょうか?

以上