イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

主要サブスクサービスの年間チャートを比較する

『発表!今年イチバン聴いた歌~年間ミュージックアワード 2024~』(日本テレビ 12月28日放送)は今回が3回目でしたが、以前からの問題点は今回も解決されていません。

<『発表!今年イチバン聴いた歌 年間ミュージックアワード2023』への疑問点>

① ”アワード”と名乗りながらも音楽賞ではない

② そもそも基礎となるチャートに違和感がある

③ サブスクでヒットしたとは言い難い歌手の出演が目立つ

④ 音楽賞と名乗りながらテレビ局のカラーが強い

⑤ サブスクヒットを紹介する番組ながら、サブスク未解禁曲が披露されている

たとえば③については、年間チャートが過去曲やバンド/シンガーソングライターの比重が大きい一方で出演歌手はアイドル/ダンスボーカルグループが多く、また過去曲をパフォーマンスした歌手で年間チャート未ランクインの方が多い状況です。そして今年も田原俊彦さんが登場しましたが、サブスク解禁環境は昨年と変わっていません。

加えて、紹介するチャートがApple MusicからSpotifyに変わったことと、それについてのアナウンスがなかったことに強い違和感を抱いています。各サブスクサービスの中でもランクイン曲に強い特長がみられるSpotifyを用いた理由は、ともすれば番組へのCM供給等が背景にあったのかもしれませんが、それでもApple Musicより偏りが目立つと考えるSpotifyに移行したことを疑問視しています。

 

以前から提案している内容が一向に叶わないことを残念に思いますが、今回はこの番組をきっかけに今一度、日本の主要サブスクサービスであるApple Music、SpotifyおよびLINE MUSICの年間チャートを、ビルボードジャパンのチャートも含めて表にまとめてみました。

 

 

2024年度ビルボードジャパン年間ソングチャート、総合およびStreaming Songsチャート、ならびに主要サブスクサービスの順位を記した表を掲載します。対象となるチャートはこちらで確認できます。

・ビルボードジャパン総合ソングチャート

 (集計期間:2023年11月27日~2024年11月24日)

・ビルボードジャパンStreaming Songsチャート

 (集計期間:2023年11月27日~2024年11月24日)

・Apple Music年間チャート

 (集計期間:不明)

・Spotify年間チャート

 (集計期間:不明)

・LINE MUSIC年間チャート

 (集計期間:2024年1月1日〜11月12日)

 

『発表!今年イチバン聴いた歌~年間ミュージックアワード 2024~』ではSpotifyの集計期間が掲載されていないことを疑問視していたのですが、主要サブスクサービスのうちLINE MUSICのみが明示されており(しかし集計期間は10ヶ月半と短いのですが)、そしてApple MusicやSpotifyは未表示のままです。さらにApple Musicの年間チャートについては記事化されておらず、サブスクサービス側の発信姿勢に疑問を抱きます。

 

では、各チャートの上位100曲について、ビルボードジャパン総合ソングチャートを基軸とする形でまとめた表を掲載します。

 

ここから感じたのは、各サブスクサービスの年間チャートがビルボードジャパンの年間Streaming Songsチャートと乖離する部分があること、そしてSpotifyと他のサブスクサービスとの乖離が目立つということです。これらについて、まずは"50位の壁"等Spotifyならではの特性を押さえる必要があります。

一方、LINE MUSICには再生キャンペーンが存在し、特にコアファンの熱量が高い男性アイドルやダンスボーカルグループの採用曲は企画開催期間中に上位に進出します。たとえば11月の月間チャート(→こちら)でも採用曲が強さを発揮しているものの、ライト層を伴わない作品は企画終了後に急落、年間単位ではキャンペーン採用曲が上位に進出できていません。それによりLINE MUSICはApple Musicに近くなったといえるでしょう。

 

そのLINE MUSIC再生キャンペーンはある種の"推し活"と形容可能なものです。しかしながら一定再生回数をクリアしたユーザーにプレゼントが当たる、もしくは全員にもらえるというプレミア感がコアファンにとって優先され、キャンペーン終了後の再生回数急落状況からは推し活という感覚が高くないものと考えます。なおLINE MUSICは、どの曲を何回再生したかが可視化されているゆえキャンペーンを行える仕様となっています。

