【日時】2023.12.23.(土)14:00〜
【会場】横浜さくらホール
【出演】鈴木理恵子(Vn.)若林顕(Pf.)
鈴木理恵子
<Profile>
桐朋学園大学卒業後、23歳で新日本フィル副コンサート・ミストレスに就任。2004年より約10年間、読売日本交響楽団の客員コンサートマスターを務めた。これまでに篠崎功子、H.シェリング、N.ミルシタイン、M.シュヴァルベの各氏に師事。1997年からはソロを中心に活動。全国各地でのリサイタルの他、主要オーケストラとも多数共演。また著名な作曲家からの信頼が厚く、多くの作品の初演に指名を受けている。ソロCD「ヴィヴァルディ:四季」をはじめ、「レスピーギ&フランク:ヴァイオリン・ソナタ」など若林顕とのデュオ等、これまでに11枚のCDを発売、いずれも絶賛を博している。2008年から横浜と掛川で、音楽とアートがジャンルを超えて交わる「ビヨンド・ザ・ボーダー音楽祭」を自らプロデュース。斬新な内容が各界で評価されている。ソリストとしてはハンガリーのソルノク市響やジュール・フィルとの共演、デュオ・リサイタル(スウェーデン、ドイツ)、デュオ・トリオ(フランス)等、ヨーロッパにも活動の場を広げている。
若林顕
<Profile>
日本を代表するヴィルトゥオーゾ・ピアニスト。ベルリン芸術大学などで研鑽を積む。20歳でブゾーニ国際ピアノ・コンクール第2位、22歳でエリーザベト王妃国際コンクール第2位の快挙を果たし、一躍脚光を浴びた。その後N響やベルリン響、サンクトペテルブルク響といった国内外の名門オーケストラやロジェストヴェンスキーら巨匠との共演、国内外での室内楽やソロ・リサイタル等、現在に至るまで常に第一線で活躍し続けている。リリースした多くのCDがレコード芸術・特選盤となり、極めて高い評価を受け続けている。2014年、2016年(サントリーホール)、2020年(東京芸術劇場コンサートホール)でソロ・リサイタルを行い、また2023年から「魔弾のピアニスト」リサイタル・シリーズ(同コンサートホール)を開始、Vol.1(5月)は大成功を収めた。自身では3回目となる「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全曲シリーズ」を2017年に完結し、2018年より2022年まで「ショパン:ピアノ作品全曲シリーズ」を行った。第3回出光音楽賞、第10回モービル音楽賞奨励賞、第6回ホテルオークラ賞受賞。
【曲目】
①W.A.モーツァルト『ヴァイオリン・ソナタ 第22番 イ長調 K.305 』
(曲について)
1778年の夏にパリで作曲されたソナタの一つで、「パリ・ソナタ」の5曲目にあたる作品である。夏ではなく、2月に作曲されたとも言われている。 この作品の形式は古風なものだが、「二重奏」的な性格が以前から強くなっており、ヴァイオリンが曲中で重要な旋律をまかされている。コンパクトなつくりであるが、起伏の豊かな表現が印象に残る作品。
②F.クライスラー『愛の悲しみ』
(曲について)
1905年に出版された、フリッツ・クライスラー作の、ヴァイオリンとピアノのための楽曲。「愛の喜び」(Liebesfreud) と1対になる曲で、さらに「美しきロスマリン」(Schön Rosmarin) を加えて3部作「ウィーン古典舞曲集(英語版)」(Alt-Wiener Tanzweisen) とされる。
一見簡単な演奏でありながら、独特の情感を発揮させるなど、ヴァイオリニストには必携の演目といわれます。
③ 同上 『中国の太鼓』
(曲について)
1910年、クライスラーが自らの演奏会で演奏するために書いた小品が「中国の太鼓」です。曲は、伴奏のピアノが太鼓を模した同じ音の連打で始まり、その上でヴァイオリンが中国風で軽やかなメロディーを奏でる主部でスタートし、中間部は、中国の伝統楽器の模倣のような、ゆったりとした旋律がヴァイオリンパートに現れます。再び、冒頭と同じ軽快なパッセージが回帰して、最後は軽い足取りで遁走するようなユーモラスな表現で終わる・・・という4分に満たない小品です。
④A.ドヴォルザーク『我が母の教え給いし歌』
(曲について)
基はドヴォルザークの歌曲集に乗った作品ですが、後にクライスラーによってヴァイオリンとピアノ版に編曲されました。この歌曲集「我が母の教えたまいし歌」(わが母のおしえたまいしうた、チェコ語:Kdyz mne stará matka)は、アントニン・ドヴォルザークが1880年にチェコの詩人アドルフ・ハイドゥークのチェコ語とドイツ語の詩集に作曲した作品55《ジプシー歌曲集》(Zigeunermelodien)の第4曲です。同曲集の中で、またドヴォルザークの歌曲の中では最も有名となりました。