一方で近年はStationheadの活用に伴い、Spotify、およびApple Musicで推し活対象曲の再生回数が伸びる傾向にあります。サブスクサービスと連動したStationheadにてホストが番組を流すとリスナー共々再生分がカウントされるという仕組みに伴い、デイリー200位までの再生回数が可視化されるSpotifyの順位に特に大きく反映されます。歌手側も番組を用意することが増えましたが、その最大の成功例はNumber_iでしょう。

コアファンの熱量の高さは、Number_iによる「GOAT」「BON」「INZM」および「HIRAKEGOMA」が日本のSpotifyデイリーチャートで50位以内をキープする要因と捉えています。そしてNumber_i側が用意したStationheadキャンペーンでは最終日となる昨日、新曲の存在と次の情報解禁日が公開。このような施策が歌手とコアファンの関係性を強化し、推し活熱をさらに高めているといえるでしょう。

 

一方で、Number_iによる今年最大のヒット曲「GOAT」は、Spotifyと他のサブスクサービスとでかなり大きな乖離が生じています。このブログにて基本的に毎週金曜掲載している"CHART insightからヒットを読む"カテゴリーのエントリーにて掲載する表からもみえていたことですが、年間単位でも乖離が可視化されたことでビルボードジャパンがチャートポリシー(集計方法)見直しを議論する必要があるとあらためて感じています。

・前週のトップ10初登場曲、当週のCHART insightから真のヒット曲に成るかを読む (2024年12月25日公開分)(12月27日付)より

Spotify年間チャートに登場したBTSのソロ曲であるJIMIN「Who」やV「Love Me Again」においてもこの乖離がみられていました(尤もこの2曲についてはNumber_iとも異なるチャートアクションを示していたと捉えています)。またBE:FIRSTによる「Boom Boom Back」や「Masterplan」でも、(Spotifyでの順位は50位未満ですが)他のサブスクサービスと乖離が確認できます。

他方、Apple MusicやLINE MUSICによる年間チャートではBAD HOPの曲が複数ランクインし、LINE MUSICではちゃんみなさんが2曲を年間50位以内に送り込んでいます。ここからは日本でのヒップホップ人気が見て取れる一方、Spotify以外でNumber_iやBE:FIRSTが100位以内未達の状況から、"アイドルやダンスボーカルグループ曲がヒップホップとして受け入れられているというわけではないのでは"という疑問が浮かんだ次第です。

 

 

他にも、新曲が素早く上昇するわけではない、またヒップホップに加えてアイドルソングも他サービスに比べて上位に進出しにくい特性が挙げられるSpotifyは、そのチャート動向が保守的だと感じています。一方でSpotifyは推し活が反映されやすいサービスではあるものの、新曲がリリースされればそちらの作品に推し活は移行する傾向にあるため、コアファンに成り得るライト層にリーチすることが課題だと考えます。

Number_iがサブスクサービス間の乖離が大きいゆえ今回メインで言及していますが、ヒップホップ色が強いならばBAD HOPやちゃんみなさんのファンに浸透させていくことが必要でしょう。同じくBE:FIRSTは、所属組織によるオーディションをちゃんみなさんが担当している以上、ちゃんみなさんのコアファンに訴求することも重要だと考えます。

 

無論、Spotify側が自身の特性をいい意味で薄めていくこと、またSpotifyのデータを用いるビルボードジャパンがStationhead効果について定期的に議論を行い、チャートポリシーを見直すか考え続けることも必要です。そして今回の比較で乖離が大きいと判明したSpotifyにデータ提供基を切り替えた『発表!今年イチバン聴いた歌~年間ミュージックアワード 2024~』の姿勢には、切り替えの未アナウンスも含め違和感は拭えません。

そもそもの話として、どのサブスクサービスも特性による偏りがある以上、『発表!今年イチバン聴いた歌~年間ミュージックアワード 2024~』にはビルボードジャパンの年間チャート、総合ソングチャートが難しければStreaming Songsチャートを用いることを勧めます。