⑤ベートーヴェン『ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.61
(曲について)
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが1806年に作曲したヴァイオリンと管弦楽のための協奏曲でありベートーヴェン中期を代表する傑作の1つ。彼はヴァイオリンと管弦楽のための作品を他に3曲残している。2曲の小作品「ロマンス(作品40および作品50)」と第1楽章の途中で未完に終わったハ長調の協奏曲(WoO 5、1790-92年)がそれにあたり、完成した「協奏曲」は本作品1作品しかない。しかしその完成度はすばらしく、『ヴァイオリン協奏曲の王者』とも、あるいはメンデルスゾーンの作品64、ブラームスの作品77の作品とともに『三大ヴァイオリン協奏曲』とも称される。 この作品は同時期の交響曲第4番やピアノ協奏曲第4番にも通ずる叙情豊かな作品で伸びやかな表情が印象的であるが、これにはヨゼフィーネ・フォン・ダイム伯爵未亡人との恋愛が影響しているとも言われる。
【演奏の模様】
今回演奏されたのは、何れも古典的な代表作若しくは有名曲がほとんどで、どれを聴いても懐かしさ、過去の思い出などが思い浮かぶ曲ばかりでした。
①W.A.モーツァルト『ヴァイオリン・ソナタ 第22番 イ長調 K.305 』
全二楽章構成
第1楽章Allegro di molto
第2楽章Thema.Andante grazioso-Variations Ⅰ-V-Variation-Variation Ⅵ.Alegro
Pf.とVn.の斉奏が速いテンポで勢いよく入りました。Pf.の合いの手の弱音演奏が、いい響きで音を立て、Vn.の高音パッセッジが高々と鳴らす調べの次には二方の主従は入れ代わり、Vn.のキザミ伴奏で、Pf.が旋律を奏で、入れ代わってVn.が旋律奏を演じ、Pf.はキザミでVn,が旋律といった具合は、一旦斉奏の後のPf,の合いの手がとても美しい。Vn.が重量感のある力の籠った調べを立てていました。一貫してPf.パートが素晴らしい楽章でした。
第2楽章はPf.先導で開始し、Vn.が低音で従いました。Pf.の旋律奏に対し従属的なVn.の演奏。速いパッセッジでPf.はカデンツア的演奏をし、次いでVn.がテーマ奏を行い、同一テーマをPf.とVn.が同一旋律で掛け合いのでした。Vn.先行でカノン的にPf.演奏と進行、後半のVn.旋律は洗練された素晴らしい曲で、それを鈴木さんは、朗々と鳴り響かせていました。
②F.クライスラー『愛の悲しみ』
Vn.の太い堂々とした調べが流れ、三拍子に乗って、ヴァイオリンは憂いを帯びた旋律を奏で始めました。変化のあるうねりも堂に入っている。低音弦の高音位置で高い音を奏でることで独特の渋い効果を上げ、中間部は落ち着いた中にフランジオレットの技があり、高音で叫ぶほどの悲しみを、次いで低音部では海の如く深い悲しみを感じる様でした。 技巧的にも十分な演奏。
③ 同上 『中国の太鼓』
太鼓の音を模したPf,の連打に続きVn.の軽快な速いパッセジが続きました。後半の緩い旋律も安定していて、高音域の速い旋律の滑るが如き演奏テクニックも十分でした。再度繰り返しに戻ったVn.はせり上がる速いパッセッジを急速に駆け上がってポンポンポンポンポンポンで終了。
④A.ドヴォルザーク『我が母の教え給いし歌』
この旋律は多くの人がいつかどこかで聴いた事のあるメロディーだと思うでしょう。今は亡き佐藤しのぶさんがオーケストラ背景に歌っていたのを思い出します。歌の間奏にコンマス(マロさんでした)のソロが入ったのですが、歌共々しみじみと印象深い曲でした。今日のDUO演奏は、鈴木さんの低音領域での旋律が深々と分厚い響きを立て、若林さんのPf.の合いの手ソロは息がぴったり合って、お二方とも心で演奏していました、歌の意味を噛みしめる様に。雰囲気がよく醸し出されていました。マーラーの「亡き子を偲ぶ歌」に近い雰囲気かな。
<参考>
ドイツ語の歌詞
Als die alte Mutter mich noch lehrte singen,tränen in den Wimpern gar so oft ihr hingen. Jetzt, wo ich die Kleinen selber üb im Sange,rieselt's in den Bart oft, rieselt's oft von der braunen Wange.
日本語訳
老いた母が歌を教えてくれた時時々涙を浮かべていた、今 ジプシーの子らに歌を教えながら私の褐色の肌にも涙がこぼれ落ちる。
⑤ベートーヴェン『ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.61 ピアノ伴奏版
これは同ヴァイオリン協奏曲のオーケストラ部分がピアノ演奏用に編曲された版です。トークで説明していましたが、多分若林さんが編曲したのかな?良く聞き取れませんでした。
全三楽章構成。
第1楽章Allegro ma non tropo
第2楽章Larghetto
第3楽章Londo allegro
前奏部分はすべてピアノ演奏、結構長いのですが良く雰囲気は出ていた編曲でした。若林さんの演奏は力強くもあり、繊細な表現も有り、素晴らしい表現力でした。オケ演奏の雰囲気は十分感じ取れました。そして鈴木さんのVn.演奏が入ります。くねくねくねと高音に至り、伸びのある音です。Vn.トレモロ⇒Pf.伴奏⇒高音の調べへとくねくねせり上がるVn.奏、悠々と弾いています。若林さんはオケのツボを心得ている様子。Pf.オケの中間奏が続いた後Vn.が入り、クネクネクネと演奏する鈴木さんは、音程も安定していて、完全無謬とも言える弓捌きです。次の重音演奏の冒頭こそやや不安定になったきらいはありますがそれも愛嬌、続く重音カデンツァは素晴らしく、速いテンポで力を込めて弾いていました。Pf.オケが弱音(アンサンブル=ピアノの和音表現)演奏するとVn.も静かな演奏で応じていて、次第にクレッシエンドする両者は1楽章終焉目掛けて駆け抜けるのでした。
第2楽章はPf.の静かな調べで入りました。Vn.も静かに静かに続きます。
非常に高い音程、ハモニックス音も立てられ最高音部は緩やかに演奏、次第に激しさを増すPf.オケとVn.独奏、両者とも力強さは微塵も失われていません。
Vn.はクネクネクネと美しい音を立てて弾きその流れは連綿と続きました。その間Pf.オケはポツポツと弱音演奏で寄り添っていました。この辺りもカデンツァに相当するのかな?
とにかく、静かで穏やかな楽章であり、Vn.のきらびやかさを顕示する上で若林さんのPf.オケは良く寄り添って演奏していたと思います。最後アタッカで第3楽章へ移りました。第3楽章でもヴァイオリンの勢いは留まらず、鈴木さんは力も十分残っている様子、重音演奏も最後のカデンツァも余力を残しているといった風に見えました。
い演奏を聴きました。最後は中ホールの2/3程入った観客から、絶大な拍手と「ブラボー」の垂れ幕を両手で広げるかぶりつきの観客もいる程の熱狂ぶりでした。当初いつもの若林さんのピアノリサイタルに奥様の鈴木さんが入った演奏もあるのかなと思って聞きに行ったのですが、そうではなく、さながら鈴木理恵子リサイタルの様相でした。鈴木さんの演奏は初めて聴きましたが、最近聴く機会が結構ある若手のコンクール入賞記念演奏などとは違った大人の演奏、一朝一夕には成し得ない十分に熟れた音色と演奏表現力を有するベテランヴァイオリニストという印象その物でした。これは恐らくご主人の若林さんのあらゆる意味での支えが有って初めてなし得たものだと想像を膨らませた演奏会でした。(その意味からも「愛の悲しみ」のみでなく「愛の喜び」も聴いてみたい気がしました。)
尚アンコール演奏があり、
《アンコール曲》バッハ『アヴェ・マリア』
でした。
丁度クリスマスの時期なので、と鈴木さんからの話しがありました。そう、翌日曜日は、クリスマス・イヴですね。拙宅でもキリスト信者でもないのに、多くの日本の人々と同様、ケーキやチキン(それから、今年は、何も手造りはしないで、お寿司を買うと上さんは言っていました。)で祝います。